第14話

 「なら、実験してみようよ。

 いや、この場合は検証だけど」


 前回のドライブから、さらに数日後の休日。

 上の妹のマリーがそう提案してきた。


 「検証って、【言霊使い】の?」

 

 「そうそう。あと【魔物使い】の方も。どうせ暇だし」


 「そりゃ、あんたはね」


 「それに、次の休みにその定期勉強会行くんなら、どの程度言霊が使えるのか調べておいた方が講師の人に相談しやすいでしょ」


 そう、そうなのだ。

 国、というかお役所に鑑定結果を伝えたところ、次の日には定期講習会、つまりは勉強会の案内が届いたのだ。

 場所は、電車で二時間かかる県庁所在地がある市だ。

 ちなみに最寄り駅まで自転車で四十分かかる。

 あー。ダルいわ。


 「そうだけど」


 まあ、ダルいとは別に今現在、あたしは妹の提案した検証には全く乗り気では無かった。


 「なに、なにか問題でもあるの?」


 妹もあたしが乗り気でないのに気づいたのか、首を傾げている。


 「見て分からない?

 これからラスボス戦」


 古いRPG、そのドット絵が特徴の画面を指さしながらあたしは言った。

 検証よりも遊びである。

 いざ、世界を救うぞ!

 コントローラーを手に、イベントを発生させようとした時。

 猫たちのフミフミタイムが終わったらしきタマが現れた。

 飛び跳ねながら、やってきた。

 そして、古いゲーム機に着地した。

 このゲーム機が世間的に現役だった頃、猫や掃除機の襲撃によってフリーズするというハプニングがよく起こっていたという。

 今、時代を超え、同じ悲劇があたしの目の前で繰り返された。

 あたしは叫んだ。


 「あたしの五時間がァァァあああ??!!」


 あたしの叫びに、タマはきょとんとしている。


 「セーブはこまめに、でしょ」


 言われなくても分かってる。

 あたしは、タマを怒ろうした。

 でも、なにも分かってないのだろう。

 タマはゲーム機から降りて、あたしの膝に飛び乗ってスリスリしてきた。

 あぁもう、可愛いな畜生。


 「タマ! めっ! これに乗ったらめっ!

 わかった?」


 「テュケるる?」


 あたしはタマを持ち上げ、自分の目線に合わせる。

 そして、怒ったのだが、タマは不思議そうに一声鳴いただけだった。

 鑑定結果、何かの間違いじゃないかなぁ。

 あの後、あたしなりに【言霊使い】について調べてみた。

 と言っても、携帯端末でポチポチと文字を打ち込んだだけだったけど。

 そうして、お狐様が言っていたことと、何故レアなのかということがわかった。


 言霊、もしくは、言魂とも書く。


 つまりは言葉に宿ると信じられていた、不可思議な力のことである。

 言葉には力が宿る。

 その宿った力を意図的に行使することができる存在を、言霊使いと言うらしい。

 つまり、この論法で行くなら、あたしがタマを注意したのなら今後タマはゲーム機を襲撃したりしないわけだ。

 だが、しかし、タマはあたしとゲーム機を交互に見て、何かを勘違いしたらしい。

 あたしの手から自力で逃げ出すと、ゲーム機の上で飛び跳ねようとした。


 だから、ダメだっていってんのに!!


 「めっ!」


 あたしはゲーム機にダメージが加わる前にタマを空中でとっ捕まえ、叱った。

 あ、これアレだ。

 こうすれば、あたしに構ってもらえると覚えた顔だ。



***



 とりあえず、場所を変える。

 公園なんて洒落たものは、この集落には無い。

 なので、昔は火葬場、今は花畑、まぁ花の群生地になっている空き地にてマリーと一緒に検証を行うことにした。

 ちなみに、周囲は田んぼか畑である。

 人の姿は、ほぼ無い。

 そう、だいたい二、三百メートル先に腰の曲がった他所の家の婆さんが作業をしているくらいだ。

 除草剤撒いてる。


 「で、どうやって検証するの?」


 あたしは、言い出しっぺのマリーに訊く。


 「んー、とりあえず蜻蛉の時みたいに、指立てて『とーまれ』ってしてみるとか?」


 ふんわりざっくりしすぎである。


 「そんなんで来たら世話ないと思うけど」


 「まぁまぁ、物は試しってやつだよ」


 ま、それも一理ある。

 タマにはいつもの散歩のように紐を付けてあるので、それをマリーに渡す。

 それからあたしは、子供の頃よくやっていたように利き手の人差し指をピンっと立てて、口を開いた。


 「この指止まれ」


 言いつつ、時期的にアゲハ蝶とか止まらないかなぁとか考える。

 と、ヒラヒラとそれはどこからとも無く現れた。

 黒くてヒラヒラと翔ぶそれは、今しがた止まればいいのになぁと想像したアゲハ蝶だった。

 モンスターじゃなかった。

 でも、


 「マジか」


 あたしが驚いてポツリと漏らす。

 妹も、


 「マジだよ、姉ちゃん」


 目を丸くしてそう言った。

 あー、マリーも話半分くらいしか期待してなかったんだな。

 それであれだけ夢を見れるんだから、羨ましい限りだ。

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