第六章

第37話 いつも主人がお世話になっております


ぐに片付けるわ」


 私はそう言うと、首輪を素手で引き千切った。

 【魔力】が回復したため、想像以上の怪力ちからを発揮してしまったようだ。


 もう昔の私とは違い、この程度では【魔力】を完全には封じる事は出来ない。

 これには悠月ゆづきおどろいたのか、言葉に詰まる。私は首輪を捨てると、


「わたくし、あちらに見える塔で【七姫セブンス】をやっております……」


 『カグヤ』と申します――私は青年に向かって挨拶あいさつをする。そして、


「いつも主人がお世話になっております」


 と頭を下げた。一度、言ってみたかった台詞セリフだ。


「それはどうも、ご丁寧ていねいに……」


 戸惑とまどいならも、青年はこちらを一瞥いちべつすると、


「『レオパルド』です。レイには日頃からって……っ!」


 敵から連射される銃弾が飛んできて、それ所ではないようだ。

 青年は慌てて頭を引っ込める。


 どうやら、敵の中には改造された個体もいるらしい。

 一際ひときわ、大きな個体の腕にはガトリング砲が装着されていた。


「日常生活が大変そうね」


 そんな私の感想に、


「今、心配する事ですか? 美人の奥さん……」


 と青年。彼はいい人のようだ。

 私からあふれる人妻オーラがそうさせるのかも知れない。


 鳴りまない銃弾の雨が着弾と同時に、いたる個所で火花を散らせる。


「あたしが殺る」


 とは悠月。持っていた日本刀を構え、何時いつでも抜刀できるようにする。

 けれど、私が手でそれを制した。


 代わりに私が右手をかかげ、上空に無数の剣を召喚する。

 そして、敵目掛けて右手を動かす。その動きに連動して、剣が敵へと降り注ぐ。


 ――ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!


 地面に剣が降り注ぎ、突き刺さる音が響く。

 けれど、それもぐに収まる。


 敵からの銃声は、もう聞こえない。地面にはピクピクと動いている肉片もあるが、敵のほとんどは串刺しになって動けずにいた。


 『ダメージを与えた』というより――【魔力】の流れを断ち切った――と考えた方が理解しやすいだろうか?


 死んだのではなく、動力エネルギーが切れたのだ。

 肉体を無理に強化していたためだろうか?


 その反動で身体がしおれ、れ枝のようになり、息絶えて行く。


「「……」」


 唖然あぜんとする二人。


「次はあちらを手伝えばいいのかしら?」


 私の視線の先には二体の大型獣人を相手取る赤い外套コートの少女がいた。

 物語でたとえるなら『赤ずきん』だろうけれど、オオカミを相手取ったりはしない。


「必要ないんじゃね……」


 とは青年。確か『レオなんとか』と名乗っていた。

 『レオポン』でいいだろう。


「邪魔すると怒られる」


 とは悠月だ。確かに少女は嬉々として戦っているように見える。


「さぁて、そろそろ終わりにするぜぇ!」


 そう言って、少女は機関銃マシンガンを構えた。

 獣人の顔目掛け連射をしながら、近い方の個体に向かい駆け出して行く。


 そして、小柄な体型を生かし、獣人の股をくぐった。

 同時に急所を目掛け、銃を乱射する。


 あれではもう、使い物にならないだろう。

 悶絶もんぜつし、その場にうずくまるように倒れる獣人。


 残りの一体が少女に飛び掛かるも、いつの間にか少女は保護眼鏡サングラスを掛けていた。

 素早く、閃光弾を放つ。


 悠月が気付いてくれなかったら、私も目をやられていただろう。


「ありがとう――えっと……」


 私が名前を呼ぼうとすると、


「今は『モモ』と名乗っている」


 悠月は答えた。レイが付けたのだろうか?


「可愛らしい名前ね――ありがとう『モモ』」


 私が改めてお礼を言うと、


「どういたしまして、カグヤ姉さん」


 と彼女は返す。もう『お姉ちゃん』とは呼んでくれないらしい。

 恥ずかしいようだ。『レオポン』の方は保護眼鏡サングラスを掛けている。


 どうやら二人共、彼女の戦い方にはれているらしい。

 そんな『赤ずきん』の戦いの決着はぐに付いた。


 閃光弾で目をやられた獣人の口に、今度は手榴弾ハンドグレネードを放り込む。

 轟音と共に、獣人の頭部が消し飛んでしまった。


 また少女は武器を手斧ハンドアクスに持ち替える。

 そして、悶絶もんぜつから回復した獣人の首をね、頭をち割った。


 念のためだろうか?

 少女は燃え盛る炎を目掛け、二体の死骸しがいを放り投げる。


 そこに躊躇ためらいはない。見事な手際てぎわだと言えた。


「頼りになる『赤ずきん』ちゃんね」


 私の台詞セリフに、


「アレは戦闘狂レッドキャップですよ」


 と『レオポン』くん。


「気を付けて――『レッド』と呼ばないと怒られる」


 『モモ』が教えてくれた。

 どうやら、名前にこだわりがある性格タイプのようだ。


「あー、楽しかった!」


 いい汗かいたぜ――と『レッド』がこちらに戻ってくる。

 まるで運動スポーツの後みたいにさわやかだ。


 少女が私に気付いたようなので、挨拶しようと身構える。

 すると少女は――ちょっと、待ってくれ――と手で私の動きを制す。


 ゴオォォォーッ!――と音がひびく。なにかが上空から飛んで来たようだ。

 誘導弾ミサイルだろうか? 空を見上げると飛行型二輪エアリアルのようだ。


 同時に巨大な影が降って来た。


 ――新手かしら?


 その割には『モモ』達は落ち着いている。

 降ってきたのは、どうやら人間のようだ。


 ドシンッ!――と地面を揺らし、着地をする。

 乗ってきたと思われる飛行型二輪エアリアルの方は一旦、空中で静止した。


 【魔術師】が乗っていないため、結界に捕まったのだろう。

 一定の【魔力】を持つ者でなければ、延々と塔への道を歩く事になる。


 そういう結界だ。ぐに推進力が無くなったのだろう。

 飛行型二輪エアリアルは燃え盛る炎の中に吸い込まれるように落ちて行き、爆発した。


 結界については知っていたが、はたから見ると静止しているように見えるらしい。

 一方で着地した人物は、ドラム缶を地面に置いた。そのドラム缶は、


「ふぅー、やっぱり人型でないと上手くあやつれないでやんす」


 と汗をいた額をぬぐう仕草をする。

 重機ロボット――いや、この声は『シンデレラ』だ。

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