35,侵入者

「さあ、クラス投票をはじめます。今から投票用紙を配りますので、皆さん席についてください」

 そうみんなに声をかけたのは、昨日私に算数を教えてくれたムラタだった。今回は、彼が投票をまとめる司会者に選ばれたのだ。

 生徒たちがガヤガヤと話しながら席につく。

 そんな中、一人の生徒が教だんに上がり、今回の小道具を持ってきた。それを見た生徒たちがうれしそうにはしゃぎはじめた。

「それか! 魔法のじゅうたんは!」

「うわさ通りの小ささだな!」

 そうだった。

 みんなにお披露目されているのは、今回一位に選ばれた男女がいっしょに乗る予定の魔法のじゅうたんだった。じゅうたんと言っても座布団ほどの大きさしかない。

 確かにこれでは、ぴったりと体を寄せ合って浮遊術を行わなければいけない。

 マリの話では、私が女子の一位に選ばれる可能性があるらしい。そして男子は、司会をしているムラタだ。

 ムラタは男子二番人気だけあって、優しくてかっこいい男の子だけど……。

 決して私が一番好きな子ではない。

 正直、ムラタと二人であの魔法のじゅうたんに乗るのは、かなり抵抗がある。

 どうか、どうか、私が選ばれませんように。

 私が心のなかでそう祈っていた時だった。

「あ、あれは何だ!」

 急に一人の男の子が席から立ち上がりそう叫んだ。

 男の子は私たちの頭上を指さしている。

「あれは!」

 別の男子が声をあげる。

 男子の指さす先を見る。天井の空間がゆがんでいる。軽くうずを巻いてゆがむ空間の中心に暗黒の穴が出現した。

「あれは、魔界ホールよ!」

 魔界ホールとは、結界が破られたときにできる魔界からの侵入口である。

「このままでは、まずいぞ! 魔界ホールから魔物が入ってくる!」

「すぐにここから離れよう!」

 そんな声が飛び交う中、暗黒の穴から二体の魔物か姿を見せた。

「あれは!」

「あれは、クロコロだ! クロコロが二体現れたぞ!」

 女子生徒たちから悲鳴があがった。

「逃げるんだ! すぐに逃げ出そう!」

 一部の生徒が出口に向かって走りだそうとしていたが、その足はすぐに止まった。

 クロコロ二体が、しっかりと出口をふさぐようにして立っているのだ。

 真っ黒い小さな魔物は、凶暴な目を光らせじりじりと生徒たちに詰め寄ってくる。

 前に進めない生徒たちは教室のすみへと追いやられている。

 瞬時にこんな思いが浮かんできた。

 ……大惨事になる。

 クロコロの鋭いキバでかまれると、命を落とすことだってあるのだ。

 しかも、相手は二体。私たちは猛じゅうににらまれた小動物のごとく、震えながら一歩一歩さがることしかできない。

 やがて、一体のクロコロが私の前にすっと移動した。そして、私と目が合う。

 私、狙われている?

 そう思った時だった。

 グルルルとクロコロがうなった。

 まずい、完全に私が標的にされている。

 私は恐怖で足が震えてしまって、全く動けなくなってしまった。

 そんな中、一体のクロコロが私に向かって飛びかかってきたのだった。

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