第8話

 その瞬間俺は瞬間移動で十六夜の後ろに回り込み、足に力を込め一気に飛び右腕を一気に十六夜の後頭部めがけて右腕を突き出した。

 十六夜の頭にかかる運動量を周りの建造物が壊れない程度に高め吹き飛ばした。


「うおっ…!」


 数メートル後ろの壁に大きな音をたたてぶつかった。

 しかし、それでも超能力者の十六夜は戦い慣れているのかきちんと受け身を撮っていた。

 体制を立て直そうとするが、それを俺が許すはずもなく再び十六夜の目の前に瞬間移動し倒れている彼の胸倉を掴んだ。

 俺は、なんの美学もない。ただ、復讐したいだけだ。復讐するためなら何でもする。例え、個人的に何の恨みもなくても俺の邪魔をするとお言うのなら俺はそいつを容赦なく殺す。

 

「これが俺とお前の力の差だ」


 俺は今まで自分以外の超能力者と対峙したことはなかったが、この一件で俺のレベルがだいたい知ることが出来た。

 いや、一人だけで判断するのはダメか。

 もしかしたら十六夜が低レベルかもしれないからな。


「さぁ、どうする。このまま俺に殺されて終わるか、その変な組織を抜け出して一生俺の邪魔をしないとするか」


 ありったけの笑顔で十六夜に問う。

 それにおびえたようにひっ、と声を出すと俺の質問に答えようとした。

 おいおい、俺の笑顔でおびえるなんてひどいじゃないか。

 先ほどまでのキラキラしたオーラをどこへ行ったのか今は殺人犯にでくわした一般人みたいになっている。


「………キ」

「あ?聞こえねぇよ」

「キ、キミの邪魔はもうしない。だから、見逃して、くれ、ださい」

 

 敬語はボロボロ、イライラする。だが今ここで十六夜を殺してすっきりしては意味がない。

 俺はこれから皆川に仕掛けるんだ。そこでたっぷりとすっきりすればいい話。


「そうか。もし嘘だったら、その時は必ず殺す」


 声を低くして返事をする。十六夜は自分の身が一番かわいいと思ってるタイプの人間だろうし、必要であれば組織なんて簡単に裏切るだろう。

 だから、心配はいらない。

 十六夜を近くの道路に瞬間移動させる。


「さあ…。邪魔が入ったな。皆川……楽しみだなぁ」


 目を閉じ、口にする。

 皆川の名前を口にして彼女への憎しみをよみがえらせる。

 すると、白黒だった世界が元の世界の色を取り戻していた。

 皆川と刻んである表札を確認し中に入る。

 ガチャ、という大きなドアの音とともに部屋に入る。

 リビングでテレビを見ていた皆川母がこっちを一瞥して、


「真里菜ぁ~。友達が来たわよぉ~」


 友達?俺と、あいつが?ふざけるな!…っと、危ない危ない。危うく皆川母を殺すところだった。


「え~。だれぇ~」


 皆川の部屋から気の抜けた声が返される。


「んー、見たことな」

「強盗だ」


 皆川母にかぶせて答える。

 別に強盗するわけではない。

 強盗が入ってきた場合多くの人間はパニック状態に陥り、正しい判断が出来なくなってしまう。

 一番怖いのは叫ばれることだがここでどんな大きな声を出しても聞こえないように工作してある。


「え……?」


 まるで何が起きてるのか理解していないような声が皆川母から漏れる。

 カバンから、さっき生成したナイフを取り出し皆川母に向ける。


「娘と金を出せ」

「は……?」


 …何なんだ、皆川母は。頭が悪いのか?

 それとも何かの冗談だとでも思っているのか?

 だったら、このナイフが本当だということを証明しないとな。


「さっさとしろ!」


 俺はそう叫びながら壁にナイフを刺す。


「じゃないと殺すぞ」


 この行動によって本当に強盗が入ってきたという感覚になったのかほうけた表情からだんだんと絶望した表情になり恐る恐る口を開く。


「あ、あの…お金はできるだけ上げますから…どうか娘は…」


 娘思いのいい母親だな。これからあんなのが生まれるのかよ。

 今心をのぞいてみたが、この状況でも本当に娘のことを心配しているようだ。

 だが、お金なんていらない。


「そういうわけにはいかない。最悪金は払えなくても娘をくれれば何でもいい」


 これが今の俺の本音だ。


「いや、要求を変えよう。娘を出せ」

「っ…。お、お金なら払いますので」

「さっき言っただろ、金は要らないと」


 語気を強め答える。

 それに気圧されたのか皆川母が黙りこくる。


「さっさとしろ。じゃないと、そこの息子を殺すぞ」


 壁からナイフを抜き取り近くで黙っていた皆川兄に向ける。

 すると皆川母はさらに絶望した表情になり皆川が入ってるであろう部屋を指し「そこです」と小さな声で言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る