女解体師伝

美作為朝

アルコール度数6% 発泡酒など

 発泡酒を飲んでTVを見るだけの男が座椅子に座ってスーパーの惣菜をつつきバラエティ番組に調子を合わせただけの下卑た笑いをする。


「へへっへ」


 これが私の夫だ。

 夫の名は大牟田淳おおむたあつし

 何が面白いのかももう一つわかっていないのに笑っている。

 私は夫がわかっていないことを知っているが、夫は自分がわかっていないことを自分でわかっていない。

 私は夫が食べている惣菜を調理した人間を知っているが夫は誰がつくったのか何が入っているか、実は賞味期限がいつなのかすらわかっていない。

 私が知っていて夫が知らないことはないが、夫が知っていて私が知らないことはこの家には存在しない。

 おそらく、この世の中にも存在しない。

 夫がもぞもぞ座椅子から立ち上がりだした。

 この男が家の中で動くのはトイレに行くときと風呂にはいるときだけ。

 どうしてこんな男と結婚しているのか考えることをもうやめた。

 どうして結婚したのか、過去形で考えることもやめた。

 どうしてそんなことを考えなければいけないのかその是非についてのみ考えることに取り組んでいる。

 これは異常に難解である。

 解ければフィールズ賞ものだ。

 だが気が滅入るだけだ。


 アルコールを摂取すると利尿作用があるらしい夫の便器への放尿の音が響く。


 ちょぼちょぼちょぼちょぼ。


 なにも出来ない庭つきのギリギリ一軒家、自分の部屋へいくより隣の窓のほうが近い。こんな小さい家は嫌だ。

 早々に真面目だけが取り柄の三流サラリーマンと結婚し独立した娘は神より正しい。

 人生はギャンブルだ。

 タダでこんなにスリリングなものを味わえることはそうそうない。

 パチンコも競馬もIRも要らない。


 シャー。


 風呂場の扉が締まる音。続いて風呂桶の蓋を開けるガラガラという音。

 ほろ酔いのまま入浴しそのまま就寝。

 これがこの男の最大の楽しみなのだ。

 私はTVのチャンネルを変え明日の天気予報をチェックし、夫が飲んだ500ミリの発泡酒の缶を軽く潰し、空き缶の分別ゴミの袋へ入れる。

 金属のゴミ収集は第二金曜日だ。

 夫は必ず惣菜のキュウリの酢の物を残す。

 タコは残さない。

 私は菜箸さえばしでキュウリをつつきながら惣菜のパックを左で汁を落とさないように握りつぶし、そのまま可燃ごみへダラス・マーベリックスのSFスモール・フォワードルカ・ドンチッチなみの正確さで投げ入れる。

 2ポイント。

 私は第3Qにおいてもまだこのチームのポイント・リーダーだ。ダブルダブルは今日も間違いはない。

 ドンチッチには優秀なエージェントがいるが、私には、、、、。

 実は私にも有能なエージェントが居る。

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