ヴィジターキラー Next Generation

戯言ユウ

第1部 黄昏のプレリュード

プロローグ

第0話 プロローグ

 とあるギルドの受付に、一人の男性が訪れた。


「冒険者登録をしたい」


「はい、かしこまりまし・・・・・た」


 その申し出を受けた女性は首をかしげながら返事をした。その男はぱっと見では冴えない男だった。至って普通な鉄の胴鎧に革の手袋、ブーツを履いている。黒髪を短めにカットしややのっぺりとした顔立ちからは余り活気のような者を感じない。


 端から見たら、冒険者のコスプレをしたおっさんが迷い込んだように見えるだろう。


「おい、何なんだテメェ?ここがどこかわかってんのかぁ?」


「ん?」


 すると近くのテーブルからのっそりと大男が立ち上がった。体格は人の倍くらいはありそうなスキンヘッドの男だ。


「ここは“冒険者ギルド”だ!テメェみてーな浮浪人が来るような所じゃねぇんだよ、おっさん!!」


「ふむ・・・・・・・・・俺はおっさんではなくて“ラルゴ”というのだが」


 ラルゴと名乗った男は、まるで事態を飲み込めていない様な様子でつぶやいた。その態度を、目の前の男が見過ごすわけが無い。


「あぁ?!この俺様が何者かわかっているのかぁ!?A級冒険者のディラン様だぞ!!」


「A級冒険者・・・・・・・ああ、“炎帝のディラン”か」


 うっすらひげが生えたあごを撫でながらラルゴは合点がいったように頷いた。


「なんだかよくわからないが、気に触るようなことをしたのであれば謝る」


「~~~~~~~~~~~んの野郎ッ!!」


 さらに気を逆撫でするような態度を見せるラルゴに、今度こそディランの怒りは頂点に達した。


「もう良いさ!!テメェは俺の怒りを買った!!その代償は高く付くぜ!!」


「ちょっと待ってください!!室内での“決闘”は規約違反です!!」


 怒りに顔を真っ赤にしながらディランは腰の斧を手に取り、ぼうっと炎を纏わせた。騒ぎを聞きつけた他の冒険者達は「なんだなんだ?」「喧嘩だ!!やれ!!」などと囃し立てる。


 しかし渦中のハズのラルゴは冷静だった。


「(ふむ、確かに腕は立ちそうだ。あの斧に込められた魔力、予想以上に密度が高い。これは少しばかり“解放”しないと行けなさそうだな)」


 そう分析したラルゴはシュラ、と剣を抜いてディランを見据えた。


「いいだろう。相手になる」


「うぉおおおお!!炎帝に立ち向かうなんざ、なんてバカな奴なんだ!!」


「こりゃ面白くなって来やがった!!」


 剣を構えたラルゴ。ディランは待ってましたとばかりに斧を振り上げる。


「フハハハハハ!!俺様に楯突いたことを後悔しな!!」


 そして目の前の不愉快な男を叩き潰そうと、ディランの炎を纏った斧が振り下ろされる。対するラルゴは剣を振り上げ、斧に真っ向から立ち向かう。


 そして両者の武器がぶつかろうとした、その瞬間。








ガキッ!!と、二人の間に少女が割って入った。






「「「・・・・・・・・・・・!?」」」


 その場にいた一同は言葉を失っていた。ディランや野次馬は愚か、ラルゴでさえ驚愕に満ちていた。2メートル近い体格のディランに、筋肉質な中背のラルゴ。その二人の斧と剣を受け止めて居るのが、この二人よりも遥かに背の低い少女なのだから。


 その少女は14歳くらいでやや平均より低い身長に、白いブラウスにコルセットを巻き、膝丈まであるスカートを穿いている。雪のように白い肌に色あせたような金髪をお下げにして居た。童顔気味ではあるがつり目の青い瞳を持っていて、その奥にどこか炎のような苛烈さを秘めていた。それだけだったら村娘然とした格好だと言えただろう。


 だが、その上から黒地に金の刺繍が施されたコートを肩に掛け、同じく黒を基調に金の刺繍でディテールを施した帽子を被っている。本来華奢であろう両腕には矢鱈ごついガントレットが嵌めてあって、右掌には紅色の、左掌には蒼色の魔石がはめ込まれていた。

 そして驚くべきことに、少女のガントレットは二人の斧と剣を受け止めて居るばかりか、ディランの斧に纏った属性すら打ち消していた。


「おい、ガキ————————」


「あなた、炎帝のディランね」


 可愛らしくも冷徹な声の少女はディランに告げた。


「こんなところで頭に血を上らせないで。せっかく築いた名誉が無駄になるわよ」


「はぁ?喧嘩ぐらい冒険者じゃ—————」


「勘違いしないで」


 怪訝な顔で問いかけようとするディランの言葉を阻み、少女は語り続ける。ディランとラルゴは一旦離れ、、隙をうかがうかのように少女をにらみつけていた。異様な緊張感が辺りに漂う。


「ここで喧嘩してあなたが規約違反で冒険者の資格を失おうが、あたしには関係無い。でも、このままあなたが戦えば、確実に“かませ犬”に成り下がるわ」


「かませ犬だと———————」


「そうでしょう?“零天”シャルク」


「なっ!?」


 唐突に名を呼ばれたラルゴ—————否、シャルクは、ここで始めて明確な動揺を見せた。


「とぼけないで頂戴。あなた“テリジアの戦火”で魔王ザグギエルを討ち取ったって言われている“勇者”じゃないかしら」


「おい、お前、まさか・・・・・・・・」


「何でこんな所に“零天”が・・・・・・?!」


「え、あの、冒険者登録は?」


 シャルクの名を聞いた者どもがどよめき立つ。かの有名な「英雄」が目の前に居ることに驚きを隠せないようだった。


 だが、当のシャルクは納得がいかないようだった。


「だったら何だって言うんだ?悪いが俺は前線からは身を引いたし、冒険者として気ままに暮らしたいだけだ。何なら今ここで起ころうとしたことを邪魔立てされる筋合いも無い」


「誰が他人のもめ事に首突っ込まなきゃ行けないのよ。あたしは正義の味方じゃ無いわ。誰が取っ組み合いを始めようが関係無い——————普通だったらね」


 しかしそう言いながらも少女はシャルクから目を離さない。


「あなた、“転生者”でしょ?もしくはその末裔かしら」


「なっ!?」


 シャルクが二度目の動揺を見せる。


「“世界条約”で知っているとは思うけど、“転生者”かその子孫にはそれ相応の教育機関に通ってもらい、同時に“エンデ”名簿に別途名前を残すことにしてもらっているの。でも全員が全員その教育を受けられていないし、場合に依っては意図的に隠蔽されていることもある。今回機会があってあなたの魔力を分析していたら、あなたに“転生者”の血が流れているのが確認されたわ。でなければあたしはここに居ない」


「嘘だろ・・・・・・あの“零天”が“転生者”だって・・・・・?」


「言われてみれば、それっぽい雰囲気はして居たかも」


「ったく勘弁してくれよ・・・・」


「最強の氷使いが“異世界の英雄”だなんて・・・・・まるで夢みたい」


 シャルクの信じられない事実に、さらに野次馬達が騒ぎ出す。こういうのを避けたかったシャルクは心の中で悪態を吐きながらも冷静に分析していた。


「(ふざけやがって全く・・・・・・・ていうかなんで俺が“転生者”の血筋だってばれたんだ?もしや———————)」


 その答えに行き着いたシャルクは、臨戦態勢に入る。


「(ここは一つ、強引に突っ切らせてもらう!!)」


 グッと剣を引いて身構えるシャルク。しかしその瞬間、ブゥン!!と周囲の空間が歪んだ。


「!?」


 反射的に思いっきり剣を振るうシャルク。その剣筋にそってバキバキバキッ!!と氷が隆起する。そしてそれが「地面」を伝って行くと、途中から壁に阻まれたように乱雑に広がった。


「こいつ、いつの間に転移魔法を?!」


「ナイスよ」


 どうやらシャルクと少女は共にギルドの外の広場に転送させられたようだった。二人が飛ばされた周囲に結界が張り巡らされており、中での戦いの余波が外に行かないようになっていた。


 だがシャルクの今の一撃だけで結界の半分が凍り付いてしまった。


「外からとんでもねぇ音がしたと思ったら、なんだこれ!!」


「こいつ、こんなものを部屋んなかでぶちかまそうとしやがったのか!?」


 建物から出てきた冒険者達が驚いていた。だが、結界の中ではそれどころではない騒ぎが起きている。


「さあ、お縄に着きなさい!!」


 そう叫んだ少女は右手から炎を生み出した。ごうごうと燃えさかるそれが拡散すると、結界の中の氷を溶かしていった。


「成る程な。それで初撃を防いだってところか」


 それを見たシャルクはにやっと笑った。まるで久しぶりに戦いを楽しめそうだ、と言わんばかりに。


「それならもっと出力を上げるか!」


「チッ!!」


 シャルクが左手を少女の方にかざすと強烈な冷気の波が巻き起こり、バキバキバキッ!!と氷結が襲いかかる。少女は可愛らしい顔立ちに似つかわしくない舌打ちをし炎を生み出すが、その勢いを氷結が上回る。


 そしてそのまま氷が少女を巻き込んで辺り一帯を氷漬けにしていく。


「いっちょ上がりだ」


 不敵に笑っているシャルク。バギバギバギバギッ!!と硬いものが軋む音が轟き、そして—————






バリン!!と氷の内側から掌底が突き出され、シュルクを爆炎で包み込んだ。






「があっ・・・・・・・・・・?!」


 爆発で吹き飛ばされ、シャルクは結界の壁まで一直線に突っ込んだ。一瞬何が起こったかわからなかったシャルク。これまでに無いくらい狼狽した表情を見せる。


「な・・・・・・・なにが・・・・・!?」


「うふふ、何でって感じね」


 氷を砕いたところから、不敵に笑いながら少女は現われた。


「何事もそうなんだけど、どんな属性の魔力でも天敵って言うのが居るの。言っておくけど、相反する属性じゃ無いわ。確かに相性はお互いに最悪だけど、それ以上に最悪な相手が居るの」


 パキパキパキ・・・・と氷が左右に裂けていき、その中央を歩む少女は不敵に笑っている。まるで


「それぞれの属性の魔力の天敵・・・・・・それは“自分と同じ属性”よ。相手からのダメージも受けない分、自分からもダメージを与えられないわ。いくらあなたの魔法の出力が高くたって、あたしが同じ属性を持ってればそのダメージは大幅に下がる」


「だったら、なぜ・・・・・・」


 彼女の説明では、今自分の身に起きていることが説明できない。彼女が扱っている属性は「炎」のはずだ。シャルクと同じばかりか、弱点になる属性だ。「零天」と呼ばれたシャルクの氷を受け止められるはずが無い。


「まあ、普通はそう言う反応をするわよね」


 そう言ってシャルクの目の前に歩み出た少女。ふと彼女の足下に目を向けると、不思議なことが起こっていた。少女が立っている地面の右脚側から陽炎が立ち、左足側からは白い煙が上がっている。


「おまえ、まさか・・・・・・・・!!」


「はい、おしまいね」


 そう言って少女はガントレットをガシュン、という音とともに解除さし、小さくか細い手が露わになる。そして外されたガントレットはまるで少女に付き従うように背後にフヨフヨと浮遊し出す。そして少女はコートの内側から手錠を取り出し、シャルクにかける。


「なっ、おい、俺は———————」


「悪いことしていないだろ、って?残念。先に仕掛けたのはあなたの方よ。あたしたちの正体に気付いたのなら、下手に抵抗せずにさっさと従うべきだったわ。ただこっちからは教育機関にて受講するように要請するだけだったのに」


「くっ・・・・・・・」


「それから、この手錠をして居る間は魔法は使えないから気をつけなさい。あなたみたいな奴を取り締まるために、あたしたちは居るんだから」


 そしてパァアアア・・・・・と結界が光の粒子をまき散らしながら消えていくと、ごつい鎧にガスマスクを付けた人間達が集まってきた。


「お疲れ様です隊長」


「お疲れ様。迅速な対応ありがとね。一瞬遅かったらギルドが氷漬けになってたわ」


「いえ。私はこいつが戦闘態勢に入ったのを見て、場所を移さなければと判断したまでです」


「よし、それじゃあ帰りましょうか。あーあ、後始末が面倒臭いわ」


 少女は面倒臭そうに両手を広場に出来た氷に触れた。するとサァアアアア・・・・・と融けていき、跡形も無くなった。


「失礼したわね」


「あ、あの・・・・・・冒険者登録・・・・・・・」


 少女は野次馬達に頭を下げると、そのまま異様なガスマスク集団に囲まれてどこかへと歩いて行く。


「こちら、第一作戦部隊の六花・アイ・インフィニアート。目標の鎮圧と回収を確認したわ。これより、作戦本部に帰投する」


「第一作戦部隊———————ってことは、やっぱりそうなのか」


「すげぇ・・・・・・初めて見た」


 少女——————六花の活躍に冒険者は圧倒されたようにつぶやいていた。









「(でも、“絶対零度”なんて名乗ってたらマジでぶち殺してたかも)」


「あれが“対転生者特別防衛機関” —————通称“転生者殺し”の実力か・・・・・・」

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