第42話
しかし、解せない。
山菜採りの手伝いもしながら、あたしは不思議に思っていた。
ここまで、害獣なりモンスターなりに遭遇していないのだ。
危ない山だから、護衛依頼を出してきたのかと思っていたけれど。
ここまで、言っては悪いが平穏そのものだ。
「ねぇ、あたし達いなくても良かったような気、しない?」
あたしは、なっちゃんにそう耳打ちした。
「うーん、たしかに。拍子抜けっていうか。
変なモンスターの気配も、凶悪なモンスターの気配もしない」
なっちゃん、気配なんてわかるんだ。
すごいな。
でも、だとするとなんでわざわざ猟手さんを雇っていたんだろ?
聞いてみようかな。
「はい。毛糸玉ちゃん、ありがとうねぇ」
タマが山菜を採って、咥えておばあさんに渡す。
毛糸玉。
まあ、うん、そう見えるか。
毛玉だし。
「あの、ここって護衛を雇わないといけないほど凶悪なモンスターが出るんですか?」
あたしは、頃合いを見計らって訊ねてみた。
「うーん、モンスターじゃなくて。
怖いのはヒト、というか」
???
意味がわからず、あたしと、そして聞き耳を立てていたなっちゃんが同時に首を傾げた。
「たまにね、盗賊が出るの。
あと密猟者」
このご時世に山で盗賊というのは、あまりピンとこない。
山菜を密猟、というのはピンときた。
筍の山のおばさんの山も、そしてうちの山も私有地なのに勝手に入ってタケノコを無断で採っていく、いや、この場合は盗っていく人が結構いるのだ。
ちなみに、これ、不法侵入で窃盗になる。
大人の事情で見逃されてるだけで、現行犯で見つかって通報されればアウトなので、読者諸君は気をつけてくれ。
その辺の山は基本私有地だから。
一般人の持ち主がいない場合は国のものなので、やっぱり無断で入って山菜を採るのは違法になる。
「密猟者はともかく盗賊、ですか」
「そう、たまにね、あるのよ。
この山はウチの山だから、私たちは密猟者にはならないけど。
ちょっと遠くの街から来たらしい人達の遺体が見つかることが、あるの」
「え、それって」
「えぇ、勝手にこの山に入ってタケノコとかまぁ色々採っていたらしい人達の遺体。
あの人が生きていた頃からそういうのを見つけることが何度かあって、その度に警察に連絡して調べてもらうんだけどね。
その度に言われたのよ。
モンスターに襲われたんじゃない。調べてみたら殺された痕跡があったって。
それで、殺された人達の持ち物とかを調べたらお金になりそうなものは全部盗られていたとか。
あんまりにも続くものだから、猟友会の方に連絡して、護衛してもらうようになったの」
聞けば、冒険者ギルドの方で賞金稼ぎのようなことをしている人が結構いるらしい。
「なっちゃん、なっちゃんってその、そういう防衛省のための人殺しの依頼も受けたりしてるの?」
聞きにくかったけれど、万が一のこともあるので、あたしはなっちゃんに訊ねた。
なっちゃんは首を横に振る。
「守るならまだしも、私はそういう依頼は受けてない。
というか、出来ない。
成人してるならまだしも、私まだ未成年だし」
そこで、なっちゃんは言葉を切って言いにくそうに続けた。
「結果的に、
その後カウンセリングとか、結構大変だったし。
その時ばっかりは親から、冒険者やめろって止められた」
まあ、普通はそうだろうなぁ。
でも、学生としてお金を稼ぐなら大変だけど実入りはいいし、性的な意味で体を売るよりも健全、と親をなんとか説得して続けることが出来ているらしい。
相手が悪者とはいえ命を奪う事と、体を売ること、どちらが健全なのかとか、正しいのかとか、あたしにはよくわからない。
だって、中学生の時に受けた社会科の授業で税金の話を聞いたが、その人たちだってそうやって稼いだお金を国に納めているのだ。
たまに職業差別でそうやって稼いだお金は汚い、と言われることがあるけれど、その汚いお金で道路は整備されているし、なんなら災害が起きたときの保障のお金はそのお金でも賄われているわけで。
綺麗なお金と汚いお金、両方であたし達は支えられているとも考えられるわけで。
だから、正直稼ぎ方でお金の善し悪し云々はあたしにはわからない。
「そっか」
「でも、大丈夫。私は
もし何かあっても
安心していいよ」
なっちゃんは頼もしく、自分の胸を叩きながら言い切った。
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