第28話「胃の中で稼ぎまくる」
「う、う~ん、ここは……」
エリックは生暖かい肉壁の中、激しい振動で目を覚ます。
鼻をつく刺激臭に顔をしかめながら、自身の状況を把握する。
「はぁ、くそっ! 確か、すごい速度で迫って来たワイバーンに食われたんだよな。ホリィがさっさと離してくれていれば食われなかったのにっ! 服もボロボロだし、大損だろ」
エリックの服はいたる所に、ワイバーンの牙が刺さった痕跡があり、ズボンなんかは、ほぼボロボロで短パンのようになっている。
「はぁ、まずは足と腕を探すところからかな」
なんとか切り離されずに残った右手で体のパーツを探していく。
「そもそも、ここって、どこなんだ? 普通に考えれば胃袋になりそうだけど」
その推察通り、体が触れている接地面の肉壁から徐々に液体がしみ出してくる。
「うげっ! ヤバイ、ヤバイ! 早く体を探さないとっ」
エリックは一番近くにあったちぎれた腕を掴むと、肩に押し当てる。
「げぇ、指が足りないんだけど。マジでどこいった?」
それからすぐに見つかる足を繫げ、あとは細々した肉片を探し出すのだが、胃液は次第に多くなり、今はもう腰くらいにまで満ちていた。
「ほぼ復活。多少の肉片はもうこの際、諦めよう。ここはワイバーンの腹の中だし、また音で落としてから出るか」
そうして脱出の手立てを考えていたときだった。
急に膝に力が入らなくなり、そのまま胃液の中へと浸かる。
(な、なにぃぃ!! いったい何が!?)
水中で、足に起きた変化を確認すると、さっきまで千切れてはいたが健康だった足が今は溶けかけ、筋繊維や骨が剥き出しになっている。
(こ、これじゃあ、力が入らないはずだっ!! しかも、この状況はマズイ。さっきまでより数段マズイっ!)
水中では音を出すことが出来ず、そうなると口笛やハーモニカでワイバーンを操ることが出来ない。
そして、なにより、少し漬かっていただけで、この惨状になる胃液に顔までどっぷりと漬かってしまった。
このままでは早急に溶かされ絶命する。
バラバラにされても生きているエリックだが、頭部を破壊されれば死ぬ。
溶かすというのは、ほぼどんなモンスターにも効く攻撃であった。
(考えろっ! どうやったら助かるのかをっ!! 思考放棄は一円にもならないんだ。最後の最後まで生きることを諦めないっ!!)
液中で考え、まずは肉壁にナイフを刺してみようと試みるが、水中ということと、肉壁が思いのほか強靭であり、まったく刃が立たなかった。
(くそっ。やっぱりダメか。この中を泳ぐのはどうだ?)
胃液の中で手を掻くが、足が置いて行かれそうになり、早々に諦めた。
(他に何か方法は……。ダメだ。あの策しか思い浮かばないな)
エリックは少しでも体が胃液に触れないように体を丸めた。
ただ、死ぬまでの時間が伸びるだけの、諦めのような行為に思えたが、これがエリックが考える最善の方法であった。
※
どれくらい時間が過ぎたが分からない。
1分くらいの気もするし、10分は経った気もする。
体は徐々に溶けていくが、まだ頭部はなんとか無事であった。
そんなとき、激しい振動。なんだったら、硬い物体に少し殴られたような気もしたエリックだったが、次の瞬間には胃液がどこかへ流れ出ていく。
「ふぅ。予想としては腹に穴をぶち開けてくれるかと思ったけど、意外に苦戦しているみたいだね。ま、俺の分も残しておいてくれたと思うか」
エリックはハーモニカが壊れていないことを確認すると、ドラゴンを倒す物語の曲を吹き鳴らす。
ワイバーンに自分を飲み込んだことを後悔しながら、
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