第40話
読者諸君。
言い忘れていたが、動画企画の日まで実はそれなりに時間がある。
というのも、モンスターの対戦というのはそれなりの施設を借りることになるのだ。
これはあたしも主催者さんに聞いて初めて知ったのだけれど、例えば、アイドルのライブ、またはコンサート、その他諸々のイベントで会場を借りる、となるとだいたい二年くらい前にその場所の予約を申し込んでおく必要があるからだ。
今日申し込んで明日、とはどうしてもいかない。
そして、モンスター同士が戦えるような設備があり、動画の撮影環境と許可がもらえる場所等など、主催者さんの考える理想の場所として選ばれた場所だが。
他のイベント予約との関係で、夏休みの中盤辺りとなった。
これを読んでいる人達の中には、それを手がかりに会場を探そう、あたしの正体を知ろう、とする人達がいる事だろう。
家族構成や名前まで書いておいてそれは変じゃないか?
そう思う人もいるかもしれない。
安心してほしい。
今までに書いてきた内容の殆どは虚偽ではない、けれどその全てが虚構と言う訳でもないからだ。
君たちの中にだって、混血はいるだろう。
そう珍しくも無いはずだ。
そして、それはあたしも同じだ。
だけれど、極力身バレを防ぐための悪あがきくらいさせてくれても良いだろう?
なので、今や一部界隈で変な伝説扱いになっているあの動画の撮影場所はともかく、撮影された日にちはうっすら、ぼんやりとした表記にさせてもらう。
とにかく、時間があるのはいい事だ。
タマ達の練度上げや、テイマーとしての勉強、そして普通に学生として生活する日々がすぎて行った。
タマ達の練度上げには、冒険者ギルドからの仕事が大いに役立った。
ただ、なっちゃんにはすごく面倒をかけてしまったけれど。
なっちゃんは、冒険者としてはすごくいい先生になってくれて色々教えてくれた。
タマ達の練度を上げるのが一番の目的だったから、必然的に討伐依頼をこなすことになる。
そんなこんなで、あたしは夏休み初日を迎えた。
日焼け止めクリームを全身に塗りたくり、今日は初めてあたしとタマ達、一人と三匹だけで討伐依頼をこなしていた。
なっちゃんからも、一人で出来るようになっただろう、というお墨付きも貰えたからだ。
なっちゃん、ほんとありがとう。
さて、相変わらずあたしの移動は自転車だった。
前の籠には、タマ。
後ろには、ツグミちゃんとヒィが入ったキャリーケースを括りつけている。
ここまで来る途中で、巡回中のお巡りさん達から呼び止められ初の職質を受けたのは誤算だった。
キャリーケースが不安定な状態に見えたので、呼び止めたそうだ。
括りつけていた紐を結び直してくれた。
丁寧にお礼を言って、お巡りさん達とわかれて、討伐依頼書に書かれていた畑までやってきた。
すぐ傍には山がある。
けもの道のようなものも見える。
携帯のアプリで位置も確認して、あたしはキャリーケースからツグミちゃんとヒィを出してあげる。
二匹とも今日まで逃げる素振りは無かった。
田舎なので放し飼いをしているけど、ちゃんと家に帰ってくる。
あたしを主人と思っているかは別だ。
ばあちゃんのことはそう思っている感じだけど。
地図アプリなどを駆使し、遭難しないよう注意しつつあたし達は山の中を進む。
とりあえず、電波は届いてるし木々の間から電線も見える。
けもの道も、見失ってはいないし、よし、もう少し進んだらおびき寄せて見よう。
あたしは適当な場所までくると、なっちゃんと一緒に討伐依頼をこなしてお金を貯めて手に入れた魔法袋から、効率よくモンスターをおびき寄せるための道具を取り出す。
魔法袋は、アプリのように
金額に差があるのは、魔法袋の機能の差らしい。
あたしはとりあえず一番安いものを選んだ、だけど、一番安くてもあたしからしたらそこそこお高く感じる値段だったけど。
あたしが袋から取り出したのは、パッと見は一般家庭の害虫駆除をする時に使う、煙が出るアレだ。
これは討伐する冒険者用の物で、冒険者ギルドの受付、もしくは冒険者専用サイトで三個一組で売られている。
サイトで買うと送料が上乗せになるので、あたしは受付で購入した。
説明書を読みながら、あたしはそれを使ってみた。
煙は出なかった。
その代わり、魔法陣が展開して次々と半径一キロ以内にいるモンスターが召還されていく。
マジか。
畑に害をなすモンスターフルコースだ。
「ツグミちゃん! 殺虫剤!!
ヒィは殺虫剤の後に、牛の丸焼き!!
タマは残った奴らに目覚まし!!」
あたしは召還されたモンスター達が飛びかかってくる前に、そう指示を出した。
ちなみに、タマの【目覚まし】は芸の名前だけれど、ヒィのバーベキューとツグミちゃんの殺虫剤は正式名称の技がある。
そう、技を芸の名前に言い換えただけなのだ。
ウチではこれで通っているので特に不便もない。
ちなみに、芸【殺虫剤】は、技【毒息】だ。
同じように、芸【牛の丸焼き】は技【豪炎吐息】だ。
この芸の名前になったのには、まぁ、いろいろあったのだ。
ばあちゃんが、殺虫剤が切れて困っていたらツグミちゃんが毒息でその害虫を退治してくれたり。
毎年行われている隣村との合同バーベキューイベントで、着火剤の手配をミスって足りなくなり、じいちゃん達が困っていたら、ヒィがメインの牛の丸焼きのために口から炎を出してくれたり。
まぁ、そんなことがあってこんな命名に気づいたらなっていた。
ヒィなんてその一件で、一躍アイドル的な扱いになってしまった程だった。
満更でもなさそうだったので、良かった。
タマ達はあたしの指示通りに動いてくれた。
うんうん、皆慣れてきてる。良かった。
ツグミちゃんとヒィは、自分たちが捨てられたと分かっていたんだと思う。
傷ついていたそれを、ばあちゃんが癒してくれたのか、ばあちゃんにはとてもよく懐いている。
ヒィも、ばあちゃんにだけは媚びではなく、純粋に懐いていた。
あたし?
あたしに対しては、まぁ、なんだろう?
餌くれるし、ちゃんと面倒みてくれてるし、お世話になってるからとりあえず従ってやるよ、という感じだ。
従ってくれてるだけありがたい。
たぶん、頭はいいんだろうなぁ。
こんな感じで、夏休みの課題とタマ達の練度上げに勤しむこと一週間。
驚くべきことが起こった。
なんと、あたしとなっちゃんへ、指名で護衛の依頼が来たのである。
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