始まりの朝

戦いが、終わった。


「… …私は… 必ずまた、この町を奪いにくる」




そう言い残して、命からがら男は去った。



"今世紀最大の戦い"から、7年の歳月が流れようとしていた。




「っだーーーーー!!」

「…やめろいきなり、鼓膜破れる」

「緊張してきたぁー!!なんだよ、お前緊張してねーのか?!」

「どう見てもしてる。けどそんなバカでかい声で叫んだって、緊張は飛ばない。今から無駄に力使わない方がいい」


未成年らしい青年が2人、たった今来たバスに乗り込もうとしていた。


1人は寝起きなのか癖毛なのか、派手な茶髪のボサボサ頭。真っ赤なリュックを背負い、大きなスポーツブランドのロゴが入った、これまた目立つTシャツを着ている。

見た目通りと言えばいいのか、声もでっかく態度もでかそうだ。



「あ〜〜とうとうこの日が来たんだなー!実感わかねー!!」

「それは、合格してからのセリフだろ。まだ試験すら始まってないんだ。俺たちただバスに座ってるだけだ」



もう1人はサラサラとした、白っぽい長めの金髪が、貴公子を思わせる。

服装もいたってシンプル。黒いティーシャツに黒いスキニーパンツ。手ぶらかと思えば、小ぶりなサコッシュが1つ、腰にぶら下がっていた。




今日は、2人にとって人生最大の"チャレンジ"の日。茶髪の青年はふーっと胸を撫で下ろし、胸につけていた「受験者バッヂ」を確かめた。


"35番 カザン・ストライク"



「おい、カザン。なんでそんな縁起の悪い番号に当たったんだ」

「はぁ?どこが縁起悪いってんだ?」

「"35(ザコ)"」

「ざっ…ザコじゃえねぇ!サ…珊瑚だ!

巫女?巫女か?…お前何番なんだよグレイ!」

「"117(いいな)"だ。幸先がいい」

「なんだとー!てめーそんないい番号当たりやがって交換しろ!」



朝から、騒々しい。受験者バッヂをつける者はつまり、今日は何らかの試験のはずだ。とても試験前とは思えない。カザンという男が、あまりにも騒がしいからか。それとも、隣の金髪が冷静すぎるからか。



「ちょっと!あんた達、さっきからうるっさいのよ!!民間のバスぐらい黙って乗りなさいよ!」


カザンとグレイのくだらない会話が、聞こえていたらしい。いや、あの声量なら当然か。3席離れて前に座っていた、黒髪ショートヘアの女が、キツい目つきで振り返ってきた。2人の知り合いではなかった。



「そんなんで保安部の入隊試験受けるつもり?あんた達みたいなのが保安部になれる気がしないわ!今日は遠足じゃないんだから!」


女は2人に睨みをきかせると共に、指先を突きつけてお説教。胸には2人と同じく、受験者バッヂが光った。


「あっ、お前も保安部の入隊試験受けんのか?!そっか!いやー、緊張するよな!お互い全力でがんばろーぜ!!」


カザンは、女のお怒りをまるで聞いていなかったのか、満面の笑みで拳を突き上げる。女は呆れ顔で、「何コイツ」と言わんばかりにため息を吐き捨てると、極め付けに舌打ちを残して前を向いた。しかし、すぐにもう一度振り返り、捨て台詞を一言。


「そうだ…私の受験番号。"156(イチコロ)"よ」



「…会話に混ざりたかったのか?番号自慢したかったのか」


カザンの隣でグレイがボソッと、それこそ呆れたため息をついた。



『次はー、ロザリナ本部前ー。ロザリナ本部前ー。お降りのお客様はー…』



"受験者"達を乗せたバスは、目的地を目前にしていた。


ロザリナ本部。この町、ロザリナの中心機関だ。正式には『ロザリナ陣使い局本部』である。


"陣使い(じんつかい"とは、聞き慣れないかもしれない。陣は魔法陣の"陣"である。

つまり、彼らはー…この世界にはー…



"魔法陣を操る者"が存在する。



「…グレイ、俺、ぜっっっってー受かっからよ。お前もぜっっっってー受かれよな。

一緒にここでー…高みを目指そうぜ」


「…あぁ」



近代的でシンプルな、一見白い四角い建物だった。ここが、ロザリナの中心機関。最強であり、最高ランクの陣使い達が集まる場所だ。


ここが、彼らの憧れであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

作者より。

壮大(になるだろう)物語のスタートを、お読みいただきありがとうございました。

最初の1ページのみ、ちょっとテンション高めな(?)掛け合いとなりましたが

次ページからはもっと真面目な雰囲気で、ストーリーが始まっていきます。

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