第15話 わたしたちが揃えば最強!
しばらく古都上空を旋回していると、遠くの空に魔法が飛び交う。
あれはエヴァレットさんたちと魔物の群れの戦いがはじまった証拠だ。
戦いがはじまってすぐ、紫の霧がそこら中で拡散する。
どうやらエヴァレットさんたちは、早くも魔物たちを圧倒しているらしい。
ただ、それでも全ての魔物の進行を食い止めることはできず、数十匹の魔物たちが古都上空に向かってきた。
魔物がこっちに向かってくるのを確認したチトセは、さっそく戦闘開始。
《中距離ミサイル発射》
報告と同時、チトセの戦闘機の機内と翼下から、6つの細長い筒――ミサイルが飛び出した。
ミサイルは迷わず魔物たちに殺到し、大きな爆発で空を盛り上げる。
わたしも光魔杖に魔力を込め、光線で魔物たちをなぎ払った。
おかげで数を減らした魔物たちは、それでもこっちに向かうのをやめない。
ここでチトセの戦闘機が加速し、魔物たちへ突撃する。
「チトセ!? どうして突撃――そっか!」
わたしはユリィを加速させ、爆裂魔杖を手にし、チトセから距離を取りながら、それでもチトセを追った。
少し先を飛ぶチトセは、魔物の群れの前でわざと左旋回、魔物たちに背を向ける。
魔物たちは我先にとチトセの戦闘機を追った。
チトセの戦闘機の速さなら、魔物なんてすぐに振り切れるけど、チトセは加速をしない。
加速をせず、チトセはわたしとユリィの前を横切る。
「よおし! チャンス!」
機を逃さずユリィを左旋回させた時、わたしの目の前を魔物たちが通り過ぎていった。
旋回を終えれば、魔物たちはわたしの正面だ。
わたしは爆裂魔杖を起動する。
「うりゃあ!」
打ち出された魔法は魔物たちの中心で炸裂、火球が魔物たちを吹き飛ばした。
ユリィは翼をたたみ、炎と紫の霧を突っ切る。
「やった! 魔物たちを倒した~!」
《いい連携だったね》
「うん! やっぱりチトセと一緒に飛ぶの、楽しい! もっと魔物、来ないのかな?」
《護衛任務中の人のセリフじゃないよね、それ》
「あ! 見て見て! また魔物が来た~!」
《龍騎士の反応じゃないよね、それ》
楽しいことは楽しいんだから仕方がない。
わたしとチトセは急いで新手の魔物を倒しに向かった。
ちょっとでも空を進めば、あと少しで新手の魔物を攻撃できる位置に。
ここで、魔物たちは古都から逸れた方角に針路を変える。
思わずわたしは首をかしげた。
「あれ?」
《どうかした?》
「なんか、あの魔物たちの動き、わたしたちを誘ってるような……」
わたしの直感がそう告げている。
すると、ユリィが翼をバサバサさせて叫んだ。
「がう! がぁうがう~」
「ホントだ! 雲の向こうに魔物の群れがいる!」
空を遮るような巨大な雲の向こうに、大量の赤い印が浮いている。
あれは明らかに眷属さんたちがつけてくれた印だ。
眷属さんが、わたしたちに隠れた魔物の居場所を教えてくれたんだ。
ほぼ同時、チトセも口を開く。
《リディアとこっちの無人機からも、雲の向こうの魔物たちの情報が届いたよ。規模からして、雲の向こうのが本命、さっきの魔物は罠だね》
「魔物たちが罠を仕掛けてくるなんて、はじめてのことだよ」
基本的に知能が低い魔物たちが、意外なことを仕掛けてきた。
とはいっても、罠は見破ったんだし、わたしたちがやることは決定済み。
「チトセ! 囮の魔物には長距離攻撃だけやって、すぐに本命の魔物たちを倒そう!」
《だね。それが良さそう》
ということで、わたしは光魔法を、チトセはミサイルを囮の魔物たちに投げつけた。
光魔法とミサイルの着弾を待つ前に、わたしたちは本命の魔物たちのもとへ。
きっと今頃、魔物たちは雲に隠れて油断してるはず。
これは好都合だ。
逆に、わたしたちが雲を利用して、魔物たちを奇襲しちゃおう。
わたしたちは一切の躊躇もなく雲の中へ。
視界が白に染まっても、わたしたちはスピードを緩めない。
雲を突き抜ければ、醜怪な魔物たちのお腹がキレイな青空に並んでいるのが見えた。
わたしは爆裂魔杖を突き出し、魔力を込める。
「ええい!」
杖の先から放たれた魔法は、チトセの戦闘機から放たれた光の弾と一緒に魔物を襲った。
爆発と光の弾が数匹の魔物を倒すと、魔物たちはようやくわたしたちに気がつく。
だけど、魔物たちがこっちにくる前に、わたしたちは魔物の群れを突破し高空に飛び出た。
「ユリィ!」
「がう!」
手綱を思いっきり引いて、ユリィは宙返り。
正面に魔物を捉えればユリィは急降下し、わたしは爆裂魔法を連射する。
真下、そして真上からのわたしの攻撃は大成功。
魔物たちはあっという間に半分まで数を減らした。
急降下を続ければ、わたしはまた魔物の群れを突破し、魔物たちは今度は後方に集まる。
「よおし、追ってきたよ! ユリィ、もう一度上昇!」
「がう、がうう!」
ユリィが角度を上げ速度を緩めれば、わたしを追う魔物たちも速度を緩める。
そうして動きが鈍くなった魔物たちを襲ったのは、少し遅れて急降下をはじめたチトセの戦闘機だった。
轟音を鳴らし急降下する戦闘機からは、大量の光の弾が飛び出す。
大量の光の弾は次々と魔物を霧に変えていった。
撃ち漏らした魔物も、さらに遅れてやってきた無人戦闘機や眷属さんの餌食に。
魔物を退治し水平飛行に戻ったチトセは戦況を口にした。
《この辺りの魔物は完全に撃退。囮の魔物たちはルミールさんが撃退。魔物の本隊はエヴァレットさんが撃退。リディアとフィユによると、付近に魔物はなし。避難民の被害ゼロ。これは完勝だね》
「うんうん! 楽しい空にわたしたちの負けはなし、だもんね!」
《楽しい空に負けなし、か。たしかにその通りかも》
「おお~! チトセが同意してくれた!」
喜びのあまり、わたしはユリィを宙返りさせる。
ユリィは呆れたように「がうぅ」と言うけど、表情は優しいままだった。
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