第2話 『感情』
(登場人物)
久世麗香
星羽高校1年3組。不思議ちゃん。感情の変化が乏しい。ミルクレープが大好き。成績はいつも上位だが,国語が苦手。
香坂匠海
星羽高校1年3組。しっかりしている。相手の気持ちが考えることの出来るお兄ちゃん気質。
(本編)麗香side
今年,諸星様によって東雲学園に入学することになった。
今までずっと暗いところにいた私。
初めて人に会った。いろいろな人の表情を見た。
遥香さんの笑った顔。
諸星様の泣いた顔。
琴坂君の怒った顔。
そして,朱雀君の笑顔の裏にある寂しそうな顔。
私はロボットなんだと自覚したのは初めてのクラス対抗テストの時だった。
皆私のおかげだと言って喜んでくれたけど,私にはその気持ちが分からなかった。
その時から私は皆のようになりたいと思った。
麗「…なぜ主人公は泣いているのですか?犬が生き返ったのがが悲しかったのですか?」
小説の一節。
匠「それはうれし泣きだよ。」
麗「嬉し泣きとは何ですか?」
匠「人間は嬉しい時にも涙を流すんだよ。」
隣の席の香坂君はいつも私の話を聞いてくれる。
諸「僕も一度体験してみたいよ。麗香,今は授業中だから本読むのやめろよな。」
麗「小説は一度読み始めると止まりません。私も嬉し泣き,体験してみたいです。」
諸「…そうだな。その時になったらな。」
クラスのみんなは私がロボットであることを理解している。
私も皆みたいになりたい。
その日の帰りの会。
諸「榊が学校へ来ることになった。麗香と話したいことがあるらしい。」
私と話したいこと…榊様が。
榊様は私をお創りになった人だ。
諸「だが,うちの学校の生徒として僕は榊に麗香を会わせたくはない。」
榊様,私と何を話すんだろう。でも,私はあの時の私じゃない。
麗「諸星様,私は榊様とお話ししたいです。これは私の意志です。」
榊「久しぶりだね,麗香。」
久しぶりに会った榊様はやつれて見えた。
榊「麗香,僕は本当に悪いことをしたと思っている。」
麗「それは,私をおつくりになったことに,ですか?」
無言で榊様はうなずいた。
榊「お前を苦しめることになってしまった…」
麗「いえ,それは間違っています。私はロボットとして生まれてきて苦しいと思ったこともあります。でも,それだけではないです。」
全部,榊様に伝えるんだ。
麗「嬉しい,悲しい,腹立たしい,寂しい。いろいろな感情に出会いました。皆とともに過ごすことがなければ感情に出会う事もありませんでした。」
榊「麗香…」
麗「そんな顔しないでください。」
私は嬉しい。でも,榊様がそんな顔を見せるのは悲しい。
麗「私は,嬉しいんです。」
これが嬉し泣き。嬉しいのに涙が流れてくる。
諸「榊…?プログラムに涙も設定したのか?」
榊「いや,していない。これは麗香自身が作り出したものだ。」
私自身が。
榊「麗香。君には一つだけ願いが叶えられるシステムがあるんだ。」
そんなものがあったなんて。
麗「私は沢山の感情に出会って,みんなと同じような楽しさや嬉しさを感じたいです。」
額の銀色の星が光る。
それからは,一瞬だった。
麗「体が温かいです。」
これが,人間。
翌日。
いつもは諸星様の車に乗って登校していたけど,今日は初めて電車で登校。
席に座って問題集を読んでいると。
「ママ~つかれたよぉ」
と言っている子供を近くに見つけた。
麗「ここ,もし良かったら座ってください。」
「あら,いいの?ありがとうね。」
今までの私なら,絶対にしなかった行動だけど,こんなに嬉しいものだったんだ。
そして教室。
麗「おはようございます。」
琴「麗香ちゃん!」
匠「いつもの銀色の星がなくなってる…」
麗「私はこれから,皆さんと一緒の人間です。」
クラスの皆が祝福してくれる。
麗「とても嬉しいです!」
香坂君とハイタッチをする。
こんなに心臓がどきどきするのはなぜなのでしょうか…?
(完)
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