あの、RTAしているので話しかけないでもらえますか?

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


草原を猛スピードで走る一人の男がいた。


男の名はエルデン。


生まれ故郷の村を出てから、ノンストップで走り続けている。


町に入ろうとしたエルデンを呼び止める人間がいた。


町の衛兵だ。


「おい、お前。何者だ。名を名乗れ」


「……」


エルデンはしかめっ面をするだけで、何も名乗らない。


「おい! 何者だと聞いている!」


「あの――」


そう口を開いたエルデンは、とんでもないことを言いだした。


「――RTAしているので話しかけないでもらえますか?」


「は?」


そしてエルデンはそのまま走り去る。


「え、あ、ちょ!」


衛兵は猛スピードで走り抜けるエルデンの後姿を眺め、ため息をこぼす。


「はぁ……。困った奴だな……。俺の給料が下がっちまうじゃねえか」


そんな衛兵の事情などつゆ知らず。


エルデンはなおも走り続ける。


長旅で体力が減っていたエルデンは、宿屋を見かけるやいなや、ノンストップで中に入る。


「いらっしゃーい……って、ちょっと、お客さん!?」


店主が引き留めるも、エルデンは止まらない!


宿屋のカウンターに小銭入れを投げ、そのまま二階へ直行!


空いている適当な部屋に入ると、そのままベッドへ身を投げる。


「ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ……………………」


あわてて店主が追いつくも、エルデンは夢の中。


「もう寝ちゃってるよ……。せっかちなお客さんだなぁ」


そう思ったのもつかのま。


エルデンはすぐに飛び起きる。


――ガバッ!


ステータス画面を確認して、体力が回復していることを知るやいなや、エルデンはまた走り出す。


「え、ちょ! お客さん!? もういいの!?」


「問題ない。目的は済ませた」


エルデンは走りながら答える。


「変なお客さんだったなぁ……」


エルデンが町を走り抜けるときには、いくつか注意していることがある。


まず、なるべく人にぶつからないように走り抜けること。


それから、曲がり角ではなるべくインコースをせめることだ。


あとは無駄な寄り道などをしないで済むように、用事は一度で済ませてしまうこと。


「お客さん!? そんなに買って大丈夫ですか!?」


「大丈夫だ、問題ない。俺は亜空間ポーチを持っている。容量に制限はない」


道具屋から、大量の薬草を持ったエルデンが出てきた。


エルデンはすぐさまそれを亜空間ポーチにしまい入れる。


そんなエルデンのようすを不思議に思ったのか、何者かが後をついてきた。


「よう! あんた、なんだかすごいな」


男は高速で走り続けるエルデンの横を、ぴったりついてくる。


エルデンの速度もかなりのものだが、この男もなかなかだ。


服装からして、盗賊の職業なのだろうか。


だとしたらこの速度にもうなずける。


「俺は別にすごくないが? それより、忙しいんだ。話しかけるな」


「おいおい、そんなに邪険にするなよ。あんたに興味があるだけさ」


「そうか。手短にたのむ。歩みを止めることはしないがな……」


「あんた、レベルは?」


「5だ」


「5!?」


彼が驚くのも無理はない。


ここは終盤の町だ。


並みのレベルの者が立ち入れる場所ではない。


「ああ、5だ。レベルなんて上げている暇が惜しい」


「変なヤツだな……」


「もういいか……?」


「あ、ああ……引き留めて悪かったな」


男がそう言った瞬間、エルデンはさらにスピードをあげた。


「はええええええええええ!!」


エルデンはこのままどこに行ってしまうのだろうか。


それは誰にもわからない。


なぜなら彼こそが世界最速の男なのだから。


――クリアタイム15分:55秒。


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