第17話 ふたりでもふもふ
護衛任務を終えたわたしたちは、師匠とエヴァレットさんの2人と別れ、ライラに帰ってきた。
甲板でユリィから降りれば、わたしは背伸びをする。
「今日も楽しかったな~」
夕焼けに染まった空を眺めれば、さっきまでのことが遠い過去のように思えてくる。
早くあの空に戻れればいいのに。
そう思っていると、フィユが何気なくわたしに言った。
「魔泉封鎖作戦の準備もぉ、順調そうだねぇ。6日後にはぁ、魔泉封鎖作戦を決行できそうだよぉ」
「それってつまり、6日後にもにチトセと一緒に飛べるってことだよね! やった~!」
あの空に戻れるだけで、わたしは飛び跳ねたい気分だ。
というか、実際に飛び跳ねた。
フィユはいつもの苦笑いを浮かべると、ポケットから取り出したお菓子を食べはじめる。
少しして、チトセとリディアお姉ちゃんも甲板に降りてきた。
チトセは戦闘機から離れようとしない。
リディアお姉ちゃんはパイロットスーツを緩め、胸のあたりを開放的にしながら、わたしとフィユに手を差し出した。
「クーノちゃん、フィユちゃん、これから一緒にお風呂に入りましょ」
「おお~! いいね~!」
「賛成だよぉ」
「ほら、チトセちゃんも一緒に行きましょ」
「私は戦闘機を――ちょっとクーノ!? なんで私の手を握る?」
「なんでって、チトセをお風呂に連行するためだよ」
「連行って、私はなんの罪も犯してないんだけど」
「チトセは大きな罪を犯してる! それは、わたしたちと一緒にお風呂に入らない罪だよ!」
「初耳の犯罪なんだけど!」
ぐだぐだ言い続けるチトセを引っ張りながら、わたしたちはお風呂へ直行した。
*
お風呂に入り、夕食を食べ終えれば、みんなで自室に戻る。
でもわたしはパジャマに着替え、格納庫に向かった。
ライラの複雑な通路に迷いながらも格納庫にたどり着けば、うとうとしたユリィが待ってくれている。
「こんばんは、ユリィ」
「がうぅ~」
「今日は久々に飛んだから、眠そうだね」
「がう、がうぅ~」
大きなあくびをするユリィの頭を撫で、わたしは夜空を見上げた。
夜空に浮かぶのは白ノ月。
闇夜にぽっかりと穴があいたような光景は、とてもキレイ。
だけど、わたしが一番キレイだと思ったのは、夜空や白ノ月ではなく、戦闘機に寄りかかったチトセだった。
白ノ月明かりに照らされ、陰影のある凛とした顔立ちのチトセに目を奪われながら、わたしは無意識のうちに彼女に話しかける。
「ねえチトセ」
「うん? ああ、クーノ、こんばんは」
「質問、いいかな?」
「別にいいよ」
「じゃあ、どうしてチトセは戦闘機のパイロットになったの?」
戦闘機パイロットとは、つまりは軍人だ。
とてもキレイなチトセが、どうして軍人になったのか。
この質問に、チトセは少しだけ黙り込む。
黙り込んだ時間は本当に少しで、すぐにチトセは夜空を見上げながら答えた。
「私の家系、何代にも渡って戦闘機乗りだったんだ。だから私も、自然な成り行きでパイロットになったんだよ。特に私が元いた世界、戦争続きだったし」
「そうだったんだ」
「でもね、私はパイロット、好きだよ。大好きな戦闘機に乗って世界や宇宙を飛べるなんて、パイロットの特権だから」
「その気持ち、わたしも分かるな~」
空を飛ぶようになった理由は違っても、空を飛ぶ楽しさはよく知っている。
やっぱりわたしとチトセ、気が合うんだね。
チトセの答えに満足したわたしは、いつの間に寝ちゃったユリィのお腹に体を預けた。
わたしの体はもふもふの中に沈んでいき、わたしは今日も幸せ気分に。
そして今日もチトセは、ユリィのもふもふに埋もれていくわたしをじっと見つめている。
もしかして――
「ねえねえ、チトセもユリィに埋もれる?」
「……いいの?」
「もちろんだよ!」
「じゃあ……」
すたすたとユリィのそばにやってきたチトセは、ゆっくりとユリィのもふもふに体を預けた。
「お邪魔します」
わたしの真横で、チトセはどんどんともふもふに埋もれていく。
彼女の表情からは、クールさが完全に抜けていった。
「ふわぁ、思った以上にもふもふ」
「でしょでしょ!」
「ここ、あったかいね。あっという間に眠くなってきた」
そう言ったチトセは、大きなあくびをする。
わたしは空を眺めながら、思いつくままの言葉を口にした。
「ねえチトセ」
「うん?」
「これから一緒の空、もっとたくさん飛べるんだよね」
「そうだね」
「ということは、これからは空を飛ぶのがもっと楽しくなるね」
「うん」
「わたし、チトセと一緒に生活できるなんて夢みたいで――って、あれ? チトセ寝ちゃった」
すぐ隣にある子供みたいな寝顔を見て、わたしも大あくびをしてしまう。
いきなり寝ちゃったからか、チトセはお布団をかけ損ねていた。
だからわたしは、チトセに自分のお布団の半分をかぶせ、そして目をつむる。
「おやすみなさい」
夜空の下、ユリィのもふもふの中で、わたしとチトセは夢の中へ。
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