届けメランコリー

かつどん

届けメランコリー

「・・・ごめんなさい」


その一言で、僕は何もかもがどうでも良くなってしまった。


校舎裏、夏になりもう青々とした桜の木の下で僕は生駒さんに告白した。


その結果がこれだ。


それ以来、なんとなく気まずくなって今まで通りに会話も出来ていない。


こんな事なら、告白なんてしなければ良かった。


恋なんかしなければ良かった。



「・・・恋なんて嫌いだ」


「ん?何か言ったか、氷我」


呟いた僕の声は、騒がしい人の声と花火の音にかき消される。


僕、林氷我は高校一年生からの友達の鈴木和樹と花火大会に来ていた。


道路も歩行者天国になり、屋台が立ち並んでいるせいで花火を眺めるどころか、僕達は人混みに流されてしまっていた。


本来、この花火大会もこいつと行く予定では無かった。


「お前まだ落ち込んでるのかよ」


「・・・うるさいなぁ」


「俺は告ったっていう行動が大事だと思うぞ、お前はよくやったよ」


和樹は僕の肩をポンポンと叩きながら言った。


「...そうかな?」


励ましてくれるのは嬉しい。


でも気分が良くなかった、落ち込んだ時に誰かに励まされないと立ち直れない、そんな自分だから振られたのかな。


男らしくない、情けない自分だから...


どうしてもネガティブな考えしか浮かばず、自分が嫌になる。


「まぁ元気だせって、ほら焼きそば奢ってやるからさ、ちょっと待ってろ!」


と言うと和樹は屋台に向かって走っていってしまった。


「ちょ...」


僕が止めようとした時にはもう既に遅く、和樹は人混みの中に消えていってしまった。


人の流れからなんとか逸れ、道路の端で和樹を待つことにした。


大きく、きれいに、弾ける花火をボッーと眺める。


...どうしてもあの日の事が頭から離れない。


あの時、もし生駒さんからの返事が肯定の言葉だったら...?


僕はどうしてたんだろうか、その後は...?


何も思いつかない。


結局は生駒さんが近くにいてくれればそれで良かったのかもしれない。


僕の思いは、軽いものだったのかな。


...まぁ、でももう終わった事だし、考えても無駄だよな。


物思いにふけていると、不意に肩に何かぶつかる。


「あ、すいません」


よく聞き覚えのある声だった。


それも、自分にとっては心地よく幸せな声。


...今1番会いたくて会いたくない人の声。


振り返ると、浴衣姿の生駒さんだった。


「あっ...」


「あ」


気まづかったのもあるが、浴衣姿がきれい過ぎて、言葉が出なかった。


心音が大きくなり、花火の音が小さくなる。


「1人なの?」


「いや、友達を待ってるんだ」


「そっか」


意外にも、生駒さんは気さくに話しかけてくれた。


どうやら、気にしてるのは僕だけみたいだ。


「生駒さんは1人なの?」


「さっきまで友達と一緒にいたんだけどね」


「迷子ってこと?」


「ふふっ、そうだね」


生駒さんが口元に手を当てて笑う。


そんな笑顔で微笑まないでほしい。


更に心音が強くなる、花火の音が聞こえない。


「おーい!彩良ー!」


少し遠くに、生駒さんの友達が手を振っている姿が見えた。


「あっ、いた」


おーい、と生駒さんも手を振り返した。


自分はただ、その横顔を眺めていた。


「じゃあ私もう行くね」


ここで別れるのは嫌だった。


この時間がずっと続けばいいのになんて思った。


「ねぇ」


「なに?」


やっぱり、好きだ。付き合って欲しい。


「...やっぱなんでもない」


喉元まで出かけているのに、言葉に出せなかった。


「じゃ、またね」


「うん、またね」


僕は、友達の方に向かっていく生駒さんの背中を眺める。


花火でも、ちょっとした風でもなんでもいいから、僕の背中を少しでも押して欲しかった。

結局僕は、それを眺めることしか出来なかった。


生駒さんの姿が見えなくなると、僕は人混みの中にぽつんと取り残された。


これが、虚無感なのか、喪失感なのか分からないが、夏なのに胸の真ん中から冷たくなっていくような、そんな感覚がした。


本当に恋なんて嫌いだ。


叶わなかったこの思いの捨て先も分からないし、多分これから花火大会がある度に今日のことを思い出してしまう。


悪いことばっかりだ...だけど...それでも...


生駒さんの事を考えると、冷たくなったところがまた暖かくなる感覚もする。


やっぱり僕は生駒さんが好きなままなんだ。


近くにいてくれるだけじゃ足りない。


顔、声、服装も喋り方も、生駒さんの全部が僕の胸を熱くするのに、それを伝えようにも、胸が異常に痛くなって仕方がない。


...矛盾してるとは思う。


恋なんか嫌いでも生駒さんが好きなんだ。


もう一度だけ伝えられるだけで、随分と楽になれるはずなのに。


「......君が好きだ」


「ん?なんだって?」


後ろから不意に話しかれ、驚いて振り向くと、焼きそばを買って戻ってきた和樹が立っていた。


「い、いやなんでもない...」


「ん?花火で何も聞こえなかったぞ、ほら焼きそば」


呟いた言葉は、やっぱり人の声と花火にかき消された。


いつか、何にもかき消されない様に生駒さんに伝えられたら...。


貰った焼きそばを食べながら、ふとそんなことを思った。


花火の下、遠く向こうに生駒さんの横顔が少し見えた気がした。

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届けメランコリー かつどん @katsudon39

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