第20話 護衛任務だけど、護衛は二の次!
小雨が打ち付ける中、広い空で対峙する航宙軍・龍騎士団と大量の魔物たち。
その距離、約30キロだ。
ここまで来れば、わたしたちの魔法攻撃も魔物たちに届く。
だからこそわたしたちは、光魔杖を握りしめ、前方に突き出していた。
遠話魔法と無線機には、みんなの声が響き渡る。
《第3飛龍隊、長距離攻撃開始!》
《第1炎龍隊、光を放て》
《こちらリディア、FOX3!》
《チトセ、FOX3》
《いっくよぉ》
「えい!」
魔力を込められた魔杖からは、真っ白な光線が打ち出される。
戦闘機からは、それぞれ8発ずつのミサイルが発射される。
全部で100以上の光線とミサイルは、小雨を切り裂き魔物へと殺到した。
遠くで輝く爆発と、四散する霧。
遅れて届く爆発音。
今の一斉攻撃で倒した魔物の数は、印とデータリンク装置を見れば約80匹だ。
それでも魔物は数百匹は残っている。
魔物までの距離は縮まるばかりで、あと十数秒もすればすれ違うぐらい。
わたしはユリィを加速させた。
「よ~し、突撃~!」
「がうがう~!」
誰よりも早く飛ぶはユリィは、龍騎士団の先頭に出た。
もちろん、すぐ背後にはチトセの戦闘機が。
前を見れば、大量の魔物たちがどんどんと近づいてくる。
だからって恐怖心はない。
大量の魔物の赤い目ににらまれたって気にしない。
光魔杖を炎魔杖に持ち替えたわたしは、ユリィを少しも減速させなかった。
気味の悪い魔物たちの薄い翼がはばたくのが見えれば、炎魔杖を発動する。
「うりゃうりゃ!」
断続的に炎魔法を放てば、小雨を蒸発させ突き進む炎たちが魔物を焼いた。
焼かれて消え去った魔物の霧を突き抜ければ、わたしたちはもう魔物たちの群れの中。
「わたしが一番乗りだよ!」
「がう~!」
「あ! たしかに! 一番乗りはユリィだね!」
「がうがう、がう!」
楽しそうなユリィは急上昇し、魔物たちの群れの中から少しだけ離れる。
背後では、轟音を鳴らすチトセの戦闘機が魔物に光の弾を撃ち、ゆっくりと旋回していた。
ゆっくり旋回する戦闘機を見て、魔物たちは戦闘機を追う。
《敵が食いついた。クーノ、お願い》
「任せて!」
ユリィは体をひねり、急上昇から宙返りへ。
宙返りを終えれば、正面にはチトセを追う魔物たちの尻尾。
わたしはすかさず魔物たちに向けて炎魔法を放った。
炎は魔物たちに絡みつき、魔物たちを霧に変える。
チトセを追う魔物が半壊すると、無人戦闘機と眷属さんが魔物に追い打ちをかけた。
数秒もすれば、チトセを追う魔物はどこにもいない。
一仕事を終えると、わたしは眷属さんが付けてくれた赤い印に意識を集中させる。
魔力を通して戦場全体を見渡せば、騎士団に向かって地上すれすれを飛ぶ赤い印の群れを発見した。
目標は決まりだね。
「次はあっち!」
《うん、オッケー》
進路を変え、わたしたちは地上すれすれを飛ぶ魔物たちの真上に陣取った。
爆裂魔杖を持ったわたしは、魔物たちが進む先の地面に爆裂魔法を打ち込む。
地面に落ちた爆裂魔法が破裂すれば、大量の土が巻き上げられ、魔物たちにかぶさる。
下から上から土をかぶった魔物たちは、分かりやすく動きを鈍らせた。
ここに戦闘機と無人戦闘機たちが光の弾の幕を張り、魔物たちはあっという間に霧と化していく。
これでわたしとチトセは、ふたつの魔物の群れを壊滅させた。
無線機からはリディアお姉ちゃんの声が聞こえてくる。
《さすがチトセちゃんとクーノちゃんね。そんな二人に、現在の戦況を教え――あら、敵が近づいてきたわ》
《そっちは私に任せてぇ》
《お願いね、フィユ。で、現在の戦況を教えるわ。騎士団の護衛はエヴァレットさんたち第1炎龍隊と第3飛龍隊のおかげで順調だわ。ただ、ルミールさんが単騎で敵地に突っ込んでいっちゃって、居場所が分からなくなっちゃったのよ》
「おお~! いつもの師匠だ~!」
《クーノとルミールさんって、いろんな意味で似た者同士だよね》
《ええ、チトセちゃんの言う通りだわ。まあ、ルミールさんのことだから、クーノちゃんと一緒で心配しなくていいわね。戦況は全体的にこっちが優勢で――》
言いかけて、リディアお姉ちゃんの報告が中断する。
何かあったのかな?
「どうしたの?」
《今、ライラから飛び立った無人偵察機の情報が入ったわ。第3飛龍隊に6体のドラゴンが迫ってきてるみたいね》
《例の謎のドラゴン部隊?》
《その可能性が高いわ。だから、注意してちょうだい》
もしかして『紫ノ月ノ民』のドラゴン部隊のことかな。
だとすると、第3飛龍隊がちょっと危ないかもしれない。
前の戦いでは、謎のドラゴン部隊に第三飛龍隊が苦戦してたもんね。
でも大丈夫。今回はわたしたちがいる。
「心配しないで、リディアお姉ちゃん! わたしとチトセがいれば、敵なしだよ! そうだよね、チトセ!」
《まあね》
《あら、頼もしいわ》
「早く行こ! 謎のドラゴン部隊、わたしたちでやっつけちゃおう!」
《うん、ボッコボコにしちゃおう》
おお~! 今日のチトセはやる気満々だよ!
よし! 急いで謎のドラゴン部隊を退治しよう!
わたしたちは魔物の群れを味方に任せ、第3飛龍隊が集まる空へと駆けた。
目的地に到着するまで、それほど時間はかからない。
ただし、謎のドラゴン部隊が目的地に到着するのも、それほど時間はかからなかったらしい。
「あっちに紫のペイントをつけた6体のドラゴンがいる! あれが謎のドラゴン部隊かな?」
《だろうね。あいつら、加速したまま第3飛龍隊の背後に突撃してる》
「ってことは、もしかして――」
とっさに頭に思い浮かべた悪い予感は、すぐに現実のものとなった。
謎のドラゴン部隊は背後から炎魔法を第3飛龍隊に浴びせかけ、減速しないまま龍騎士さんたちの合間を高速ですり抜けていく。
それは、本当に一瞬の出来事。
気づけば謎のドラゴン部隊は、第3飛龍隊の正面にいた。
魔物たちとは比べ物にならない洗練された動きに、第3飛龍体は翻弄されたみたい。
炎魔法のいくつかは龍騎士さんに命中し、何人かの龍騎士さんが地上に落ちていった。
「第3飛龍隊、何人か落とされちゃった!? けど、謎のドラゴン部隊、旋回せずに離れていくよ」
《あれ、一撃必殺を狙った攻撃だね》
敵をクールに分析するチトセ。
対照的に、トリオンの熱い言葉が遠話魔法に混ざり込んだ。
《待て臆病者! 栄えある龍騎士として、必ず仲間の仇を取らせてもらう!》
怒りを隠すことのないトリオンは、そのままドラゴンを加速させた。
「あ! トリオンが単騎で謎のドラゴン部隊を追っていく!」
《そんな無謀な……》
「このままだとトリオンが危ない! わたしたちも行かないと! ユリィ!」
「がうぅ~!」
《ちょ、ちょっと!? クーノ、待って!》
助けられる人は助ける。
わたしは炎魔杖を握りしめ、ユリィは勢いよく翼をはためかせた。
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