第34話「作戦会議で稼ぎまくる」
逃走経路をさらに深く練り直したエリックは、約束の1週間後になり、フランに呼び出された。
フランとホリィが拠点にしている教会に着くと、さっそく作戦会議が行われた。
正面の壁にはプロジェクターによって、例のダンジョン吸血鬼が潜伏されていると思しきホテルの全景が映し出される。
全体を青色を基調とした高級感溢れる6F建てのホテル。
海が見える大浴場と海鮮料理が売りとなっている。
昨今では冒険者御用達となっており、もともと海沿いということもあり、地震・津波対策で強固な作りになっており多少の荒事ではビクともしない。
「ダンジョン吸血鬼が巣くっていると目されるホテルは冒険者御用達でその堅牢さはかなりのものです。倒壊させるにはかなりの爆薬が必要で、周囲への被害を考えると難しいです。なので、残念ながら爆破して一気に叩くという方法が使えません」
さも当然と言わんばかりにまず爆破案が使えないことを提示する。次いで、
「さらに近隣にも建物が多く立ち並んでいるので、焼き尽くすという方法も、罪のない市民が犠牲になってしまうので却下させていただきますね」
優しい口調のフランだが、そもそもの前提が狂っている。
「ですが、1Fから馬鹿正直に正面突破というのは芸がないですし、なにより相手の思いのままというのは癪ですよね」
「まぁ、それは確かに。でも、それ以外方法はないのでは?」
「ところで、伊東屋さんは吸血鬼が居るとしたらどのあたりにいると思いますか?」
「へっ? ダンジョン吸血鬼のことですよね。それなら最上階じゃないですか? 無駄なプライドがあるタイプのように見えましたし、高い所好きそうですし」
「ええ、私も同意見です。というわけで」
フランはぽんっと手を叩き、にっこりとほほ笑む。
が、しかし、その笑みを見たエリックは全身に鳥肌が立ち、悪寒を覚える。
「建物自体は爆破出来ないですけど、最上階近くは思い切って爆破しちゃいましょう」
フランの作戦は、日中にエリックが壁を登り屋上まで到達し爆弾を設置。
そして爆破。
爆破と共にホリィが空から、エリックは壁から中に侵入し、日光というアドバンテージを得ながらダンジョン吸血鬼を葬るという作戦だった。
「えっと、なんで、俺が爆弾設置?」
「それはですね。たぶん、屋上にも見張りは居るでしょうし、十中八九操られているでしょうから、洗脳を解きつつ倒せるのは伊東屋さんしかいないからです」
「なるほど。ただ、その作戦だと、そのときたまたま最上階付近にいた人も死ぬんじゃ」
「平和に犠牲は付き物です。あえて殺すのではなく、運悪く亡くなるのでしたら、それは神の思し召し。避けることのできない運命でしょう」
「いやいや、ダメだろ。ホリィもそう思うだろっ!?」
エリックはそこでホリィに話を振ると、
「そうね。師匠の言うことは常に正しいけれど、今回は伊東エリックの言う通りね。これじゃあ、アタシじゃなくて伊東エリックが倒したってことになっちゃいそう! それはダメよ。せめて、伊東エリックが爆破前に囮として正面から突破しようとする。その間にアタシがあ死体にトドメを刺すって言う方が聖女らしいと思うの」
「あれれ~? なんか、俺の難易度上がってない? しかも、死体になっている時点でトドメ刺さってんのよ。死体蹴りするなよっ!」
そんなエリックの言葉は聞こえていないように、フランはほほ笑む。
「そうね。確かに、今回は確実な方法を取ろうとしてしまったわ。そのあとに控えているもう一体の吸血鬼を消耗させるところまで考えていなかったわ。成長したわね。ホリィ!」
人間に取っては感動の瞬間である。モンスターにとっては絶望の瞬間であった。
「さらっと、俺のことを消しに掛かってるよねっ!! え? この作戦拒否していい?」
「あら~、そうよね。ちゃんと洗脳されている市民も大事に思う伊東屋さんはこの作戦に反対ですか? それなら、仕方ないですねぇ。当初の予定通り、屋上を爆破しましょう。ちょっと火薬の量を間違えて、余計な被害がでないといいのですが」
「見知らぬ冒険者を盾にするなっ! くそ! そっちにとっては見知らない相手でも俺にとっては大事な客の可能性が高いんだぞっ!! どっちがモンスターか分からないな!」
「ありがとうございます。伊東屋さんならそう言ってくれると思っていました~」
こうして作戦の概要が決まり、さっそく決行することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます