第46話

 そして、企画当日。

 宣言通り、ジーンさんが迎えに来てくれた。

 こんな田舎の田園風景には不似合いな、高級車で迎えにきた。

 あのマークは海外の車だ。

 外車だ。

 ピカピカの車体を見ていると、コインで傷でも付けたくなる。

 

 「おはようございます。先生。

 今日はこんな婆のわがままを聞いていただきありがとうございます」


 車に乗り込みながら、ばあちゃんが言う。

 見た目は若くても、足腰がアレなのでそれとなく乗るのをサポートする。

 ちなみに、あたしとばあちゃんは後部座席だ。

 並んで座る。

 助手席には、タマと仲のいいあのワンコが尻尾を振りながら座席から身を乗り出して、こちらを見ている。

 さて、そんなこちら側、後部座席の足元にはヒィとツグミちゃんが入ったキャリーケース。

 そして、膝の上にはタマを乗せている。

 タマ用のキャリーケースも、ヒィたちが入っているケースの横に置いてある。

 念の為だ。念の為。

 ワンコがタマへ、おはよう! とばかりに一声鳴いた。


 「きゃぅんっ!!」


 それにタマが応える。


 「テュケるる!!」


 ジーンさんへの挨拶もそこそこに、ばあちゃんはタマとワンコを交互に見ながら言った。


 「あらぁ、タマちゃん。お友達なの?」


 「テュケっ!」


 「キャンキャン! はっはっはっ」


 ワンコはばあちゃんに対しても尻尾を振っている。


 「仲良しねぇ」


 ばあちゃんも身を乗り出して、ワンコをなでなでする。


 「中々お転婆で、手を焼いています」

 

 あ、女の子なのか、このワンコ。


 「ほら、じゃあ出発するからハナコ、お座り」


 ワンコの名前はハナコというらしい。

 ハナコちゃんは、『きゃん!』と一声鳴いて助手席で大人しくなる。


 「ほら、タマもここにちゃんちゃん」


 タマがあたしの膝の上に乗っかる。

 ばあちゃんも座席に座りなおす。

 ヒトは全員シートベルトを付けて、ジーンさんがそれを確認し、車が動き出した。


 走ること一時間弱。

 高速をすっ飛ばして、途中パーキングエリアに寄ってトイレ休憩を挟んだものの、体感時間だとあっという間に現地に着いた。

 そこは、外観だけならちょっと大きい市民体育館みたいな建物だった。


 先にキャリーケースを持って車から降りる。

 それから、降りるばあちゃんをサポートする。

 ちょっとの段差で転んだり、落ちたりしたらマジで洒落にならないからだ。

 普段は農作業してるから多分大丈夫だとは思っている。

 でも、万が一ということもあるので見えてる範囲ならこうしている。


 ばあちゃんが降りて、車のドアを閉める。

 ジーンさんがそれを確認して、車に鍵をかけた。

 タマとハナコちゃんがじゃれ合いつつも、あたしたちからつかず離れず移動する。

 建物の受付でジーンさんが受付を済ませる。

 館内図や案内板での説明を読むに、テイマー用の施設というのはそうなのだが、いくつかのスペースに分けられ、それぞれで利用出来る内容が違うようだ。

 スポーツジムのように、人間用のトレーニングマシンを設置した部屋や、モンスターの訓練用の部屋もある。

 予約すれば、各部屋を貸切で使用出来るらしい。

 なるほど、これを主催者さんたちは利用したのか。

 ちなみにこの建物、でかいドラゴンでも入れるように入口も、なにもかもが大きく作られている。


 ジーンさんの案内で、主催者さん達が待っているだろう部屋へ向かう。


 向かおうとしたところで、受付周囲がざわめいた。

 同時にズンズンと重い足音が響く。

 見れば、双頭のドラゴンを連れたリリアさんと、かなりフサフサモフモフのフェンリルらしきモンスターを連れたエリスちゃんが注目を集めていた。

 彼女達がこちらに気づき、エリスちゃんは顔色を暗くしているのに対して、リリアさんは勝ち誇ったような顔をしていた。


 「なるほどねぇ。あの子達か」


 ばあちゃんが気づいて、そう呟いた。

 

 「どれ、婆がご挨拶でもしてこようかねぇ」

 

 ばあちゃん!!


 「いいよ! そんなことしなくていいよ!!

 恥ずかしい!!」


 「恥ずかしいってなんだい。

 挨拶はちっとも恥ずかしくなんてないよ」


 「そうだけど、そうじゃなくて!!」


 あたしの静止なんて聞かず、ばあちゃんがトコトコと外見だけなら同い年のエルフとダークエルフの女の子たちに近づいていく。

 あーもぅ! なんで年寄りって人の話をきかないかなぁ!!??

 そして、ばあちゃんが二人に声をかけた瞬間。


 「え?」


 「おお?」


 ばあちゃんの動向を見ていたあたしとジーンさんが、同時にそんな声をもらした。

 と言うのも、こちらからだとばあちゃんの背中しか見えなかったのだが、ばあちゃんが二人に声をかけると同時に、その二人が腰を抜かしたのだ。

 それも、顔色を真っ青にして。


 続いてばあちゃんは、二人が連れていたモンスターに触れようとする。


 ばあちゃん!!

 危ないって!!

 噛まれるって!!

 そう思ったが、モンスター達はこうべを垂れて大人しくなっている。

 マジかよ。

 そうして、双頭のドラゴンとフサフサモフモフのフェンリルを撫でたあと、戻ってきた。


 「君のおばあさん、何者?」


 ジーンさんが小さく訊ねてきた。


 「……御歳五百歳超えのエルフで、あたしのばあちゃんです」


 そうとしか答えられなかった。

 うん、たしかばあちゃん五百歳超えだったと思う。

 戻ってきたばあちゃんは、なんというかニコニコ顔でご満悦だった。


 「あのワンワン、とっても撫で心地良かったよ!

 ココロも撫でて来たら?

 ココロが好きそうな毛並みだったよ」


 ばあちゃんがそう教えてくれたが、たぶん、あたしが行っても噛まれる未来一択だと思う。

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