第35話「爆破で稼ぎまくる」

「うわぁ、めちゃくちゃ本格的な爆弾だよ」


 片手サイズ大の爆弾を2個手渡されたエリックはまじまじと見つめてからバッグへと詰め込む。

 遠隔操作で爆破できる仕様で、いつフランが裏切って爆破してきてもおかしくない状況は恐怖でしかなかったが、フランの最大限の効果をあげようとする効率厨的な性格なら、ここでの爆破は行わないだろうという僅かな信頼に背中を預ける。


「さてと、それじゃ、誰にも見つからないように索敵しながら、壁を登りますか」


 人目につかないようにホテルの裏路地に入り込み、そこからまるで重力を無視しているかのごとく、壁を登り始めた。


 人の気配がする度に、身を隠して行きつつ、なんとか誰にも見つからず屋上にまで到達する。


「ふぅ、こんなの俺以外じゃ無理だ……、えっと、おじゃましました~」


 屋上には居ても2~3人程度だと思っていたが、そこには10人以上の洗脳された冒険者が。


「作戦は失敗っ!! 勝手にプランBへ移行するよっ!!」


 冒険者によって振り下ろされた凶刃を避けつつ、エリックはフランから事前に渡されていた通信機に話かけながら、屋上より一つ下の窓をぶち破り、最上階へ突入する。

 最上階はVIPルームになっており、今まで見たことないような豪華絢爛な内装。

 そんな部屋に容赦なく爆弾をひとつ隠し、そのまま反対の部屋を目指す。

 ダンジョン吸血鬼がどこに居ても良いようにこの階全てを爆破すべくエリックは動く。


 道中出会う冒険者には手を出さず、壁や天井を走り抜け、反対の客室に爆弾を設置。

 さらに自身を囮にしつつ、階段へ。


 流石のエリックも十数人の冒険者から無傷という訳にもいかず、腕や体には斬られた跡や血痕が残るが傷自体はすぐに回復し、見た目だけなら服以外は無傷ではあった。


 エリックは流れ出た血を気にしないようにしながら、上から冒険者の女性たちが追いかけて降りてくることを確認しつつ、引き付けながら階下へ向かう。


「これで俺が一番下に行ったら爆破してくれ!」


 もともとの予定通り囮になりながら、1Fを目指す。


 階段での冒険者達の立ち回りはお粗末なもので、その単純な行動を回避しながら階段を降りていくのはエリックにとって容易なことであった。


 半分程下りた頃、前からも冒険者が現れるが、落ちるように階段を降りて戦闘自体を回避する。


 闇雲に階段を降りていき、気づけば残り数階。

 ここまでくれば爆破に巻き込まれることもないだろうと、そのまま階段を飛び降りて1Fへ着地。


「良し。1Fについた!」


 自分に対して言った言葉は通信機からフランに繋がり、結果――。

 次の瞬間最上階が爆破される。


「待って! ゴメン!! 独り言っ!!」


 凄まじい轟音と振動。

 エリックですら、その場に立っていられない程の揺れ。


「おいおい。どんな爆弾持たせてるんだよ!」


 その爆破で普通ならば主であるダンジョン吸血鬼を心配し上階へ行きそうなものだが、どうやら彼女たちが受けていた命令は、侵入者の排除のようで、変わらずエリックを追い続ける。


「オーケー。そういう穴だらけなところはダンジョン吸血鬼っぽくていいね。作戦立案は所詮、エリートのは敵わないってところだ」


(ヤベー! このタイミングの爆破だと、何人か上に上がってしまう可能性があったよ! ちゃんと、階段を封鎖してから爆破してもらおうと思ってたのに。で、でも誰も戻らなそうだし、マジで良かった~)


 内心この状況に安堵しながら、改めて自身を襲おうとする冒険者達を見る。


 エリックは、迫りくる洗脳冒険者達を前に不敵な笑みを浮かべた。その口元には牙がしっかりと伸びていた。


「来いよ。吸血鬼としての格の違いを教えてやる」


 エリックはハーモニカを取り出すと、鋭角なイメージのある子守唄を吹き鳴らした。

 

 ハーモニカを吹く途中でも襲い掛かってくるが、階段から抜け出し、1Fフロントに出たエリックはことごとくかわしていく。

 広さが確立されたことで、向こうも銃弾を雨あられと撃ちまくるが、特に意に介さず、いくらかの銃弾は受けながらもフロントのカウンターを盾にしてやり過ごす。


 しばらく、エリックが回避と演奏に専念していると、次第に銃声は少なくなり、代わりに小さな寝息が目立つようになってきた。


「この大人数、すぐに洗脳を解くのは無理だから、とりあえず寝といて。さて、あとはホリィは上手くやってるかな?」

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