26,恋バナ
「それはそうと……」
クロコロの話が終わると、アキコさんは急に話題を変えてきた。
「アオイちゃん好きな男の子いるの?」
「ええ? い、いません」
急な話に私はドギマギしてしまった。どうしてこんなこと聞くんだろう。
「レン君のことはどう思っているの? レン君と、うらやましいくらいに仲が良いなと思って」
アキコさんは、なんだか楽しそうな顔をしている。
「レン君とはそんな関係ではありません」
私はきっぱりと言った。
「そんな関係って、小学生が使う言葉じゃないわよ」
アキコさんは笑っている。
「……」
もう、私はタジタジだ。
そう、私は確かにレンのことを意識している。けれど……。
「レン君も間違いなくアオイちゃんのことが好きだよね」
「そんなこと、ありません。レン君には別に好きな子がいるんです」
「別の子? 別の子って誰? 私の知っている子かな?」
「ミチカです。レン君は、クラスで一番美人で優等生のミチカのことが好きなんです。学校中のみんながそのことを知っています」
「ミチカちゃんか。レン君はアオイちゃんじゃなくてミチカちゃんが好きなのか。で、ミチカちゃんはそのことをどう思っているの?」
「ミチカもレン君のことが好きなんです」
「ふーん、じゃあレン君はミチカちゃんと両思いなのに、アオイちゃんと仲良くしているわけね。なんだかちょっと複雑ね」
確かに、言われてみると複雑だ。
ミチカのことが好きと言っておきながら、レンは毎日私と登校している。魔法実技試験のときもあんなに応援してくれた。
それに、レンがミチカと話している姿、ほとんど見ないし……。
たぶん、好きな子だから意識して話せないんだろう。本当に好きな子だから、意識して話せなくなってしまっているんだ。
私とは、ただの友だちだから、意識もせずによく話せるんだ……。
「ねえ」
アキコさんは口もとをゆるめて続けた。
「あなたたち三人の関係を何ていうか知っている?」
「私たち三人の関係?」
「そう、あなたたちの関係」
私はまったく何のことだかわからない。
そんな私を見ながら、アキコさんがこういった。
「三角関係っていうのよ」
「さ・ん・か・く・関係?」
「三人で複雑な恋の関係を作っているでしょ。それが三角関係。学校で習わなかった?」
「そんなこと習っていません」
「そうなの、世の中の大切な法則だから、しっかりと授業で教えておくようにトノザキ君にも話しておくわね」
冗談ぽくアキコさんが笑う。
「……」
「三角関係は世の中の至るところで起こる、よくある現象よ。そして、三角関係は結構いろんな問題を引き起こしてしまうから注意しなさいよ」
注意しろなんて言いながら、アキコさんはさっきからずっと楽しそうに話している。
「そうそう、私たちも昔は三角関係だったのよ」
「アキコさんたちも? 三角関係?」
「そうなの、私たち。もう昔の話だから、絶対に内緒にすると誓ってくれたらアオイちゃんにだけは教えてあげる」
「絶対に内緒にします」
私はすぐにそう答えた。
「実はね、私とユキ、それにトノザキ君は三角関係だったのよ」
「えっ?」
お母さんが……、それにトノザキ先生が……、三角関係……。
「どういうことですか?」
「知りたい?」
そう言ってアキコさんは顔を上に向けた。
「もう昔のことだから、いいわよねユキ」
天井なんか見て、アキコさん、お母さんに許可をとっている。
「実はね、トノザキ君はユキのことが好きだったの」
「先生がお母さんのことを?」
びっくりする話は続いた。
「で、私はトノザキ君のことを好きだったのよ。それで、私とユキは仲のいい友達。ね、複雑な三角関係成立」
トノザキ先生がお母さんのことを好で、アキコさんが先生のことを好き……。
どういうことだろう?
私ははじめて聞く話に頭がついていけなくなった。
でも、お母さんはトノザキ先生とではなく、別の人と結婚している。
どういうこと?
私は疑問を口にした。
「お母さんは誰が好きだったの? トノザキ先生のことを好きではなかったの?」
「ユキは」
いつの間にかアキコさんが真面目な顔をしている。
「ユキもトノザキ先生のことを好きだったんじゃないのかな。でも……」
アキコさんがそう答えた時だった。
魔法研究室のドアが開き、一人の生徒が入ってきた。
レンだった。
レンが息を切らしながら部屋に入ってきたのだ。
「さあ、この話はここまでね」
そう言うとアキコさんは気になる話題を終わりにしてしまった。
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