マインドセット&トレーニング

シヨゥ

第1話

「バキバキに仕上がってもまだ足りないと思ってしまう。周りと比べて何か小さく思ってしまう。そうしてまた僕はトレーニングを続けるんだ」

 筋肉の鎧をまとった友達は辛そうにそう言った。

「足りないという思いが原動力なんだ」

「そう。辛くて辛くて辛すぎるんだけどさ。それでもここまで耐えて耐えて耐えてやってきたんだから、周りよりも格好良くなりたいんだよね。だからもっともっともっと成長させないとって」

「辛いんだ」

「辛いよ。よく『筋肉をいじめる』なんて言うけどその通りで、体に悲鳴を上げさせて僕らは大きくなるんだ。それが楽しいわけないだろう。だって悲鳴を聞き続けるんだから」

「それでも続けてしまう」

「そう。あの頃に戻りたくないからね。見返すために、もう甘く見られないために始めたトレーニングをここで止めてしまったらすべてが無駄になってしまう。またあの頃に戻ってしまう」

「過去の恐怖体験が君をそうさせたんだ」

「うん」

「つまり君のトレーニングとその恐怖体験が記憶としてセットになっているんだな。そりゃあ辛いよ。だったらトレーニングともっとプラスな体験をもセットにしたらいいんじゃないか? たとえば大会に出てみるとか」

「無理無理無理。僕のような体じゃ箸にも棒にも掛からないよ」

「それでいいじゃないか」

「えっ?」

「自分を良くするために大会に出るんだからさ。それでいいよ。そのためにちゃんとトレーナーについてもらって、自分を良くする方向でトレーニングをしてみるんだ。そうしたらその辛さが少しは楽しさに変わるんじゃないかな」

「そうかな?」

「そうだよ。君は今は後ろを向いている。だから前を向くようにするんだ。前向きに生きる。これって楽しいことじゃないかい?」

「そう、だね。うん、ちょっと考えてみる。ありがとう」

「どういたしまして」

 少し彼の顔が明るくなったような、そんな気がした。それからというもの彼には笑顔が増えていった。会うたびに「ありがとう」と言われる。そのたびになんだか気恥ずかしさを感じるのだった。

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マインドセット&トレーニング シヨゥ @Shiyoxu

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