第2話 とりま実験
『研究レポート《2》
特に変化なし
と言いたかったが我ながらすごいものを作ったと自負したい
まずは学習能力の高さだ
最初意思疎通が取りにくいので学習入力装置で脳に直接叩き込んでやろうと思ったがあの耳が邪魔でダメだった
まぁ人間に使えるものが使えるとはまだわからないし人間でも百人に一人は
飛んでしまうから使わないほうがいいだろう
仕方なく、
俺は構想段階にあった資料を解凍して読み直し人間同様に学習させることにした
驚くことに
実験体01はその日に話せるようになった
まだ舌ったらずで発音が怪しいがコミュニケーションが取れるようになった
俺天才
それからは変化が多い日の連続だった
まずは基本的な言語習得の一環で読み聞かせをした
俺は何をしているんだと自問自答したが効果はあった
「……ォ、…ォじぃさンは、しばカりニ、ォ、おばァさンは、川デしばカりニ」
「おい老夫婦が仲良く柴刈りに行ってるだろ」
「?」
「まぁいい。ちなみに柴とは薪のことだ。枝のな」
「…シ。しばは、薪」
「おお!そうだ凄いぞ」
そう言ってつい頭を撫でてしまうとこいつは激しく尻尾を振る
今更だが尻尾穴がズボンにあった
01は嬉しいのかずっと頭を擦り付けるのでやめさせる
心なしかしょんぼりされるが俺には関係ないのことだ
ベルの工作用アームで撫でてもらえそれがいい
試したが虚無顔だったのでやめさせた
それからも01の観察は続けた
正直やることがない
ならせめて、研究を続けよう
こいつの為にも
なんて思ってもいないことを呟いた
01は俺にずっとついてくる
離れない
流石に生理的な時と夜はプライバシー確保がしたくて別室にしたら
ベルが一晩中夜泣きをしたと映像付きで
遠回しの嫌味を長々と言われたので仕方なく01が精神的に落ち着くまで同室にいてやった
「博士!」
「なんだ01?」
俺が画面から目を外して見ると絵本を抱えた01が小さく尻尾を振って横にいた
こいつが最初に綺麗に発音できたのは博士だった
言いつけたとおりに作業の邪魔はしない子だ
理解力がよく素直な奴だとわかった
ピクルスが苦手らしく涙目だったがいつか読んだ教育本で好き嫌いは良くないと知ったらしく残さない
そんなの気にしなくていいと言ったが食べるという
こちらをチラチラ見てどうしたと尋ねると俺に食べさせて欲しいと言う
即答で断ろうとしたが後ろでベルが中指を立てていたので首を縦に振った
それだけで01は尻尾を振って喜んだ
…
「ハッ………………ハッハッ」
「いいぞ。そのまま走れ」
「は、はい!!」
機能試験室で身体測定をしている
犬を信じよと書かれたヘンテコTシャツと黒の短パンを履いた01が走っている
時速85キロ…を二時間走っている
すごい体力だ
もっと速度は上げられるのだろうか
「01。今から全速力で走れるか?」
「!はい!!」
奴は二足歩行から四足歩行となった
速さは……時速120キロ!?
驚いて見つめていると01は俺をチラッと見て更に速さを速めた
測定器が異音を発し始め煙が出てきた
俺は慌てて静止させる
「す、ストップ!ストップだ01!」
「す、ストップ?」
「止まれ!」
「!?」
俺の言葉を理解して急停止した01
激しい破壊音と共に飛び跳ねた01が俺の元へ飛んできた
思わず受け止めようとし共に倒れる
奴が俺の頭を庇ってくれたお陰で大事には至らなかった
「ハァ…ハァ…、は、博士。ご、ご無事、デスか?」
「….大丈夫だ。退いてくれ」
「はい」
俺の上ではぁはぁ言っているこいつをどかす
あれから一週間
こいつは見るもの全てが興味を抱くらしく注目していた
その際も片時も離れず俺の白衣を掴んでいる
めんどくさいが勝手に色々されても困る
俺に触れる時は力加減はできているがそれ以外はなかなかに壊す
パリンッ
「…またか」
「…す、スミま、せん」
「仕方ない。まだ慣れないだけだ。あっ、触るなよ怪我をする」
割れたグラスに触れようとしたので咄嗟に腕を掴んだ
01はビクッとした後耳を垂れ下げて緩く、尻尾を振った
……
大きい破片は拾ってやってきた掃除ロボットに後を任せる
「次にいくぞ」
「はい!」
こいつはいちいち反応が大きい
次は身体能力検査だ
別室に移動する
「ベル装置の準備はどうだ」
「恙無く。動作良好」
「よろしい。では01」
「はい!」
これでは学童の相手をしているようだ
まぁ目覚めて日が浅いしな…
「そこのラインに立て」
「ら、ライン。線、ここ…」
言葉を復習して理解したようだ
扱いやすくなるなら問題はない
扉が施錠される
俺はモニターと強化ガラス越しに01と目が合う
俺は確認をしてマイクに口を近づけた
「聞こえるか?」
「博士?博士の声。……聞こえます」
スピーカーから流れた俺の声に反応したようだ
「そのまま待機しろ。ブザーが鳴ったら部屋の四隅にある射出機から飛び出す小型のボールロボットを破壊しろ」
耳をピクピクと動かし俺の言葉を復唱した01
「………ブザー。飛び出す。ボール。……壊す」
奴が姿勢を低くして体制を変えた
やはり動物の本能なのか、自然と体の使い方がわかるのかも知れない
俺はモニターの数値を見つつボタンを押した
ブーーーーー…
…
バンッ!
正面から一つのボール型ロボットが射出された
まずはレベル1…
どこまでできるか見せてもらおう
……
バコッ!
まずは一機
何なく叩き倒した
ボールは大破し自動的に分解されて消える
次は二機。直線軌道で同時に迫るロボットを素早く殴り倒した
「…次から難易度を上げる。大丈夫か?」
耳がピクピクと動く
「はい!なんい、度大丈夫です!」
本当にわかっているのか?そう思いながらもレベルを上げる
先程より早くロボットが射出される
01は素早く蹴り落とし追撃してきたのも殴り壊す
大丈夫そうだな
またレベルを上げる
同時に三機が迫る
しかも今度はロボットも抵抗する
アームが飛び出て01にくっつこうとした
だがら01は動揺せずに見切って蹴り上げロボット同士をぶつける
後ろから射出されたロボットには見もしないで後ろ蹴りで倒す
すごい身体能力だ
「さらに難易度を上げるか?」
一応危険性も増すし尋ねる
「はい!」
01が尻尾を振って答えた
その様子を見て俺は更に端末を操作して難易度を上げた
ブーーーーーーーーーーガガガッ
あれ?EXTREME?
俺は点滅した文字を口に出した
俺はそんな入力はしていない
まずい止めないと
ドカガッ!!
そう思って顔を上げた時凄まじい破壊音がガラス越しに届いた
俺は目に映った光景に唖然とした
「………フッ、……………ハ」
浅く小さい呼吸を繰り返しながらこの能力試験室をまるでボールのように跳ねながら数多のロボットを回避して確実に攻撃を加えている01の姿があった
その姿があまりにしなやかで激しく、かつ的確な動きはまるで踊りのようで俺は呆然と見つめてしまった
体を捻り床を跳ね壁を蹴り回転し撃ち落とされたロボットが床に落ちて崩れて霧散していく
同時出撃数35!?とっくに人間には無理な数値だ
確認している間にも数は増えていく
俺は慌てて装置を止めようとしたせいで気づくのが遅れた
先に嫌な割れる音が耳に届く
「…へっ?」
視線だけを向けると
目の前の強化ガラスが無様にひび割れ全体が砕けていく映像だった
な、何が?
スローな景色の中思考だけは時を進む
まるで箱の中身を逆さまにしたような音と
エラーの赤い表示が今更見えた
そして丸いロボットが煙とノイズを撒き散らしながら眼前に迫る
――――死
ただの、頭脳以外は平凡以下の俺が防ぐ術もなく
衝撃に目を瞑った
…………………………
「ふへっ!?」
……?
衝撃に変な声が出た
だがそれは激しい痛みにではなく体勢が崩れて重力の変動を感じたからだ
それと僅かな尻の鈍痛
「な、なにが…」
ゆっくりと目を開けると視界は白
……天井だった
聞こえるのはベルの安否確認とアラーム音だ
モフッ……?
やけに柔らかい。そしてその奥にしっかりとした筋肉
そして蒸れたような感触と匂い
てか暖かい
「うっ」
「ッ!?は、博士!!!大丈夫れすか!!い、痛いところ、無い?博士!?」
う、うるさい
俺は腕を使って奴の胸を押す
するとゆっくりとだが空間ができる
……
01は尚も俺を床に押し倒し頭と背中を支えながら目を丸くして潤ませながら、と言うか俺の顔に滴る雫が知らしめる
こいつ……
俺は思考する
俺が目を離したすきに規定のシステム限度を超えたせいで暴走し威力を増して試験室内でひどい有様だったらしいと後でログを確認してわかった
そして
01はその最中でもそのポテンシャルを活かし無傷で対処していたが視界の端に俺のいる強化ガラス越しの窓に暴走し熱膨張したロボットが迫っているのが見えた
その瞬間瞬時に動き出したがロボットの方が早く窓を突き破る
そして俺に迫ったが、01が跳躍し一瞬でロボットを破壊しそのまま俺を庇いながら押し倒したと結論づける
緊急停止装置は起動していたらしくアラーム音だけがうるさい
「……ベル、音を止めてくれ」
「……停止しました」
「ふぅ……」
次はこいつだな
メソメソを俺に抱きつきながら泣いているこいつを離さなければ
「01離れろ」
「うぅ…………ひぐっ……」
「な、泣くな。どうすれば…ほら、俺もお前も無事だ。な?」
そう言って手で顔を上げさせ無垢な顔を見る
耳は垂れて瞳いっぱいに涙を溜めて流している
止まることのない涙に俺は胸がすこし苦しくなった
思わず抱きしめて撫でると
すぐに01は防護壁ごしに響くほど
大声で泣いた
……
「………ほら、これを飲め」
「………あ、あ、ありがとう、ございうぅ〜〜ヒーーーン」
ホットミルクを用意して座った俺にピッタリとくっつき尻尾までくっついている
犬め…
「感謝するか泣くか飲むかどれかにしろ!推奨は大人しく飲むことだ」
「あ、あい」
舌ったらずがさらに悪化している
まだグスグスと泣き鼻からはスピスピと鳴らしている
仕方なく、頭を撫でると俺を窺い肩を寄せ甘えるように頬を擦り付ける
くそ、なんだこの気持ちは!
誰にも見られてないよな!?
俺以外観測しているものはいないはずなのに動揺からかそんなことを考えた
ベルは仕方ない後でログを消しておこう
俺は緩くなったコーヒーを飲む
ああ……………………不味い
後日
変な生き物だ
ある日
「博士今よろしいですか?」
流暢な言葉遣いで01は話しかけた
育ての親より言葉が綺麗だ
「どうした?」
モニターを消す
砂と赤焼けした景色はなんだか見せたくなかった
「あ、あの」モジモジとしている
こいつは知的好奇心が強く自ら学んだ
俺が相手しない時は学習室で勉強している
AIが分からないことがあると教えてくれるがなぜか俺が暇な時聞きたがる
非合理的だ
まぁ好きにさせておく
これも観察だ
「お願いがあります」
「お願い?」
聞き返すと01は耳が倒れ尻尾が股に挟まっている
そんな無茶振りなのか?
「…ぼ、僕は博士のお名前が知りたいです」
……名前?
そんなの知って…ないか俺は01に名前を教えたことは無かった
博士で事足りたしなんで今更と思った
聞くと本を読んでいたらよく博士と言う文字がありそれが全部俺のことだと思っていたらしい
だが流石にアルベルト・アインシュタイン博士と書かれた人物画は俺と全くの別人だ
それに疑問を抱きベルにアーカイブ検索してもらったら博士とは名前ではなく役職名だと理解したらしい
というかなんて本を読んでいるんだお前
今度知能テスト受けさせてみるか
思わず創造者の俺が俺天才と呟いてしまい01に全力で天才です!と肯定されたのは心にくるものがあった
暇だったので
俺の知識を教えた
手当たり次第に
各施設の使い方から応用学まで教えたが俺の専門分野以外は独自の持論を展開させる始末だった俺は天才を作ってしまったらしい
話しを戻そう
そんな事かと名前を教えた
01は瞳を輝かせて復唱し連呼したい
むず痒くなりやめさせた
それでこの日から俺を01は七海博士と呼んだ
それだけなのに
奴はやけに嬉しそうで理解に苦しんだ
紺碧の水平線 黒月禊 @arayashiki5522
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。紺碧の水平線の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます