第二話:(月・祝)の方違さんは、たどりつけない?
2-1 僕にはひとつの計画があった
「明日から連休だね」
「……ん」
生徒ホールの窓際のテーブルで、僕らは二人でお弁当を食べていた。春の日ざしが暖かい。
「
「ん……」方違さんは首を振った。
「そっか」
「苗村くん、その磯辺揚げ……」
「魚肉ハンバーグと交換する?」
「ん。ありがと」
方違家の魚肉ハンバーグを、僕は三日連続でもらっている。おいしいのだけど、背の伸びない娘にカルシウムを取らせようとお母さんが毎日お弁当に入れるものだから、本人はうんざりしているらしい。
あれ以来、僕と方違くるりさんは、月曜以外はこうしてお弁当を食べたり、乗換駅から学校前まで、朝夕いっしょに電車に乗ったりしている。
そろそろ、正式に友達と言ってもいいんじゃないかな。
と思うけど、難しい。制服姿でしか会ったことがない間は単なる「クラスメイト」だって、誰かが言ってたけど。
だからというわけじゃないけれど、僕にはひとつの計画があった。
「ねえ方違さん、四連休の三日目、空いてる?」
「ん?」
方違さんは磯辺揚げの端っこをくわえたままで、目をぱちぱちさせた。
「いや、あのね、お姉ちゃんが東京から帰ってくるから、誕生日のプレゼントでも買おうと思ってるんだけど、女子の喜びそうなものが分からなくて」
「女子の……」
「よかったら、一緒に選んでくれない? お礼にケーキか何かおごるよ。好きなのある?」
「永観堂のメープルケーキ……」と言いかけて、方違さんははっと気づいた。「ごめ、その日はだめ。月曜だよ」
「大丈夫。方違さんは出かけるんじゃなくて、僕の用事について来るだけなんだから」
「んー……」
方違さんは磯辺揚げを箸で空中に掲げたまま、考え込んでしまった。
僕の計画というのは、どこにもまっすぐにたどりつけない月曜日の方違さんを、彼女の目的ではなく、他の人間の、つまり僕の目的で連れ出すことだった。
どうなるかは分からないけど、方違さんが幼いころから抱えているこのトラブルについて、もっと知ることができるかもしれないし、なにか良い方法が見つかるかもしれない。
それに、一度でも月曜に問題なく出かけることができれば、きっと彼女の気持ちも少し楽になるだろう。
「だけど、また迷惑かけちゃったら……」
「いいよ別に。こないだだって、ちょっと面白かったし。付き合ってくれる? 買い物」
「……ん」
僕らが教室に戻ると、部活の集まりに行っていた後藤と佐伯さんが先に戻ってきていた。
「苗村、連休にバーベキューするんだけど、お前も来ないか」
「いいね。いつ?」
「四連休の三日目」
僕のとなりで、方違さんがほんのちょっとぴくっとした。
僕は首を振った。
「悪いけど、その日は先約があって」
「先約?」
「ちょっと用事がね。姉ちゃんも帰ってくるしさ」
「おっ、姉ちゃん帰ってくんのか。こいつの姉ちゃん、けっこう美人なんだぜ、黙ってれば」
「うそ、待って、ロリコンなのにシスコンって矛盾してない?」
「どっちも違うし」
「苗村、姉ちゃんもバーベキューに誘ってくれよ」
「勘弁してくれ」
話の間、佐伯さんは何度も僕と方違さんの顔を見比べていたけど、僕は気づかないふりをした。
◇
夕方の乗換駅で、僕らは待ち合わせ場所を確認した。
「このホームの、このベンチに朝九時ね。ここなら問題ないよね?」
「……ん」
方違さんはうなずいた。
毎朝会って夕方に別れるこの駅を集合場所にしたのは、たとえ月曜でも、ここにたどり着けなかったことは今までほとんど無いと彼女が言うからだ。
「すぐ近くだから、うち」
と言って、方違さんは線路とフェンスの向こうに見える通りを指差した。新しそうな白い家が五軒ほど並んでいる。
「……あそこ。三分ぐらい」
どの家? と、僕はあえて尋ねなかった。そこまで聞くのは踏み込み過ぎな気がしたからだ。
でも、いま思えばそれは間違いだった。
できれば僕は、方違さんの家を聞き出し、月曜の朝九時前にはチャイムを押し、なんなら彼女の部屋まで行って、左右同じ靴下をはくのを確認し、しっかりと手を握って、そのままケーキ屋まで引っ張って行くべきだったのだ。
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