第15話 ゼルベット

今日の断食業と瞑想もそろそろ終わりです、陽が落ちてきたからです。

カミルは今日、朝食を食べそこねたので、夕食の時間を今か今かと待ち焦がれていました。

「カミル君、そろそろ帰ろうか」

「はいっ、アレンさん」

カミルは隠しきれずに笑顔になっていました。

「私はこのまま宿泊に戻るから、君とエンゲメネーさんは食事をしてきたまえ」

するとエンゲメネーは困った様な顔をしてこう言いました。

「私は監視官なのでアレンさんから離れる事が出来ません。カミル君、食べ終わったら私の分を運んで来てはくれまいか?」

「いいとも、協力しますぜ」

「ありがとう、カミル君」

「じゃ、あっしは一足お先に」

カミルは食堂目指してかけてゆきました。

アレンは微笑みながらカミルがかけてゆくのを見つめていました。単なる農家の三男坊に礼を尽くすカミルをとても可愛く思っていたからです。

カミルはカミルで助けて貰ったし、アレンのおかげで人間に成ることも出来たので感謝でいっぱい、そして彼が伝説の偉人であることを全く疑っていませんでした。

アレンは宿泊に戻るとすぐに寝てしまいましたが、エンゲメネーは何やら報告書らしきものを作成していました。


食堂は昨日よりも賑わいを見せていました。

逞しいカミルを訝しんだ行者のひとりが叫びました。

「おい! そこの新入り!」

カミルが自分の事だと思って振り返ると、これまた行者には見えない男が偉ぶった感じで立っていた。

「何だ、俺の事かな?」

「そうだ、挨拶か無いんだがな」

ヤラン公国の貴族の息子ゼルベットでした。

彼は臆病者で騎士になれなかったので、不憫に思った父によってこの里に入門させられたのでした。

ゼルベットはおとなしい性格の行者達の中で、貴族の息子である自負もあってか、数人の取り巻きを引き連れて勘違いをして威張っていたのです。

「お前なんぞにする挨拶はねぇよ」

「相手にするな!」

近くの行者が小声でたしなめたが、既にゼルベットの手下がカミルに殴りかかる所でした。

カミルはすかさずしゃがみ込み、最初の二人に飛び蹴りをお見舞いして、進み出てゼルベットの顔面に強烈なパンチを食らわせました。

カミルの遊び相手にもなりませんでした。

呆然と見守る人達をよそに、カミルは何事もなかった様に大盛りの食事を腹にかきこみました。

ゼルベットとその一味は大変悔しがりましたが、力量の差を見せ付けられたので反撃出来ませんでした。


ゼルベットはコネで入門したので、すぐに大聖になれるものと勘違いしていましたが、実力が無いと出世出来ない事が分かり、ヒマを持て余して新人イビリをしていましたが、今回は相手が悪かった様です。


カミルが食事を終えて部屋に戻るとアレンは既に寝ており、少し憔悴した感じのエンゲメネーが隣で座っていた。

「あいよ、大盛りにしといてやったぜ」

「ありがとう、カミル君」

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