探偵は、一年以内に死ぬことをご所望です。

ヒペリ

プロローグ

プロローグ

「ねぇ少年。どうやら、私は一年後に死んでしまうらしいんだ」

「……は?」


 少し日が長くなってきた初夏の夕暮れ。

 ここちよい柔らかい風がふき、真っ正面からあたる暑さをやわらげてくれる。

 そんな突如、五時を知らせる鐘の音とともに、前方を歩いていた彼女は凛とした声を響かせた。


「しかも、人に殺されて」

「冗談ですか?」


 変わらない声のトーンに冗談かと首をかしげる。心のどこかでは、彼女の言葉を本気にして否定したかったのかもしれない。

 前を向き、濃い橙色の光をあびたまま、彼女は首をふる。そんな僕の期待を裏切って。


 突如ふいた風に、銀色の髪と青いリボンがゆれた。彼女――伊吹さんはくるりと振り返り、無邪気な笑みを浮かべる。


「――だからね、自分から死んだ方がましだと思うんだ」



 ドアを開けると、彼女はいつも笑って僕をむかえる。


「やぁ、少年。今日もよろしく頼むよ」


 タイルの床に並んだ時系列がぐちゃぐちゃの物。なぜその場にあるのかわからないくらい、浮いているこたつと座敷。その下にはご丁寧に畳がひいてある。漆が塗られキレイに輝いた棚たちは、物でうめつくされている。もともとそこにあった作業用机もあいまって、もうわけのわからない空間を作り出している。

 でも、なぜかそんな場所も安心できる。


 どこか静かで、花のような笑顔を浮かべる彼女がいるから。


「はい。――伊吹さん」



 そんな伊吹さんが、一年後に死んでしまうという。

 だから、殺されるよりも先に死にたいと。

 このとき僕は、どうすれば良かったのだろう。

 そんな思いが、今でも僕の頭にこびりついている。

 もう一度あのときに戻りたいと願っても、きっと結果は一緒だろうに。

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