第8話 二刀流殺人事件

 その死体はバイブを自由の女神みたいに握りしめたまま、死後硬直していた。


 工口こうぐち警部は新宿のラブホテルの一室にいる。

「ガイシャは良藤りょうとう朱美あけみ、三十歳。首を紐のようなもので絞められて窒息死です」

 朝立あさだち巡査が警部に報告する。


「ふむ、こりゃ情事の最中の殺人かもしれんな。容疑者は絞られているのか?」

「死亡推定時刻、防犯カメラに逃げるようにホテルから出た客が映っていましたが、画像が不明瞭で犯人を特定することは難しそうです」

「仏さんに恋人は?」

「それが良藤朱美は両刀使いだったようでして、男と女、二人の恋人がいたようです」

「二股か。それが殺人の動機かもしれんな」

「男の方は進藤しんどう正章まさあき、会社員。女の方は千房ちぶさ京香きょうか、小学校の教師です」


「わかった! 犯人は進藤正章だ!!」

 工口警部が興奮した様子で叫ぶ。

「何故進藤が犯人なんですか?」

「まだわからんのか。仏さんが握りしめていたバイブ、あれはダイイングメッセージだったんだよ! バイブ、日本語にすると振動。進藤が犯人。というわけだ。どうよ? この推理」

 警部は得意満面である。


「犯人、わかったんだけど」


 そう言ったのはギャル探偵の肉倉ししくらエリカだ。エリカは死体が握っているバイブをまじまじと観察している。

「警部にしては珍しくマトモな推理だけど、犯人は進藤正章ではない。千房京香だよ」

「何だと!? っていうか何でここにエリカちゃんがいるんだ?」

「自分が呼んでおきました」

 朝立巡査が挙手する。

「この事件、警部には荷が重いと思いまして」

 工口警部は朝立にヘッドロックをかける。 


「このバイブ、愛液がついて乾いた跡があるんだけど、根本の前で突然途切れている。これってつまり、元々は双頭バイブだったってこと。犯人は本当はバイブを回収したかったけど、あまりにも強く握られていて指を開けなかった。そこで仕方なく、双頭バイブの片方だけを取り外して回収した。つまり、犯人は女ということになる」


「いや、双頭のもう片方はアナルバイブで、進藤が使っていた可能性もあるではないか」

「……往生際が悪いですよ、警部」

 工口警部は朝立に卍固まんじがためをかける。


「だったら進藤のアナルを確認すればいい。被害者が死んでからまだそれ程時間も経ってないから、進藤がアナルセックスしたとすれば、ゆるゆるになっている筈」


 その後、警部は進藤のズボンを下ろし、肛門を確認。結果シロだったが、逆に進藤に掘られた。


 こうして事件は一件落着。今回も難事件であった。ふぅ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る