記録27 シュニィの作戦、前哨戦

 まず、バトラーを処刑するか幽閉してください。

 と、エーヴェルハルトに進言しようにも、やっぱり本人はいなかった。

 いくらか、あたしとエーヴェルハルトとの関係が良くなってきた(と、あたしの方は感じている)とは言え、内容が突拍子もなさすぎて、却下不可避だろう。

 もっとも、あの男もゲームを踏襲している存在だとするなら、死刑にした所で無意味だろうけど。

 少し目を離した隙に、生き返って、何事も無かったかのように奉仕を続けてくれるのだろう。

 それがわかっているから、あたしも「死ね」って言いやすいんだけども。

 流石にあの男の命がひとつしかないのであれば、あたしとて、そこまで鬼にはなれない。

 しかし。

 彼も、自分がハマった“座”に操られているだけなのは、理屈の上ではわかるけど……わかるけど、腹立たしい。

 自分から座りに行ったわけだし、そのポジション。

 いや、例えバトラーの“中身”があいつでなくとも“あのゲームのサタン”が同じ行動に出るって事もわかるよ?

 けどやっぱ、あの男にムカつく。

 お門違いは承知の上だ。

 

 シュニィの心配、バトラーへの苛立ち。

 諸々のモヤモヤをマイルズとの調練でぶっ飛ばそうと息巻いてたらーー、そのマイルズが行方不明になっていた!

 あのバカ、あたしが師事を願い出たあの日、何で平手打ちとグーパン喰らったのか理解してないのか。

 ……してないのかも。

 それについては、マイルズの、あたしへの態度が悪いこととか、糾弾の理由がとっ散らかってたせいもありそう。

 にしてもだよ。

 独断専行で動くって、自分のお城での立場、わかってるわけ?

 更に始末に負えないのが、お城の中での仕事をきっちり綺麗に片付けて、部下への引き継ぎまで完璧にこなした上での出奔だと言うこと。

 確信犯だ。

 また恐らく、これもあのゲームと同じ。

 マイルズが現場にたどり着いた時点で、シュニィは敵の手に落ちているタイミングだろう。

 中途半端にお城での規律を守ろうとした律儀さが、マイルズとシュニィをすれ違いさせる。

 何かもう、なまじゲームでの顛末が頭にあると、全てが後手後手で腹立つ。

 その癖、何から何まで取りこぼしてしまった自分に一番腹が立つ。

 シュニィの独断専行も、それによるマイルズの独断専行も。

 本来、あたしが一番気を付けてなければならなかったのに。

 心のどこかでまだ、この世界とあのゲームが=になっていないのかもしれなかった。

 

 そして、誕生日当日が来てしまった。

 黒薔薇館の庭園。

 待ち構えさせていた、あたしの霊体の前にシュニィが現れてすぐ、

《シュニィ様、今すぐ城にお帰りください! 敵は聖女だけじゃない!》

 彼にすがり付くように言った。

 実際のとこ、霊体じゃ掴みかかることもできない。

 シュニィは。

 あたしに、無垢な子供の笑みを浮かべた。

 本当に、この世の汚いモノ、何も知らないような。

 笑いかけている相手であるあたし自身、汚いモノであることも、疑いもしていないような。

 そして。

 彼は、あたしの事を瞬時に忘れたかのように、冷たくすれ違った。

 それは、ハナから突っぱねられるよりもなお、とりつく島の無い拒絶だった。

 シュニィの見据える先には“招待客”達が、ぽつり、ぽつりと姿を見せていた。

 ーーあたし、さっきから気になっている事がある。

 “前回”、あれだけ華やかな軽食や酒に彩られたテーブルが、全くの空っぽだ。

 ……実は、あのゲームにおいて、攻略wikiの解析班(有志)ですら謎と結論付けたバグがある。

 まさに、あたしの今見ている光景と同じ。

 シュニィのお誕生日会で、本来なら供されているべきテーブルの上の料理が消えてしまうと言うバグだ。

 それともうひとつ。

 これも、あくまでも、ゲームの話。

 死にゲーのボスキャラって、実は、挑戦するごとにAIの強さにバラつきがある場合が多いらしい。

 理不尽なほどにプレイヤーのやることなす事、超反応で全部迎撃してくる時もあれば、逆に八百長かってくらい消極的な動きを見せて、思いのほか楽に勝ててしまったと言うケースも相当数あるそうだ。

 偶然、プレイヤーの行動とCPUの判断が噛み合ったからなのか。

 それとも、メーカーが、いつかは勝てるように“弱パターン”を仕込んでいるのか。

 真相はプログラマーとか、それを指示したディレクターにしかわからないのだろうけど。

 とにかく、そう言うAIの強さのゆらぎを「AIの機嫌が良い(悪い)」と俗に言われている。

 ここからはまた、今ある現実の話。

 シュニィが、くすりとも笑わず淡々と聖水魔術を展開すると、周囲が一瞬にして濃厚なブリザードに包まれた。

 聖女達が、食事はおろか、現場の把握すらろくに出来ていないままに。

 淡々と、吹雪の白闇から“葬送の楔”の氷柱が飛んできて、一人、二人、三人と、聖女らの胸を貫き内部から凍結させて始末した。

 まさか、こんな問答無用で攻められるとは思わなかったのか、蘇生した聖女の何人かはこの期に及んでまだ慌ててる。

 そう言うどんくさい奴らから、ピエトロの城砕きの鉄砲水に頭からプレスされ、上空の“小・大エーテル”の養分となっていった。

 あたし、“謎のバグ”の発生条件、一番乗りで掴んだかもしれない。

 機嫌が悪いんだよ、シュニィは。

 多分、あのゲームでも、発生条件は同じなんじゃない?

 この誕生日会イベントよりも先に、四大幹部の誰かを殺してたら、この“バグ”が起こるんじゃないの?

 もしくは、メーカーが「そう言うストーリー」のつもりで意図的に組んだ分岐が、プレイヤーの誰にも理解されずにバグ扱いされていたか。

 死にゲーのセオリー「多くを語らないスタンス」ってのも、この場合、単なる説明不足になってしまったのかも。

 すごい事もあるもんだね。

 あれだけ、細かいシステムだとかモーションだとか数値設定だとかが解析されまくって、何万という数のコメントが攻略wikiで乱れ飛ぶ程度には認知されているゲームでさ。

 誰もこんな単純なことに気づかないの。

 

 友達殺された直後で、のんきにお誕生日会とか、催すわけないじゃん。

 あえて開くとするなら、どう考えても参列者をおびき寄せてブチ殺すためでしょ。

 何で、それだけの事に、わざわざ料理を用意するとか無駄な手間をかけなきゃならないワケ?

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