第十一話:月曜日の方違さんは、一生許さない

11-1 僕はじゅうぶんすぎるほど幸せだった

 僕らがただの友達じゃなくなって一か月が過ぎたけど、なにかが大きく変わったわけではなかった。

 手をつないだり、肩を寄せ合って小さな画面を見たり、深夜にメッセージをやりとりしたりなんてことは前からやっていたし。

 もちろん、もっと近づきたい、さらに深い部分を分かち合いたい、という気持ちが無かったわけじゃない。

 というか、正直、いつもそう思っていた。

 でもそのままでも、僕はじゅうぶんすぎるほど幸せだった。


「まもるくん、お願いがあるんだけど……」

「魚肉ハンバーグ? 要らないならもらうよ」

「それもだけど……」


 お昼の生徒ホールで、僕と方違さんはストーブにいちばん近いテーブルを確保してお弁当を開いていた。

 窓の外では雪がちらついている。方違さんの制服の紺色が、目に染み込みそうなほど深い。


「他にもお願いがあるの。もし、よかったらだけど」

「なんでも言ってよ。なんでもするよ」

「ん……」


 なんでもする、は言いすぎだった。でも、彼女がこんなふうに何かお願いしてくることはあまり無いから、すごくうれしかったのだ。


 方違さんはブレザーの襟を直しながらうなずき、真剣な顔で言った。

「あのね、今度の三連休、どこか、連れてってくれる?」

「もちろん。どこがいい?」

「まもるくんが決めてほしい。わたしは聞かないようにする。前みたく、お休みの月曜日に出かけたいの」


 なるほど、方違さんは五月のリベンジがしたいわけだ。


   ◇


 月曜日の方違さんは、たどりつけない。

 神様の力か何か知らないけど、その不思議な現象は、彼女の身に起こるものだ。


 だったら彼女は出かけなければいい。彼女じゃなくて僕が出かけるのだ。彼女は僕に巻き込まれて、どこかに引っ張って行かれるだけ、というわけだ。

 そんな理屈で神様(か何か知らないけど)をごまかせるのかは分からない。

 でもうまくいけば、変な場所に迷い込んだりせずに二人で出かけられるかもしれない。


 時間を告げずに「出かける準備しといてね」とだけお願いして、土日の間に僕は計画を練った。


 月曜の朝、僕は予告なしに方違家のチャイムを押す。親が出てくる可能性もあるけど、そんなの怖がっていられない。

 彼女が出てきたら、その瞬間に手を握り、そのまま駅に引っ張って行く。まずは県庁通りでマック、それから丸菊プラザヤング館で服を買って、本町の永観堂でメイプルケーキとお茶、それから――映画は今どんなのやってるんだろう? なんとしても、もとの玄関に彼女を送り届けるまで、一瞬たりとも手を離さない。


 もちろん、そんなことがほんとにできるのかは分からない。食事、服の試着、財布の出し入れ。トイレに一度も行かないわけにもいかないだろうし。


 でも心配し始めたらきりがない。日曜の夜、とにかく僕は早めに布団に入った。

 携帯で天気予報を確認すると、明日は、雪。でもこの季節には普通のことだ。土曜も日曜もちらちらしてたし、僕はそれほど気にしていなかった。

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