白い夢で

 ぴしっと閉まった、窓の向こうはウチの庭。だけど、今や真っ白に塗り潰されて、しんと静まり返った銀世界。ただ、小さな石灯籠だけが帽子みたいな雪を載せて、こちらをじっと見つめている。

 春に咲き乱れるあの花も、夏に生い茂るその草も、秋を彩るこの木々も……。みんな分厚い白の下。鮮やかなる日常は、無垢な非日常に覆い尽くされた。

 だけど、私の心は寂しさよりもワクワクに満ちていて、明るい外をじっと見つめていた。曇り空でも何故か明るい。

 そんな静けさに何故か心を惹かれる。まるでひんやり刺されるようで、胸の奥を冷やすようで……。


「一面の銀世界じゃん!綺麗だねー」


 振り向くと、葉月が隣に座ってた。着ているのは、先日一緒に遊んだとき買ったクリーム色のセーター。細身で長髪の彼女にそれはとてもよく似合っていた。

「いいでしょ!結構、温かいよ。

 祢子もお揃いで買えばよかったのに」

 ……明るく笑うその笑顔は、手を伸ばせば届く距離。そこに彼女がいるだけで、部屋の中が少し暖かくなった気がして……。


「……?」

 ふと、彼女と目が合った。一瞬、まん丸になった黒い瞳が無邪気に光って細まる。彼女の黒髪がさらさら揺れて、甘い香りが鼻をくすぐる。堪らず私は白い外へと視線を戻した。小首を傾げた彼女の笑顔が眩しくて……。


 ……これはきっと夢だと思う。


 私の身体は子どもに戻っていたから。隣の葉月は変わらないのに。彼女とは大学からの付き合いのはずなのに。


 白い庭を黒い仔猫がトコトコ横切る。この寒いのに、一体何処から来て、何処へ行くのか。

 ほんのちょっぴり寂しくなって、隣の彼女に近寄った。……温かい手が優しく触れた。

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