29話
助八「猪がいるぞ!権っ」権平「挟むか!」そういうと権平はゆっくりと、猪に気づかれないように反対側に歩いていった。助八はその様子を見守りながら、その手には猪目掛けてピストルを構えている。2人が持つピストルはどこぞの戦場で拾ってきた代物である。2人が新品のピストルは買えるわけわなかった。明治の時代になると江戸よりかは近代化が進む、令和時代を生きている現代人からすると、とてつもなく不自由な時代だ。現代は何不自由なく暮らしていける道具で溢れ返っている。寒い時は暖房をつけ、スマホ1つで現代を駆け巡れる。いずれ人は普通に空も飛べる時代がくる。しかし、人間というのは不思議な物で「有るものには満たされない」ようなふうで、不自由なるものには不便を感じてしまう。現代人が明治時代に転生されたら、その不便さに苦痛を感じ嫌になるだろう。
助八が反対側にいる権平に向かって手を挙げる。ズドーーン権平の打ったピストルの玉が猪の脳天に直撃した。そのすぐ後に助八もピストルを打った。ズドーーン助八の打った玉が猪の脚に当たる。絶妙な息のあったコンビネーション攻撃に猪は逃げ遅れている。権平はすかさず近寄り刀を抜きさりとどめを刺した。権平「助っ、久々の猪鍋だな!おっかぁ達も喜ぶぞ」助八「ほんとだ!大物が捕れたな!」2人は猪の両手両足を縛り一本の長い木の棒で吊るし、肩に掛けて歩き出した。
助八「よし、ここらで腹ごしらえしよう。」権平「そうだな。」2人はひとまず猪を置いて食事にした。助八「なぁ、権っ、時代はどんどん西洋化していくぞ、江戸には帰れないぞ。」権平「帰れないんじゃなくって江戸はもうねえよ。」2人はおにぎりを頬張っている。権平も助八も父親を戊辰戦争で亡くしている。最後まで幕府軍についた2人の父親は、薩摩、長州藩による新政府に敗れてしまった。助八「しかしあれだな、都が東京になるらしいぞ。」権平「東京!聞いたことねぇな」助八「伊勢からだいぶ離れちまったな。へへへ、けどな、明治って名はいいな、おらぁすきだ、理由はなんであれ、明治は江戸より良い名だ。」権平「まぁな。」2人が会話をしていると木陰から誰かが歩いてきた。杏「もう終わったの?」権平の妹の杏が、自宅付近の裏山で狩りをする兄達を心配して駆けつけてきた。権平「杏も手伝え。」杏は言われるのを悟っていたかのように、腕に山菜取り用の布袋を持っている。杏「はいはい。」嫌そうでもない杏がいた。杏にとっては権平は兄、助八は小さい頃から遊んでくれたお兄いちゃん的な存在で、杏自身暇になると2人に近付いていた。
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