第32話「吸血鬼のアジトで稼ぎまくる」

 エリックは負債に頭を抱えながらも、もう一つの目的を果たさねばならなかった。


「こっちを反故にすると抱える頭もなくなるからな」


 それは、街に潜伏するダンジョン吸血鬼の排除であった。

 ダンジョン吸血鬼の大まかな場所は把握しており、その周辺の怪しい場所を執事のグレイに調べさせていた。


 その情報も請求書と共にiPadに送られて来ていた。


「ふ~ん。ダンジョンに入っていた冒険者御用達のホテルねぇ」


 グレイからの情報によれば、今まではそのホテルは冒険者で賑い、頻繁にダンジョンへの出入りが確認されていたが、現在は賑いはそのままだがダンジョンへと入る冒険者の数が激減しているという。

 それくらいしかおかしいところはなく、普段であれば、ダンジョンが新たに8Fが攻略されたこともあり、ダンジョンでの素材の価格変動とか、8Fのロック鳥を狩る為の整備期間とかそういう要因でダンジョンに入るのを渋っていると思うところだが。


「そういった変動もなし。まぁ、そもそも俺の耳にそういう情報が入ってないことから、その線はそもそもなかったな」


 それなのに、この変化は確かに怪しいと思わざるを得なかった。


「でも、これって、ダンジョンに入るような戦闘力自慢のところに突っ込んで、その中から吸血鬼を探して殺さないといけないんだよな。そんなん映画の主人公にしかできないぞ。まぁ、今回は映画の主人公並みのがいるんだけどさ」


 ワイバーン戦での傷も癒え、完全な状態のエリックとホリィならば、この条件の吸血鬼を殺すことも可能だと判断はしたが、エリックはさらにもう一つ考えなくてはいけないことがあり、この情報を伝えることを渋っていた。


「グレイ、ここから脱出するにはどうすればいい?」


「そんな弱気でどうしますか? ダンジョンの吸血鬼程度軽く殺してきてくださいな」


「いや、それはもちろんだけど。ほら、聖女と行くと、その後も気をつけないといけないだろ。ゴブリンやワイバーンのときは、ダンジョン吸血鬼を排除したら決着をつけるという約束があったから、バカマジメに聖女は約束を守ってくれたけど、今回はその約束が外れる訳だ。全快の状態で聖女と戦えるならまだしも、どうなっているかわからないだろ。なら逃げるだろ普通」


「ふむ。でしたら、屋上から飛び降りるのはいかがですか?」


「死んじゃうよ? いや、死なないけど、めっちゃ痛いだろうし、起きるのが遅れたら、そのまま殺されそうじゃないか?」


「ご安心を。死体は私が下水へ逃がしておきますので」


「最悪の助け方だな。いや、グレイが本気で言ってくれているのは分かるし、その方法は結構確実だったりするけどさ。ほら、イメージとかあるじゃん。エリート的にさ」


「先代は蝙蝠になれたので、そもそも屋上から逃げられたのですが」


「いや、あの性格じゃ、そもそも逃げないでしょ。で、返り討ちに会うパターンだ」


「確かに」


「他には何か方法は?」


「では、倒した後、クールに立ち去るのはどうですか? 有無を言わさぬ雰囲気を出せば案外いけるのではないでしょうか?」


「ああ、カッコイイよな。そういうの。でも、あの聖女に無防備な背中を見せるとか絶対できないんだが。そういう雰囲気とか関係なく、隙だらけだって言って襲ってくる未来しか見えないぞ!」


「私は一度もお会いしたことがないのですが、そこまで人の道から外れているのですか? そういうときは攻撃しないのがお約束では?」


「相手が敵だったら、変身シーンでも容赦なく攻撃してくるね!」


「それは本当に聖女なのですか?」


「わからん。聖女らしさはゼロだ。神からの寵愛も奇跡もないしな。現人神が一番しっくりくる存在だぞ。神に既存のルールなんか当てはまる訳ないだろ!」


「ふ~む。では、いくつか脱出経路を試算したものがあります。本来はダンジョン吸血鬼を逃がさないためのものですが、このマップを頭に叩き入れてお逃げください」


「あ~、それが一番確率高いか。でも、もしダメだったときように、グレイは下水で待機していてくれ」


「かしこまりました。それではフラン様と連絡をつけますね」


「ああ、よろしく。ダンジョン吸血鬼の居場所がわかったと伝えておいてくれ」

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