第20話「人質解放で稼ぎまくる?」

 誰も欠けることなく、自衛隊とエリック、ホリィは9Fへと到達する。


「そういえば、不思議だったんだけど、なんで9Fのゴブリンが人を生贄に出来ていたのだろう?」


 エリックのその問いに、峰岡少尉はギリッと歯を噛みながら、苦々しい表情で答えた。


「ゴブリンがスタンピードを起こすと、恥ずかしながら数体は討ち漏らしが出ます。その後に行方不明者が出ているという報告もありますし、1~7Fまででのゴブリンの目撃情報もありますから、たぶん、そのときに……」


 その少尉の顔は、ダンジョン内での誘拐ならば看過できるが、街へと流出したゴブリンによる被害は決して見過ごすことは出来ず、その原因を作ってしまった自分たちを恥じているようでもあった。


「危険が増えることは承知の上ですが、どうか、もしまだ捕まっている方がいれば、その救出もさせていただきたい」


 帽子を脱ぎ、頭を下げる少尉に、エリックとホリィは顔を見合わせる。


「そんなの当然じゃないっ! アタシを誰だと思っているの? 聖女、黒須聖子ホリィよ。モンスターの殲滅は皆の為なんだから。その皆を助けるのは当然よっ!!」


「あ~、正直、難易度上がるのは損しかないし、イヤなんだけど、自衛隊に恩を売れるならありかな。たぶん、隠れて動くのは俺の方が自衛隊より得意だと思うしさ」


 二人の言葉に少尉は敬礼と謝辞を述べた。


「では、作戦を説明いたします。あくまで今までで分かっているゴブリンの習性を元に立てた作戦ですので、その場その場で修正していく可能性が高いですが――」


 峰岡少尉の作戦は単純でありながらも、堅実な作戦であった。

 まず、自衛隊が囮兼ゴブリン殲滅の為に動く。

 ゴブリンは劣勢になると人質を盾にするので、そこで催涙弾を撃ちこみ、人質を助けつつ、ゴブリンをくまなく殲滅させるというものであった。


「ですが、そもそもで人質にされないのが一番ですから、お二人には無理のない範囲で人質を解放してほしいのです。決して戦闘などはしなくて良いので、ご協力お願いできますか?」


 エリックもホリィも二つ返事で返した。


                ※


 作戦が開始されると、銃声が轟く。

 エリックはいくつかの不安要素を抱えていたが、自衛隊を信じ、自分の役割を果たそうと行動する。


「ホリィ、こっちから人の音が聞こえる。一緒にゴブリンも2匹くらい居そうだけど」


 そそくさと行動し、人質がいるボロ小屋へ。

 小屋の中には緑色で耳の尖った子供のような体躯のモンスター。その目は血に飢えたようにギョロギョロとしており、ギザギザの歯は野生を思わせ、二足歩行ではあるが明らかに人間とは違う異形であった。


 ホリィは堂々としたもので、まるで礼拝に訪れた乙女のように粛々とした然でゴブリンに近づき、ハンマーを振るう。グシャという鈍い音が二回響いた。


 人質のなっていた人々は総勢3名。全員が予想よりもしっかりとした姿で丁重に扱われていたようであったが、その丁重さ、連れていかれると二度と戻らない仲間という状況に彼らの頭の中には常に『生贄』の二文字がよぎっていた。

 死ぬまで終わらないと思っていた恐怖からいきなり解放され、全員が状況を理解できず、自身の感情も分からぬまま呆けている。

 もう少し人質はいるかと思ったが、思いのほか少ないようであり、今までにどれだけ犠牲になったのか。もしくは、そもそもで拉致、誘拐された人が少なかったのか。

 エリックは真相を確かめることはなく、後者だったであろうと思うことにした。


 その3名を手厚く保護するホリィに対し、エリックボロ小屋から外に出ると、別の小屋も物色し始めた。ゴブリンが貯めたお宝が無いかを探して。


「う~ん、これだけ人間を拉致・誘拐しているから装飾品とか現金とか貯めてるかと思ったけど、ほとんどないな」


 結局何も取らず、次にさらに人質がいないか探ると、もう一人、人質が居そうな気配。そして、そこにもゴブリンの気配があったが、どうやら、今自衛隊と戦っている個体とは様子がおかしい。


「ホリィ、たぶん、ボスみたいのがいるけど、どうする?」


 これはエリックが懸念していたことの一つで、9Fという上層階に数が脅威だけのゴブリンが位置するはずがないと思っていた。

 何かさらなる脅威が控えている可能性は十分に想定できたのだった。


「愚問ね。そこに敵がいるなら殺すわ。それが脅威になるなら尚更ね」


 ハンマーの血を払いながら、ホリィは事も無げに言い放った。


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