第26話「咀嚼で稼ぎまくる?」

 ホリィはふと、視線を上にあげると、そこにはエリックを口に咥えるワイバーンの姿。

 トカゲ頭に蝙蝠のような羽根。鷲のような足。そのどれもが規格外の大きさに禍々しさ。他のワイバーンよりも確実に上位であることがわかるその姿はキングやクイーンという形容が似合う。


 そのワイバーンはホリィと目が会ったと確信すると、ニヤリと笑みを浮かべ、エリックを口中へ。


「ホ、ホリィ……、助け――」


 もぐもぐ。


 数回の咀嚼の後、喉がごくりと動く。


「あ、食われた」


 ワイバーンはニヤニヤとホリィを見下しているのだが、当のホリィは、


「もしかして、他のワイバーンを殺した意趣返しなのかしら? だからアタシじゃなくて、伊東エリックを? まぁ、どの道、殺す予定だったし、遅いか早いかの違いね。それであんな勝ち誇ったような表情をされても」


 真剣に思い悩むが、そこにエリックに関しての配慮はゼロで、ただただワイバーンの行動の不可解さに頭を悩ませていただけだった。


 種族は違えど、さすがにワイバーンもちょっと違ったかなと思ったようで、その表情は次第にニヤニヤ顔から、殺意をむき出しにした表情へと変わっていく。


「でも、伊東エリックがいないのは面倒よね。どうやったら、あの上空にいるのを倒せるのかしら?」


 今度は倒し方で悩んでいると、ワイバーンは今度はホリィ目掛けてその牙を向ける。


「ああ、ラッキー、向こうから来てくれるのね!」


 ホリィはフルスイングは相手のスピードが速すぎて無理だと判断し、鼻っ柱にハンマーが当る位置に置いておきながら、自身は牙から身をかわす。


「ぎゃああああっ!!」


 悲鳴を上げるワイバーンは再び上空へと舞い上がる。

 そして、そのまま逃げるようにどこかへ飛び去って行く。


「えっ!? 嘘。これで勝ち? 伊東エリックの犠牲は無駄じゃなかったわね」


 軽く鼻歌でも歌いながら悠々としていると、ふっと影が差す。


「あ~、やっぱ、あれで終わりじゃないわよね。にしても、どこにそんなのあったのよっ!!」


 珍しく声を荒げて走り出すホリィ。

 上空にはワイバーンが自動車くらいの岩を軽々と持ち、ホリィ目掛け落としてくる。


 一方的に制空権を得たならば、わざわざ地上に降りず、こうして空から攻撃すればいい。

 

 再び、どこからか岩を持って来て、それを落とす。

 基本的だが、これ以上ない程効果的な攻撃に、ホリィは防戦一方になる。


「ボコボコボコボコと落としてきてっ!! いい加減にしなさいよっ!!」


 ホリィは岩を砕くと、こぶし大の岩をノックの要領で打ち上げる。

 ワイバーンの腹部に見事にヒットしたが、その程度では大したダメージではないようで、「埃がついたわ。汚らしい」とでも言うがごとく、ふっと息を吐いて埃を落とす。


「ムカつくわね! あの所作、絶対メスよねっ!」


 今程度の力ではダメだったので、ホリィはさらに全力でハンマーを振るい、こぶし大の岩を打ち出す。

 が、しかし、威力と引き換えに、精度が落ち、ワイバーンに当たることはなかった。


 そうこうしているうちに、ワイバーンもだんだんと焦れてきたのか、別の攻撃方法を試して来た。

 それは、岩を持ったまま、その岩にホリィをぶつけるというものであった。


 奇しくも、ハンマー対天然の岩ハンマーのような構図となる。

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