第18話 開眼
100日間断食修業の95日目の朝、アレン達が宿泊から外に出ると、目の前に少し大きめの器を持った少女が立っていた。
彼女は薄衣をまとい、器には優しい黄色のスープのようなものが入っており、器を差し出す様な形でアレンの前に歩み寄って来ました。
「アレン様、100日間断食修業のご成功おめでとうございます! こちらは開祖エフリート様も101日目に召し上がられたと言われる果実のスープです。どうぞ記念の証としてお召し上がり下さい」
これは全てゼルベットに言うようですか命じられた言葉でした。
アレンは少女を見つめてこう言いました。
「君をどこかで見たことがある」
少女はそれ以上の事を何も教わっていなかったので、ただ黙って器を差し出しました。
アレンは成り行きに吸い込まれるようにして器を受け取り、それを口に運びました。
「アレンさん、いけません! 今日は96日目です、まだ5日残っています。先ほどそれを確認して出てきたばかりではありませんか?」
カミルはそう言ってアレンから器をもぎ取ろうとしましたが、アレンはそれを信じられない力で掴んでいて、怪力のカミルでも奪い取ることが出来ませんでした。
いよいよ器が傾けられて、アレンの口にそれが含まれようとする瞬間、器と口を遮る手が差し込まれたのです。
それは半透明で実体を持っていませんでしたが、アレンは訝しんで顔をあげました。
するとそこには亡くなった筈のアレンの母の姿がありました。
半透明の母が語りはじめました。
「私の息子にして偉大なる聖者アレン、いよいよ私があなたに償える日がやって来たのです。この世と冥界の間に閉じ込められているあなたの妻サンドラーチェ女神様が、力を振り絞って私に伝えに来てくれたのです。
悪い者の企みを。
この娘はあなたとは何の関係もありません、そして果実の話も嘘なのです。
見ているのはとても辛いのですが、せっかくここまできたのです、最後の力を振り絞ってあと5日乗り越えて欲しいのです。
お願いよ、アレン」
アレンは母の言葉で我に返ると、
「ああ」と弱々しく呟き、器を投げ捨てて歩きはじめました。
カミルもエンゲメネーも固く拳を握りしめて泣いていました。
エンゲメネーがこの事件をメノンに報告したので、ゼルベットとその一見は破門となりました。
そしてまたこのような企みにアレンが晒される事のないよう、残り5日間、2名の護衛が付けられる事になりました。
大聖の計らいもあってか、残り5日間を無事に終了したアレンはその夜、開眼して王子だったことやサンドラーチェとの恋、龍神となって様々な命を守っていた事その他全てを思い出したのでした。
その瞬間世界中の人々の心の中で、まるで張り詰めたものが弾けるような音が聞こえたと伝えられています。
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