上野と浅草

 都内だと、上野や浅草の界隈によく行っている。


 度々出向く理由は、自転車で行けるということもあるが、歴史を感じられるというのも大きい。


 この界隈はいろいろな史跡や寺社がある。


 上野寛永寺や浅草寺、弁天堂がある不忍池、平将門ゆかりの鳥越神社、繁華街の中にある摩利支天といった具合に。


 また、東京国立博物館や国立科学博物館、西洋美術館といった博物館や美術館といった文化施設も集中している。


 このように、上野や浅草は歴史と伝統文化の中心地でもあるのだ。


 春の上野や浅草は特にいい。


 隅田川の堤沿い、上野の山を歩いていると、満面の桜が出迎えてくれる。3月終わりから4月の初めにかけては、堤防を桜色に染め上げる。


 食べ物を買う金すらも惜しんでいるうえに、友達もほとんどいない私には、本格的な花見はできない。去年から今年にかけては、時勢も時勢だっただからなおさらだ。


 それでも楽しい気分にさせてくれる。


「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」


 平安時代の歌人在原業平はそんな歌を詠んでいるが、まさにその通りであると思う。


 桜が咲くと、理由もないのに嬉しくなるし、体がソワソワしてくる。そして、意味もないのに桜を見たくなる。毎年桜が咲く時期には、必ず襲われる現象だ。


 その現象にいつも襲われて思う。やっぱり私も一人の日本人なのだな、と。


 浅草でよく行く場所は、浅草寺と今戸神社であろうか。


 浅草寺はお参りもしっかりするが、何より参道にある仲見世を見るのが楽しい。


 仲見世の辺りにあまたあるたくさんのお土産屋さん。その中でも特に面白いなと感じるのは、数珠を売っている店と法被を売っている店だろうか。


 数珠を売っている店には、様々な宗派の数珠が売っている。


 どれも玉が繋がっているので、数珠は全て同じだと思うかもしれないが、宗派によって微妙に形が違う。なので、宗派によって、親玉が二つあったり、また房が一つしかなかったりするわけだ。共通しているのは、大数珠の場合はどこも108個であるということ。大きさの違う珠が必ずどこかにあること。房があることぐらいだろうか。


 宗派ごとに形状が違う数珠を見て、


(他の宗派の人たちはこんな形の数珠を使っているんだね)


 と勉強になる。


 誰かの葬儀に行かない限り、他宗の数珠を見ることがないからなおさらだ。


 数珠を売っている店を見るのが楽しいのは、勉強になるだけではない。きれいな宝石を見れるから、というのも理由の1つだ。


 水晶、メノウ、ヒスイ……。光り輝く宝石たちはどれも美しい。そのためか、つい見入ってしまう。


 読者の皆さん、今度仏具屋などに行ったとき、数珠を見てみてはどうだろうか?




 今戸神社は浅草寺から川沿いへ少し歩いた先にある。


 この神社には招き猫が至るところに置かれている。


 なぜここまでして猫を推すのか? それは、招き猫発祥の地がこの今戸であるからだ。もちろんこれも、諸説あるうちの1つでしかないので、本当のことはよくわからない。


 そしてこの神社には、時々白い猫が現れることがある。巷ではその白猫に出会うと幸せになれると言われているそうだ。


 以前参拝したとき、私もその猫を目撃したことが一回だけある。とことこと走り回る様がなんともかわいらしい白猫だった。


 また来たときに、あの白猫と会えたらいいな。




 浅草から西へ行くと上野に至る。


 駅を出ると目の前にあるのが、ランドマークの上野公園。


 もとは寛永寺の敷地であったが、戊辰戦争の戦いの1つである彰義隊の乱で荒廃。以後は東京府の土地となったあと、公園として整備された。


 現在の寛永寺そのものは鶯谷寄りの方にある。お堂があるだけの、こじんまりとしたお寺だ。


 今ではこじんまりとしている寛永寺。だが、明治以前の寛永寺は大規模で、東京国立博物館の辺りに本堂があり、今の公園一帯が寺だったのだ。五重塔や上野東照宮といったきらびやかな建物が当時を物語っている。また、京都の仁和寺や比叡山延暦寺のように、皇族から住職を招き入れていたそうだから、かなり格式高いお寺だった。


 もしタイムマシーンがあって、過去に行けるのならば、一度栄えていた寛永寺をこの目で見てみたいと思う。


 そう考えているが、今のこじんまりとした寛永寺も嫌いではない。


 春は桜がきれいだし、何より静かな空間の中に聞こえる小鳥のさえずりに癒されるからだ。


 歴史と伝統、そして桜の町。そんな上野浅草が、私は好きだ。


 何度行っても飽きないし、行くたびに何かしらの発見がある。


 今度は、まだ行ったことがない上野動物園とかにも足を踏み入れてみようかな。

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