第8話 俺は冒険者になる③

「どうすれば良いんだ!!」

 俺は、自室で椅子に座りながら、鑑定書を何度も見た後、遂にそれを目の前の机に叩き付ける。

 どうにも冒険者になるまでのステップが、上手く行き過ぎている。

 だが俺は、ここで流れで冒険者になるのは違うと思った。

 一つは、親父の迷宮に対する覚悟。

 迷宮の神秘に取り憑かれた親父は、それを死んででも見るという覚悟を持っていた。

 見てないから浮かばないのも当然っちゃ当然であるが、俺にはそんな覚悟はない。

 それに、宮崎先生の話もそうだ、釜谷優樹は、優れた人間だった、にも関わらず、バグと言う想定外の事態に対処出来ず、帰らぬ人となった。

 

 そして、最後に一つ、ぶっちゃけこれだけが俺が冒険者を目指せない理由だ。


『冒険者になったら何がしたいのか』


「はぁ〜、結局どうすればいいんだ……か?!」

 

 俺がそんな事を言いながら、椅子に体重を掛け傾けると、バランスを崩し、転倒する。

 そしてそのまま椅子が本棚に『ガン!』と音を立ててぶつかり、俺は咄嗟に椅子から飛び降り、頭を思いっきり打つと言う大怪我は避けるが、不幸な事に本棚が転倒してくる。

 

「たすけ……!」


 て、と言おうと瞬間、ベランダに繋がるガラス戸に斜めにして立てていた盾が俺の目の前に、光の速度で飛んでくる。

 すると本棚は盾に支えられ、その隙に俺は本棚を真っ直ぐに立てる。

 落ち着いた所で、何故ここに盾が飛んできたのかをかんがえることにした。

 そして一つの結論が着く。

 

「まさか……俺の『たすけて』を命令と思って飛んできたとか?」

『そうだよ!』


 すると、脳に直ででっかい声が来る、フユの声だ。

 厳密にいうと、テレパスを通じて聞こえてくるスキルによって作られたフユの声、だが。

 改めてスキルの凄さを再確認し、そういえば『指輪化』のスキルがあったのを思い出し、思いっきて手につけていた。

 フユは『温もりがある』とか言っていた。


 倒れかけてバラバラになった本を一冊ずつ拾い、本棚に戻していると、懐かしい物を見つける。


『〇〇卒業証書』


 懐かしいなぁ、と思いながら、捲ってみる。

 1ページ目は目次が描かれていた、『2〜5サイン』と書いてあるのを見て、覗いてみると、そこにはページ一杯に書いてある、今は離れ離れになった沢山のクラスメイトのサインが溢れていた。

 そして六ページ目を見ると、『みんなの将来の夢』と書かれていた。

 そして俺は、そこに、『冒険者』と書かれているのを見た。


 俺はそこで、なぜか急にページを捲る手が速くなる。


 そして12ページを開く、この将来の夢について詳しく書いた卒業作文だ。

 無意識で開いたそのページを、俺は思い出に浸る気分で読む。

 まさに子供らしい事が書いてあった。

 と言ってもまだ2、3年前だが。

 時の流れを感じていると、最後の行に、


『僕は、誰かを守れる冒険者になりたいです』


 と書いてあった。

 その時、俺は思い出した、冒険者に憧れた理由を。


 それは、俺がまだ7歳の時だった。

 家の近くの公園で、友達と遊んでいると、砂場の中央に、迷宮が突如出現した。

 迷宮は基本的に、カラパスが起こっている時以外、一週間に一個位のペースで増えており、場所は完全ランダムな為、稀にこう言う事がある。

 他の友達は、やめとこうと言ったのだが、俺は好奇心が抑えられず入ってしまった。

 当然ながら、迷宮は7歳が入って帰って来れる様な場所では無い。

 俺は入ってすぐに、モンスターに殺されかけた。

 モンスターの振り下ろす剣が、俺の頭上を捉えた瞬間——


「発動——スキル〔巨人殺し〕」


 とても聞き覚えのある、親父の声だった。

 親父の繰り出した剣撃は、モンスターを可哀想な程にぺったんこに潰した。

 そして遅れてやってきた斬撃に、モンスターは粉々にされ、倒された。

 そして親父は俺に、『大丈夫か』とだけ言って、俺はそんな親父の姿がかっこよくて、憧れて……


 ああそうだ、俺はそんなカッコいい冒険者になりたかったんだ、誰かを守れる様な、カッコいい冒険者。

 ふと指輪を見る。

 これは盾だ、貫通しない、誰かを守れる盾だ、なんて相性が良いんだろう。

 決めた。

 俺は冒険者になる。


「俺は冒険者になるぞぉぉぉぉお!!」


 事実で突然大きな声を出すもんだから、母さんは一瞬驚いて、俺の部屋に突撃するが、察しの良い母親は、『頑張りなさい』とだけ伝えて、部屋を出ていった。


 俺は、宮崎先生に貰った進路調査票に、しっかりと、濃く、ハッキリと、『凄いカッコいい冒険者』と書いた。

 ガキかよと笑いたくなったが、今の俺にとって、そんなことはどうでも良く、これからの日々が楽しみでしょうがなかった。


「なるぞ、俺はカッコいい冒険者になるからな、親父、帰ってきた時楽しみにしとけよ!」


 俺はそう言って、床に寝転ぶ。


 あれから夕食を摂り、お風呂から出て、ベットに寝転がり、ふとさっきの話を思い出す。

 

「あれ……そういえば、親父が来てくれた後って……俺どうやって迷宮でたんだっけ、ん? 親父と一緒……に゛?! ん゛?! ああ゛!!」

 

 いきなり頭の中にノイズが鳴り響き、まるで禁忌に触れたかの様に『おもいだすな』と頭の中に鳴り響く。


 俺はそのまま意識を失い、ベッドに静かに眠った。

 

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