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宮野 碧

第1話ゲームスタート

「Winner骸!」

家庭用ゲーム機から勝利の宣言がされる。

「あー疲れた」

ヘッドホンを雑に外して床に置く。

「おにぃ何連勝?」

隣から幼気な声が聞こえる。そちらを向くと、

「69連勝だな」

「おおー」

白と黒の入り混じった髪を腰まで伸ばしている幼女…少女が称賛の声をあげる。このめっちゃ可愛い奴が俺の妹、ココロだ。

「おにぃココロは100連勝した褒めて」

「すごいじゃないか!でもそれと同時に俺の快挙の影が薄れたな!」

妹に負ける兄など存在しないというセリフがあった気がするがあれは嘘だ。なぜって?ここにいるからだ。

「ヒキコモリ歴は俺のほうが長いのになあ」

「おにぃその話題禁止。メンタルやられる」

あっ…

「話題を切り替えておにぃ、これやろ」

ココロがゲームソフトと思われるパッケージを見せる。ドンッ!という効果音が似合いそうだ。

「タイトルは…ゲーマーズエデン。ゲーマーの楽園ねえ」

「一緒にやろ」

コントローラーを手渡される。どうやらマルチが可能なようだ。

ソフトをゲーム機に差し込み起動させる。テレテレテッテレレと射幸心を煽る演出から始まる。

「……」

ゲームに集中してお互い無言になる。今俺達の目にはゲームの画面しか映らない。いや、映れない。

聴覚、嗅覚、触覚、味覚までもがゲームにだけ向けられる。

「名前を入力してね!」

キャラの名前を決めるようだ。ネットゲームでも無いし本名でいいか、疎無うとむっと。

今思えば中々に癖の強い名前だなあ。

妹はココロと入力する。まあ当たり前か。

「まずはチュートリアルの人類編から!街の人に話しかけて王国について聞こう!」

チュートリアルに人類か。これからさぞかし凄い種族が出てくるのかな?

そのへんにいた国民に話しかける。

「この国の状況だって?変わったこと聞くねえ。今この国は人類の最後の砦なのじゃ。ここを落とされれば人は他の種族の奴隷、家畜に堕ちてしまうだろう」

国なんてどうでもいいから世界観教えろ。

「そして今王座をかけて争いが起きていてな。現国王か新国王を決めるかの争いなのじゃが…」

現国王派の方が劣勢、国民曰く現国王はかなり聡明な人らしい。

「他の人たちにも聞いてみよう!」

ガイドらしき立ち位置の声の指示に従い聞いていく。画面は二分割され兄妹それぞれ違う人に話しかけているので混乱する。

「現国王は慎重すぎる。若者こそが主役になるべきなんだ」

「現国王は追い詰められた状況でも打開策を考えている。若者にそれが出来るとは思えんな」

賛否両論、でも聞く限り現国王の方が良さそうだ。

一通り聞き終えるとゲームのやり方解説に移った。

「ゲームをしてくれる人を探して話しかけよう!」

長年の勘を活かして一発でそのNPCを当てた。

「まずはシンプルなパズルゲーム対決!」

ここで対戦が始まるようだ。パズルゲームか…

「十字ボタンで移動!R、Lボタンで回転だよ!」

パズルゲームの対戦といったらやはりテトリス、ぷよぷよと同じシステムを採用している。ブロックを消して妨害すると言うわけだ。

「よーい、スタート!」

ゲームが始まりカチャカチャとコントローラーの音とゲームの効果音だけが聞こえる。

赤、青、緑といった王道なカラフルなブロックを積み上げていく、俺は一気に消してお邪魔ブロックを一気に贈るタイプだ。

「トゥルン!」

変わった効果音が鳴る。

「…あっ」

育ててきた一気消し用のブロックが塞がれる、そうだ。対戦相手はココロ、パズルゲームは十八番だったな。

そこからは俺のプレイングを完封されて勝負はあっという間についた。ココロの画面を見ると綺麗に全消しされていた。

「ふふん」

ココロが満足気に笑う。負けると分かっていても悔しい。

「勝者ココロ!ドンドンパフパフー!」

ストーリーが進む気配を見せる、他の操作方法、この世界の世界観、物語の進め方などを教えられた。

進め方は現国王派に加わり新国王派にゲームを挑んで潰していくものだった。(まあまあ発想が酷い

ゲームはこっちでいう争いでありゲームに交わされた契約、取引、賭けは絶対。相手の国を奪うのも戦争の代わりであるゲーム、ゲームの強さは武力に即決する世界だ。

新国王派を指揮するステラ・キルリボンを打倒するのが人類編のクリアであるらしい。人類少なすぎね?と思ったら他種族に追い詰められてこの国しか人は残っていないと教えられた。

新国王派をボコシ終わるとステラがついに出てきた。

「あなた私達の方に寝返らない?」

「今の国王だと時期に人類は滅びる、私の方へつけば、地位も金もあげるわよ」

選択肢が表示される、二分割した画面両方に出てレティクルは共有ではない。

「どうせならさ」

「「どっちもやりたい!」」

ココロは現国王派へ、俺は新国王派を選択した。

ストーリーは二つの画面で分岐し、お互いチラチラ画面を覗きながら進めていく。

ストーリー終盤に差し掛かり、分岐したことで起きるズレも大きくなってきた。

現国王√はステラを倒し国王の慎重さが実を結んだのかお隣の種族、ドワーフの領土略奪に成功。

新国王√は国王を幽閉したのだがステラの背後に天族がいることが発覚し人族の領土を完全に奪われるところでチュートリアルは終わった。

「あーチュートリアルだってのに具沢山だったなあ」

「おにぃまだまだ行ける?」

「勿論」

このゲームのクリア条件は全ての種族、領土の統合。そして種族毎に違うゲームが用意されているらしい、正直今日だけで全クリしてしまいたいほどだ。

「チュートリアル終了!ここからはの力で頑張ってね!」

ここでガイドは役割ごめんというわけ―

「ほんとの意味での貴方達だけの力でね!」

画面が眩しいほど光り輝き始める。

画面はもう見えない。

画面が点滅する。

画面の点滅は加速していく。

画面が歪む。

画面が吸い込まれるような歪み方をする。

いや、これは…

俺達が画面に吸い込まれている!?

咄嗟の判断で隣に居るであろう妹に手を伸ばす。

「おにぃ!」

手を掴む、なんか引きずり込むようで嫌だけど逸れないように。

ついに俺達の身体の感覚は消えた。


「やあ!目が覚めたかい?」

甲高いゲームの合成音声のような声で目が覚める。

「うっ、確か画面に吸い込まれて…」

「正解!よく覚えてるね!」

甲高い声は背後から聞こえる、だが振り向いても姿は見えない。

「おにぃ…」

「あ、ココロ!」

ふらふらと妹が起き上がる。体力を消耗したのか疲れているように見える。

「これで皆目が覚めたね!」

甲高い声が喜んだように言う。

「君達はゲーマーズエデン、楽園に招待されたんだよ!簡単に言うとさっきプレイしていたゲームの世界って訳さ!」

あー、小説で読んだことのあるシチュエーションだな。

「君達には選択権がある!このリアルゲームをプレイするか、記憶を消されて何もなかったことにするかさ!」

選ばせてくれるのは小説とは違うな。

「ココロ、どっちをえらぶかは決まってるよな?」

「うん」

簡単だ。

「俺は、俺達は…」

少し溜める。

「このゲームをプレイする!」

ゲームに魅せられた者なら誰もが望んだであろう願い、ゲームの世界に行くことが出来るのなら、そちらを選ぶ以外無い。

小説だと元いた世界に戻ることを目標とするけど、俺達の目標はゲームのクリアだ。

「そう答えてくれると思ったよ!」

「特典として君達には一つだけ質問させてあげるよ!」

質問、これで難易度は変化するのだろう。

「ココロ、お兄ちゃんが決めていい?」

「うん、おにぃ信じる」

こいつの声が聞こえてからずっと気になっていたことを聞く。

「お前は何者なんだ?」

「そんなんでいいの?」

確認の質問が飛んでくる。

「このゲームの攻略法、秘密、他種族の弱点、世界観とかは聞かなくていいの?」

「それよりもお前が何者なのかを知りたい」

「そう!それなら良いよ!」

甲高い声が了承する。

「僕はゲームそのもの。いわばゲームの概念なのさ!」

「例えばトランプ!」

甲高い声の場所にトランプが現れる、声はそこから聞こえている。

「例えばチェス!」

キングの駒へと変わる。

「例えば電子ゲーム!」

ドット絵のキャラが現れる。

「例えばサバイバルゲーム!」

ピストルに変化する。

「そして、死の遊戯デスゲーム!」

「!!」

デスゲームといった瞬間、姿は消える。漫画だけだと思っていた禁断のゲームの名前。

「そんな数々のゲームそのものなのさ!」

じゃあこの甲高い声はゲームの声とでも言うべきだな。

「質問には答えた!早速楽園へ!」

身体がパラパラと分解されていく。小さなブロックのような物になっていく。

怖くはない、だってこれから楽園へ行けるのだろう?ワクワクや興奮、好奇心だけが心を埋め尽くす。

「頑張ってね!」

甲高い声、ゲームの声に送り出され返事をするまでもなく辺りは光に包まれた。


「……ぷはっ!」

ずっと呼吸出来ていなかったような錯覚を覚えながら勢いよく息を吸う。

「あっ、ココロは!?」

首を回転させ辺りを見渡すがココロの姿は見えない。探しに行こうとした時、

「おにぃどこ!?おにぃ!?おにぃ!?」

ココロの声が聞こえる、でもこれは…樽の中から?

「うーむ、よっこらせっと」

樽の蓋を開ける。

「おにぃどこ!?…あっ!おにぃ!」

樽の中からココロがぶわっと飛び出す。

「おー妹よー」

「おーにぃー」

感動の再開を片方が樽の中にいる状態で果たす。正直この絵面はかなり面白可笑しい。

「おにぃ、ポケットに金あった。宿取りに行こ」

「切り替えすごいしゲームの世界に来たことの感動に打ちひしがれる時間ないね」

「物語速く進めないと」

「作者乗り移ってるよ」

よくわからない会話をしながらも町らしき場所を練り歩く。

この辺りはチュートリアルで通った地域そのもの。でも違うのはこの世界の住民が活きていること。

「おにぃ、あれ」

何やら怒号が響いている。ミミヲカタムケてみると、

「不正だっ!」

「そんな証拠、どこにあるのかしら?」

大柄な男が桃色の髪の少女に不正を訴えていた。

でも証拠がないため不利なのは男の方か。

「チッ」

男は舌打ちをして台から離れる。

少女の方を見ると新国王派のリーダーステラだった。

どうやらゲームの相手を募集しているらしい、行こうとすると、

「ステラ、私が相手よ!」

青色の髪の少女が吹っ掛けた、そして何よりでかい。何とは言わんが、でかい。

「良いわ、やってやろうじゃない」

ステラが応じる、ゲームはシンプルなトランプのようだ。

「ルールは通常のババ抜き、賭けるものは」

「私が勝ったらステラのデモ活動を禁止させてもらうわ」

「私が買ったら貴方の…そうね。お祖父様から貰ったらしいドレスでももらおうかしら?」

「でもサイズ合わな」

「身ぐるみ剥がしてあげるわ!」

シリアスな雰囲気が一転漫才のような空気に変わる。

てゆうか二人ババ抜き。虚しいだけじゃないのか?

ステラがカードを配る。

お互いに手札を確認して捨てていく、この時点で不正は見当たらない。

「私からやらせてもらうわ」

ステラが一枚引いて捨てる。まだ序盤も序盤、まだ不正はないか。

黙々とトランプを引いては捨ててを繰り返し手札は青髪が4、ステラが5。

「むぅー。これ!」

青髪の側が引くが揃わず顔を顰める。

「あと2枚」

ステラは揃ったらしくトランプを捨てる。特に違和感は無い。

「…よし!」

青髪の方も二分の一を引けたらしくトランプを捨てる、ここからがババ抜きの真骨頂。

ステラが一枚引く、だが引いたのはババだったようだ。

青髪が引く、ここもババ。

そしてステラ2周目、そこで俺は見つけた。

ステラの瞳には、青髪の手札がトランプの裏面では無く、表面で映っていた。

「ココロ、ステラの目をよく見てくれ」

「…あっ」

気付いたようだ、でもチュートリアルではパズルゲーム対決だったし、あんな魔法のような不正も無かった。

「…そういうことか」

あのゲームの概念は質問に答えるのを少し渋った。それはゲームとこの世界は違うから、チュートリアルは意味を成していないから。

唇を噛む、質問を誤ったかもしれない。

「おにぃ大丈夫?」

「ああ、大丈夫」

過去は振り返らない。なんか駄目人間っぽいこと言ったけど過去には戻れないのだから。

こんなの勝てるわけが無い。手札が透けるのはカードゲームに置いて致命的。

でも、俺はそのジャンルに関しては俺の十八番。例え手札が透けようと勝つ自信がある。

「…揃ったわ」

ステラがトランプを捨てる、青髪は負けたようだ。当然と言えば当然か。

「じゃあ持ってるもの全部置いてって」

青髪は従い持ち物を置いていく、この世界のゲームの取り決めは絶対的な強制力を持つ。

青髪がとぼとぼと下がる

「もう次はいないのかしら?」

煽るように対戦相手を探す、決定的な勝利があると知るととても滑稽。

「俺がやってもいいかな?」

トランプが散らばっている机に向かいながら言う。

「いいわよ」

またカモが来た。とでも思ってるだろうな。

トランプを集めて切る、シャッフルしおわり手札が配られる。

揃ったものを捨てていく。二人だから手札は終盤に近付いていく。

「そういえば何を賭けるか決めてなかったね」

「俺が勝てば一つだけ要求させてもらう。君は?」

「私も同じでいいわ」

何を要求するかはもう決めている。

手札は俺が3枚でステラが2枚、ここからはステラのイカサマと俺との勝負、運は絡まない。

「引かせてもらうわ」

余裕の笑みを浮かべて俺の手札から一枚抜き取る。

「ふふっ、揃っ…てない!?」

やっぱり引っ掛かった。ステラはイカサマだよりでババ抜きのルールを熟知していない。

「君の目、俺と視界を一方的に共有してるでしょ?」

「っ!?」

イカサマを見破られたせいか露骨に顔を顰める。バレバレだよ。

「ババ抜きってね、両者の手札が同じになることは無いんだ」

二人だからこその法則、最初の手札以外同じになることは絶対にない。

「俺の手札は3枚だった。けれど君の目には2枚と映った、なぜって?」

ネタバラシだ。

「カードを重ねてたんだよ」

俺の磨き上げられた技術によってカードを完全に重ねた。そしてステラは俺目線でカードを見ているのでスペードの4だと思って引いてもジョーカーが来た。それは重ねておいたカードを引かせたからだ。

「イカサマよ!」

ステラが不正を糾弾する、けれど。

「そんな証拠どこにある?」

ステラの言葉を真似するように言う。

「普通なら相手の手札なんて見えない、見えたってことはイカサマしてたのかな?」

イカサマで見破ったイカサマは糾弾出来ない、なぜ気付いた?という質問に答えることが出来ないから。

「ぐっ、…ゲーム続行よ」

もう勝敗は決まっている。イカサマをして勝つということはイカサマ無しの状態が弱いということでもあるのだ。

「……」

3枚のカードに1枚ずつ手をかける、引きはせず選ぶうな動作をする。

でも俺はカードを見ていない、ステラの呼吸、筋肉の僅かな動き、動揺による視線に集中させていた。

「…これかな」

呼吸が安堵したようにリズムが落ちたカードがあった。それ以外を選んで引く。

「揃った」

一組捨てて手札は1枚、次引くのはステラだからこのゲームは…

「あがり、俺の勝ち」

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