届け
「おかえりなさい」
玄関のドアを開けると、いつもと変わらない穏やかな声がわたしを迎えた。
雨、大丈夫だった? と寝巻き姿に着替えた日野が、タオルをよこしてくる。
「帰る頃には止んでたから」
「ほんとに? けっこう濡れてるように見えるけど」
頭をちょいちょいと指差す日野に指摘されて、額に貼り付いた前髪を掻き上げる。つー、と雨か汗かわからないぬるい水滴が顔を伝いはじめた。
小雨だからって高を括っていたけど、髪はだいぶ水を吸ってしまっているらしい。
「祭り、クラスメイトと行ってきたから。あの人混みじゃ傘広げらんないし」
「そういやそうだったね。楽しんできた?」
「うん。おみやげもあるよ」
「ありがと。私もたい焼き買ってきたから後でどうぞ」
なんてことのない、家族のやりとりが耳を通り過ぎていく。喋っているはずなのに、会話に応じている実感が薄い。
薄い壁越しに対話しているかのような、肉体への隔絶を覚え始めている。
心ここにあらずな状態だからだろう。
決意を新たにしたものの、いきなり切り込むんじゃなくてこういうのはタイミングが大事だ。
隠し事をいつ打ち明けようかそわそわする子供のように、体の芯がむずむずと落ち着かない。
「風邪引かないうちに、お風呂入ってきたほうがいいよ。先に拭いておくね」
言い終わらないうちに、タオルを握りしめた日野が腕を伸ばしてきた。
頭上にふわりと布の感触が降りてきて、その上からごしごしと指の腹が押し当てられる。
地肌まで拭う強さで、力強く雨粒が吸われていく。
「…………」
無言で拭われるがままのわたしは、早くも平静が保てなくなっていた。
すぐ傍に、無防備な姿の日野がいる。自分に触れている。
風呂上がりの高い体温が、シャンプーの清潔な匂いが、耳をくすぐる柔らかい声が。すべてがわたしを惑わせる。
不埒な思考と目線を巡らせ、ぐらぐらと脳みそが煮えていくのを感じた。
平衡感覚すらも狂って、まっすぐ立っていられなくなる。
「おっと」
錯覚ではなく本当にぐらついて、日野に背中を支えられる。
この体格差じゃ日野まで倒れかねないと、すんでのところで後ろ足が床板を踏みしめた。
受け止められた先には質量のある柔らかさを感じて、弾む感触が背中に伝わる。
それが身体のどこの部位なのか理解するより早く、ぼっと頬に熱が広がった。
今、風呂上がりだから、つけて、
「もういいよありがと入ってくるね」
早口でまくし立てて、わたしは自室へ直行した。
替えの下着とタオルとパジャマを空き巣並みに乱暴に漁って引っ掴み、風呂場に駆け込む。
ぽいぽいと、脱皮でもするんかって勢いで衣服を洗濯機に投げ込んでいく。
蛇口を勢いよくひねって、まだお湯になりきってないシャワーの水を構わず全身に浴びた。
豪雨にも似た水音の中に立ち尽くし、滝のように流れ出るぬるま湯に打たれているうちに。
ようやく荒れ狂う心の波が穏やかに静まっていくのを覚えた。
はーっと、大げさに息を吐いて肩を落とす。
わたし、もうダメかもしれない。
いざ本人を目の前にして、もうどうしようもないところまで来ている自分がいた。
同居人を保護者ではなく、一人の女性としてしか見れない状態にまで意識している自分がいた。
現在進行系でつむじを洗い流されているのに。頭部にはまだ、タオル越しの日野の指の感触が残っている。
心も体も、もう引けないのだと激しく自己主張している。
やっぱり、そうなっちゃうの、かあ。
シャワーを止めて、湯気がもうもう立ち込めるかすんだ天井を仰いだ。
ぴちょんと、気体だった液体が降ってきてあわてて顔をそらす。
里親をそういう目で見てしまう。不純だ。普通じゃない。
慣れていない他人の親切心に舞い上がっているだけの、一種の気の迷いだろう。
他人に相談するまでもなく、自分はおかしいと自覚している。
客観視できていながらも、芽生えてしまった感情を否定することはできない。
人は誰にでも、どんな立場でも、人以外にも惹かれてしまう可能性があるのだから。
きっかけがなんであったとしても、好きになってしまえば突っ走るだけだ。抱いた想いに後悔はない。
何に備えるわけでもないのに念入りに身体を洗って、着替えて、わたしは脱衣所を出た。
リビングでは、日野がソファーにもたれてぼーっとTVを眺めていた。
芸能人が内輪受けで盛り上がっていて、ガヤと馬鹿笑いと強気のツッコミがにぎやかな様相を呈している。
あと小一時間ほど経過すれば、就寝時間。休日まではまだ数日もある。
忙しい大人、忙しい学生。ひとつ屋根の下に住んでいても、平日では休息が重なる時間はごくわずかだ。
雑談が交わせる短い合間は今しかない。
もう遅いから明日、なんて引き伸ばせばもっと大きな勇気が必要となって、どんどん足が重くなる。
タイミングは待つだけじゃなく、自分で作るものなんだ。
「あがったよ」
無駄に複雑化した思考回路の末、ただその一言だけを声にする。汗ばんだ拳を握りながら。
「さっきふらついてたけど、大丈夫? のぼせてない?」
「バイト後にお祭り行ったから、疲れてただけだと思う」
そののぼせる原因となった人がこっち当たりな、と扇風機を指す。ソファーの奥に身体を詰めて、座れるスペースを空けてくれる。
「…………」
うなずいて、隣へ移動した。なんか観たいのある? と聞かれて首を振った。
日野もなんとなくで点けていただけだったのか、騒がしい音声が断ち切られる。
あとには扇風機の羽が回る音だけが残されて、気まずい沈黙の間をぬるい風が行き交う。
乾かしたばかりの湿度が残る髪をふわふわ揺らして、隣の同居人へと目を向けた。
「んー?」
視線に気づいた日野が、何か用かい、とこちらへ向き直る。
今しか、ない。言おう。
今日どうだったのって、軽い雑談から入ろう。
「あのさ、今日」
今まさに言おうとしていた台詞が耳へと覚えて、無意識に心の声が漏れたのではないかと錯覚する。
聞く姿勢だった日野が先に、口を開いていた。中途半端なところで声を切って。
「今日が、どしたの」
「断ったよ」
あまりにもあっさりと、知りたかった顛末を日野はにべもなく言ってのけた。
薄く微笑んで、日野は肩を叩く。わたしを安心させるときに浮かべる、保護者の顔で。
「え、なんで?」
断った。つまり向こうの相手とは、もう可能性がない。
胸を撫で下ろすべき案件に、わたしはあえて食いつき掘り下げる。理由が知りたかったから。
「私には勿体ないお方、だったからかな」
どういう、こと?
てっきり『今はやっぱり結婚とか考えられない』と立場に由来する理由だと思っていただけに、日野本人の感情から分析して出した答えだとは思わなかった。
「すごく、いい人だよ。責任感が強くて、交際よりもまずは里子との時間を考えてくれる人だった。里親制度にも理解があって、私のことを真剣に考えているってことがとても伝わってきた。文句なんて、つけようもない」
だからこそ、自分には釣り合わないと謙遜してしまったの?
固唾を呑んで、次の言葉を待つ。
「ううん、私が不誠実だったんだ。だって」
そこまで想いを寄せられているのに、心が応えられなかった。
申し訳無さそうに眉根を寄せて、日野がさらに予想もしていなかった一言を放った。
嘘偽りのない本音を耳にして、言葉の意味を呑み込んで。さあっと血の気が引いていく。
扇風機の風が肌を撫でて、たちまち鳥肌が立った。
「そ、っかあ」
やっと出た調子の外れた声で同調して、それ以上は言葉が出てこなくて。
会話はそこで終わってしまった。
わたしより遥かにスペックが上で、立場も近くて、人格も申し分なくて。
日野にこれ以上無いほどふさわしい相手が、アプローチをかけても心が動かなかったなんて。
それ、わたしごときでは万が一にも可能性がないってことやんけ。
無謀だってわかっていても、まさかこんな形で出鼻をくじかれるなんて。
なんかもうどうでもよくなって、うへへへとどっから出てんのかわからない諦めの乾いた笑声が漏れていく。
「ひどい話だよね。告白までされた相手とデートしているのに、ときめかなかったからごめんなさいだなんて」
「行動うんぬんよりも、自分が好意を持っているかがすべてだと思うけど……」
とは言ったけど。デートを承諾しており、振った相手のいいとこばかりを述べられる時点で。日野は多少なりともその人に好意的だったはずだ。
わたしの予想が当たっていれば。あの先生は文句なしの美人で、所作のひとつひとつが様になる。隠れファンも多いと聞く。
美しさは理屈抜きで人を魅了する。
恋人とキスをすれば当然ときめくけど、自分の推しの俳優orキャラクターのラブシーンを見てときめかない人は少ないだろう。
「じゃあ、日野は何ならどきどきするの?」
もう結果は見えている立場ながら、それだけが気になってしまう。
むしろ、吹っ切れたからあっさり聞けたのかもしれないけど。
「そうだねえ」
日野はわたしを見て、意味深ににやりと笑った。
「今、私を抱きしめてみてくれるかな」
は?
一瞬、妄想が声となって頭に響いたのかと思った。
え、抱きつくって、え?
混乱する私に白い歯を見せて、日野はなおも面白そうに笑う。
「ここを出るとき、彰子がやったことだよ。あれ、もう一度されたらわかるかもしれないなー」
「わかるかも、って……」
どきっとしたかもしれないってこと?
日野は、わたしをからかってるのか? こんな軽い口調で言うってことは。
娘だから、今日のデートの相手でもわからなかった心の動きを簡単に検証できるの?
スキンシップを提案され湯だっている心へと、冷水をぶっかけられたようにすうっと臓腑へ冷気が滑り落ちていく。
……でも、もういいや。
合意の上で触れられるチャンスは、これが最後だろうから。
だったらわたしも、潔く振られて楽になろう。
「わ、」
半ば強引に日野を押し倒し、組み敷くように覆いかぶさった。
背中に腕を回し、額が付きそうなほどの距離まで詰める。
どう見ても襲う一歩手前の構図になってしまったけど、玄関での行動をそのままソファーで再現しただけ。
そのまま、無言でわたしは日野の顔を覗き込む。ぱちぱちとまばたく、二重まぶたのくっきりとした大きい瞳がわたしを捉えた。
……くそう。美人め。
その気じゃないってわかってるくせに、風呂上がりの無防備な日野の姿は理性に揺さぶりを掛けてくるほど扇状的だ。
ほのかに色づいた肌、しっとりと流れ落ちる艶やかな栗毛、すっぴんなのが信じられないほどに整った顔立ち。
何も顔に入れていないことで、ただでさえ童顔なのに無垢なあどけなさがさらに引き立っている。
悔しい。どうしようもなく改変しようもない立場が悔しい。
年齢差、血縁関係、立場の壁。出会ったきっかけのすべてが、恋路を阻む障害となって立ちはだかっているのが悔しい。
絶対叶わないって何度も言い聞かせているくせに、それでも胸が高鳴っている正直な本心が悔しい。
惚れた方の負けなんだって、言葉の意味を今になって痛いほど理解する。
「これで満足?」
吹き出しそうになる巨大感情をこらえた声を絞り出す。
もう二度とこんな機会は訪れないだろうから、ガン見して一生分の思い出を網膜に記憶していく。
口をへの字に曲げ、親の仇かってくらい見つめるだけのわたしとは対象的に。
「やっぱり、どきどきしてる」
穏やかな声で、日野はわたしの手を取って胸に押し当てた。
あまりにも自然な動作すぎて、掴まされたことに気づくまで数秒かかった。
いやいやいや待てちょっと待て。なにその逆セクハラ。
「わかる? 速く動いてるよね」
「は、ま、えっ」
どこまで思わせぶりな行動を取れば気が済むんだこの人。
さすがに胸は、身内でもアウトだろう。
ここまでされるほど意識されてないんだわたしって、どうしようもない無情感が心を焦土にしていく。
「……日野、何してるか分かってんの」
低い声で、わたしは行動を咎めていく。
「セクハラだよ、これ? わたしが訴えたら一発アウトだよ? 教え子で里子って数え役満だよ?」
「うん、そうだね」
「そうだねって……」
危機感をまるで覚えていないように、日野はのほほんとした調子でわたしを見つめている。
「でも、本当にその気なら。そもそも抱きついてきたりしないよね。こんなに大胆に」
え?
今日何度目かになる疑問符が、わたしの脳内に浮かぶ。
なんだ、その、なにかを知ってるような口ぶりは。
「私はこの通り動けないから、彰子が離れれば済む話だよ? どかないの?」
「……日野が退いてほしいなら退く」
「んー、私も彰子の気持ちを優先したいんだけどな」
気持ちって。
そんなの、もう少しこうしていたいに決まってるのに。ずるい返答だ。
主導権を握っているのはこっちなのに、まるで握らされているかのよう。
分かっていながら、わたしはまんまと誘導されてしまうのだ。
「…………」
そのまま、わたしたちは見つめ合う。
穏やかに細められた日野の瞳には、険しい顔でガン見するわたしが映っている。
なんだ、この状況。
匂いも感触も体温も、薄い布一枚隔てたところで重なっていて。
日野の表情に反抗の意思は一切読み取れず、むしろ受け入れているような雰囲気に感じ取ってしまうのは都合がよすぎるだろうか。
「ところで、これは前々から聞きたかったことなんだけど」
しばらく無言で見つめ合って、やがて日野が問うてきた。
「彰子は、私と家族になりたいんだよね?」
「……そうだけど」
「それは、もしかすると。恋愛的な意味で、かな?」
直球だった。
そりゃあ、どんなに鈍い人間でも察して当たり前か。
家族であれば、こんな情愛をぶつけあうような抱擁はしない。
「そう……だよ」
開き直った今では、案外さらっと口にすることができた。
そして日野も、そっか、とあっけない返事をする。
「…………」
沈黙が、痛い。
戻れない過ちを侵す前に、どのみち告白しなければいけなかったけれど。
いざ真実を口にすると。言うんじゃなかったかなって、心が後悔を始める。
ずっと親代わりとして接してきたのに、”娘”は親として見てくれなかった。
それどころか、女として意識されていた。
薄々気づいていただろうけど、やっぱり思い描いていた家族と違う認識だったのは計り知れないショックのはずだ。
「ごめん」
今度ばかりは、日野も身の安全を考えるだろう。
そういう目で見ている相手と、ひとつ屋根の下なんて。いつ襲われるか気が気ではないはずだ。
「どうして謝るの?」
「だって、普通ありえないよね。里親に対してって」
「んー、うーん……」
何かを熟考するようにうなって。
日野はぽふっと、わたしの頭に手を置いた。
「でも、好きになっちゃったものはしょうがないよね。いつ、どこで、誰に恋に落ちるって予測できないし」
「しょうがなくはないよ。大問題だよ」
「何が問題なの?」
「里親だし、従姉だし、先生だし」
「里親と里子は法律上は認められているし、いとこ同士だって同じ。生徒だって、卒業して成人すれば問題ないよね?」
そんなさらっと理屈で論破しないでよ。
その気でもないのに期待させたいの? 他人事みたいに言って。
言葉が刺々しくなるわたしを、日野はなだめるように『まあまあ』と頭をかき撫でる。
「彰子、私は嫌だなんてひと言も言ってないよ」
「…………え?」
「私は心から、彰子に幸せになってほしいと願っている。その彰子の幸せが、私と共に生きることならそれに応えたい。分かってもらえた?」
あっさり受け入れる日野に、理解が追いつかない。
今日、いったい何度耳を疑っただろう。
だけど、直に感じる目の前の女性の感覚は紛れもなく現実のもので。
想像していたものとはほんの少し違っていた未来が、訪れようとしている。
「ごめんね。こんなに迷って苦しんでいたのに、ずっと気づけなくて。知った気になって、さんざん君のことをかき回して。でも、今日やっと追いつけた。だからもう、我慢しなくていいからね」
本当に?
本気になって、いいの?
確かめるように、わたしはさらに顔を近づける。
鼻先が触れて、もう数センチ先には薄く紅が引かれた唇が目の前にある。
理性をぎりぎり押し留めている腕がぷるぷると震えた。
「わたし、本気だよ。重いよ」
「うん、言ってたね」
「わがままにつきあって、ごっこ遊びしてくれるんじゃないよね?」
「だったら、こんなにどきどきはしてないなあ」
私も今、必死に大人の顔をしているだけなんだよと。
頬を赤らめ、日野はくしゃっと緩んだ口端で笑みを作った。
「でも、立場が立場だからね。私から手出しはもちろんできないし、お縄になっちゃうから。卒業までは受け身のマグロ彼女になっちゃうけど」
「し、しない。そこまで手、早くない。しかるべきときまでちゃんと守るから」
「ちゅーとぎゅーまでならいいよ」
「むぐぐ」
人差し指を唇に当ててささやくものだからずるい。
あと数年理性を保たないといけないのに、無自覚に引きちぎろうとしてくる。
しかしてわたしは未経験のへたれなため、事に及ぶ度胸がないのも事実なのだった。
本当に。
嘘じゃ、ない。ないんだ。
だったら、いつまでも決めないのは女がすたる。
すうっと息を吸う。胸の中に、ラベンダーの香りがいっぱいに満たされる。
次の言葉を真剣に待ってくれる相手へと、わたしは覚悟を決めた。
「わ、わたし、その、わたしは、」
言葉がおぼつかず、波打ってどもった声がこぼれていく。
あふれそうになるものをこらえて、はっきりとわたしは告げた。
「あなたの……恋愛的な意味での、家族になりたい……です」
震える声で、ただひとつの願いを伝える。
それ以上は、何もいらない。それがわたしの、心から望む幸せだから。
「ええ、こちらこそ。喜んで」
夢のような返事が、耳管から染み渡り心が跳ね上がる。
硬直して、言葉の意味を呑み込んで、理解して。
白い光が差し込んで、ぱっぱっといくつもの灯りが思考に打ち上がっていく。
そこから先は、涙がだばだばとあふれて止まらなかった。
それはもう、文字通り滝のごとく。干からびちゃうんじゃないかってくらいにわたしは嗚咽といっしょに流し続けた。
心が通った相手に触れたいって本能よりも。
届いたことにすべてのエネルギーが葛藤して、感情が決壊してしまった。
「す、すきで、だいすき、なんだぁ」
うぇえぇと涙声混じりに、鼻をすすって好意の言葉を連呼する。
泣くか鼻かむか愛をささやくかどれかにしろって話だけど、どれもが意思を無視して勝手に出てくるもんだから止まらなかった。まるで赤ちゃんに戻ったみたいに。
「はいはい、ちーんしてね」
告白直後に目の前で大泣きするわたしにも顔色ひとつ変えず、日野はよしよしと落ち着くまで背中をさすってくれた。
……なんか、最後まで締まらなかったなあ、わたし。
まあ、いいか。
どんな紆余曲折あっても、こうして報われたのだから。
かくして。
長らく降り続けていた雨は止み、週間天気予報には久々の晴れマークが君臨する。
梅雨明けはきっと、すぐそこまで来ていた。
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