第16話 獣人国内の化かし合い
高山に着いて僕は驚いた露天掘りの鉱山で剥き出しの山肌の大きな穴の中にかなりの水が溜まっておりいかにも有毒そうな色合いをしていたのだ。
近くに穴を掘っていた獣人を監視している人族の商人に雇われた男らが見えた、僕は隠密を使いそっと近づき会話を耳にする、
「ここも鉱床を掘り尽くしたらしい、次の場所を掘り出す必要があると聞いたぞ」
と一人が言うと
「ああ分かっている、この辺りはいい鉱床が沢山あるようだしまた騙して安くで掘り出すんだろう」
と別の一人が答える、すると気の弱そうな男が
「でもよ、あの水溜まり見るとかなり悪い水が混じっているよな、街でも具合に悪い子供がいると耳にしたし・・・これでいいのかな」
といえば他の者達が
「いいに決まっているだろ、馬鹿な奴らは毒の水を飲んどけばいいんだよ」
と笑いながら答えていた。
どうやら毒が混じった水が漏れ出ていることは知っているようだ。
僕はさらに奥に向かい精製している場所に向かった。
金属を選り分ける精製の際に有毒な薬品を使う事は地球でもあったことだ、多分ここでもそうして有毒な水銀が漏れ出ているはずと当たりをつけて商品を管理する建物に忍び込むと数人の人族が話をしていた。
「ここの鉱床も掘り尽くしたようだ次を決めよう、5日後に今年の契約交渉がある出来れば年ごとより5年単位で契約するのがいいのではないか?」
一人の男が言うと
「いや今のままでいい。そろそろ病人が出始めている毎年契約先の商会が変わればどこで毒が出始めたか、誰の責任か分からないそれで良いんだよ」
とニヤニヤしながら偉そうな男が言うのを他の男らも頷いて見せる。
いつの時代も何処でも利益だけを追求し他人を思ぬ輩はいるもんだな。と思いつつ僕はそっとそこを離れる、今まで見聞きした様子は魔法で保存しているこれを見せることも考えながら開発の必要性を確認していった、結果獣人族は鉱床から取れる鉱石を全く利用しておらずさらに利権の金額も屁のようなものと分かりまた僕は無知が人を殺す事を感じた。
「やっぱり教育は大切だ!どうにかせねば。」
そう呟きながら僕が街に戻ると従者の神父見習いケインと回復士カイトが報告してきた
「使徒様、病人についてはあの薬で十分間に合いそうです、巡回教室についても教会の神父やシスターが週一で良いなら行うと約束してくれました」
と良い話を聞かせてくれた
「ご苦労だったね、5日後もその調子で頼むよ」
と労を労いながらこの獣人族の中の膿を出すことにした、人族の商人だけが甘い汁を飲んでいるはずはないきっとこちら側にも居るはずだ。
その後王城に上がると王に面会を行いこう言った
「鉱山を見てきましたがこのままでは民が苦しむだけのように見えました、もう少し調査する必要がありますが今度の契約更新は考える必要が有りそうです」
とよく分からないが悪いものがありそうだと匂わすような話を切り出し契約の続行を考え直すべきではと忠告して城を出る、すると案の定僕の後をつける者達の雰囲気が変わった。
その日の夕方獣人族の宰相の使いと言う者が宿に現れ
「明日の夜使徒様を招待したパーティーを開きたいと仰せです、迎えの馬車をやりますのでどうぞご参加ください」
と要件を言うと去っていった、宰相が黒幕なのか?
城に上がった際に見かけた上層部の獣人を思い出すと
・獅子の国王
・狐の宰相
・熊の軍務大臣
・狸の財務大臣
・・・虎の王妃
が居たな、明日のパーティーで分かるかなと思いながらその夜は更けていった。
「今回は何か人間の汚い部分が目立って仕方がないな」
と落ち込む気分を忘れるように僕は眠りについた。
ーー 狐と狸が虎の顔色を伺う
その夜とある料理屋に怪しげな三人が揃った、
「明日の準備は終わりました」
狸が虎の女に報告すると咥えていた煙管から煙を吐きながら
「分かりました、それで本当に大丈夫なのですよね」
と狐を見ながら虎が言うと狐じじが
「お任せあれ、噂ほど強くないようですが1人聖騎士が面倒そうです、そちらは別の名目で別の場所に連れてゆくので大丈夫です」
と答えると肥った狸が
「商人共から薬を手に入れておいて良かった、暗部の手配も終わっております確実に仕留めますがその後始末はお願いしますよ」
と狐ジジイに言うとお互いニヤリと笑った。
次の日の午後迎えが来る寸前にエストレーナ宛に使者が来た、
「ご高名な聖騎士様に我が王国軍に指導を是非い願いしたいのですが」
というものであった、エストレーナが僕の顔を見ながら
「どうしましょう?使徒様のそばを離れることになりますが」
というのを笑顔で
「貴方の力を存分にお見せしなさい、存分にね」
と意味ありげに答え送り出した。
その後暫くすると城からの迎えが来て馬車の人となる僕、城に着くと何かと理由をつけ従者とも離れる
『本気で来たようですね』そう思いながら僕はパーティー会場に足を運んだ。
本日のパーティーは宰相の主催で王妃が来賓として招かれていた、僕の紹介が行われ参加者から大きな歓声をいただいた、宰相を見ると狸と何か話をしていた
「役者が揃ったようですね」
そう思っていると飲み物や食べ物が僕のテーブルに並べられ乾杯の音頭でパーティーが始まる、飲み物に口をつけると何かの味がしたが僕は状態異常無効の為どんな毒が入っているかわからないそこで挨拶に来た数人に分からないように飲み物や食べ物を混ぜてやりその様子を観察するとどうやら痺れ薬と眠り薬のようだ。
僕はスプーンを取り落としたりしながら船を漕ぎ始めるすると狐が
「使徒様にはお疲れのようです一旦退席してもらいましょう」
と言いながら数人の男らに僕をパーティー会場から別室に運び出させた。
男らは暗部の者のようで匂いや顔がわからないような格好をしていた。
その後僕は地下室のような場所に移動させられさらに薬を飲まされた。
夜になると数人が武器を手に現れ僕の首を切り落とし心臓を貫いてとどめを刺していた、僕は分身でそっくりな僕を作ることができるのだがそれ自体行動は難しいが毒で動けないというケースならバレることもない、隠密を発動しながら男達が命令者に報告に向かうのを待ち後をつけると男に一人が僕の分身の首を袋に入れある場所に向かった。
「待っておったぞ首尾はうまく行ったか?」
肥った狸が男に尋ねると男は無言で首の入った袋をテーブルの上に置いた、中身を確認する狸と狐ジジイそこに虎女が現れ
「どうじゃ」
と聞くと二人は袋を見せながら
「問題ありません後は従者らを始末するだけです」
と答えていた、僕は『しまった』と思った僕やエストレーナであれば問題なかったが従者らは危ない。
そっとその場を離れた僕は従者達を探すと僕の監禁されていた地下牢のすぐ近くの部屋で眠っていた従者達を見つけホッとしながら転移で始めの集落に馬車ごと転移しそこに残して王都に転移した。
丁度エストレーナが僕を探して街中を走り回っているのに気づき
「エストレーナ、慌ててどうしたの」
と声をかけると僕の体を確認してホッとしていた。
僕はエストレーナに王国軍の指導を聞くと
「どうも私のことを始末したい様子で本身で切り掛かってきましたが200人全てを殴り倒してきました、しかしその間に使徒様達の行方がわからなくなったと聞いて心配していました」
と言うのに「従者達は助けてクー達の集落に預けてきたよ僕に毒が効かないのに動けないと思い首まで切り落として確認していたよ」
と言うとエストレーナが激怒し始めたので落ち着かせ今後の作戦を話し合った。
「何?聖騎士殿がワシに用があると・・使徒様の行方は分かったのか?」
王が宰相の狐に尋ねると
「使徒様は従者と姿を消しております、聖騎士殿とは仲違いを起こしていたようです」
と答えさらに
「お気をつけください聖騎士殿は何か目的があってお会いするようですのでお言葉を信じられませんように」
と念を押していた。
「お目通りいただきありがとうございます」
エストレーナが王に挨拶をする王が
「使徒様は何処に居られるか分かりましたかな」
と問えばエストレーナは
「ご心配いただきありがとうございます、使徒様のことは問題ございません2日後の承認との話し合いは私が引き継いでおりますその時にはよろしくお願いします」
と言いながらそっと手紙を手渡した、王は驚きながらも何かを感じ懐に手紙をなおした。
ーー 2日後
獣人側の出席者は狐に狸と国王、商人側は昨年までの商人と今年からの承認の3人ずつの6人で脇にエストレーナが座っていた。
商人らはエストレーナの存在に不安を感じながら
「昨年はこれだけの儲けが出ましたお納めください、今年は新たにこの3人の商人が契約を結びますが問題なかったでしょうか?」
と言うのに狸が
「確かに確認しました、来年もこの調子で採掘権を納めてください。これで良いでしょうか?」
と王の言葉を待つ、すると狐も
「問題ないようですね」
と追い打ちをかけるその時エストレーナが席を立ち
「国王よ一つ商人に聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
と声をかけた王は静かに頷く
「貴方らにお聞きします、このビースト王国に最近病が流行りそれが鉱山の毒によると言う情報がありますが本当ですか?」
と言うエストレーナに昨年まで契約していた商人の一人が
「そのような話は全く有りません、証拠でもおありでしょうか?」
と答えるのにエストレーナがポケットから取り出したガラス瓶をテーブルに置き
「これは鉱床の穴に溜まった水です確認したところ水銀毒が見つかりましたこれを身体に取り入れると流行病によく似た症状が出るのですがそれも知らぬと」
と詰問するエストレーナに狸が
「聖騎士殿これは我が国の問題です、余所者が口を出すことではないでしょう」
と言うのを王が制し
「民が苦しんでいるのであれば聞き捨てならぬ、この話はここまで明日今一度席を設けよう良いな」
と話し合いを終わらせ席を立つ国王、
「お待ちください国王」
狐が呼び止めるがそのまま立ち去る国王を見ながら狐がエストレーナを睨みつけ
「聖騎士殿我が王国転覆の疑いあり捕縛させてもらいます」
と言いながら兵士を呼びつけた、しかし兵士らはエストレーナを恐れ近付かないその様子を見ていた商人らも逃げるに逃げられず困っているといつの間にか後に少年が姿を現し
「貴方達の悪事は露見しています、この国から手をひきなさい引かないのなら天罰が降りますよ」
と声をかけた、その様子を見て驚いたのは狐と狸
「何故、生きている」
と信じられぬと呟くと少年がオッドアイの目を向け
「私の首はどうでしたか?神に弓引くお前達に明日は来ないよ」
と言うと雷撃を落とし瀕死にすると商人らに向かい
「お前達の悪巧みは既にバレている獣人の慰謝料を支払いこの国から手を引け良いか!」
怒りの言葉に全身に雷を纏うカムイを目にした商人らは泡を吹きその場に倒れ伏した。
エストレーナに対し僕は
「その二人を縛り上げ王の元に向かう」
と言いつけ僕は王城の王の執務室に向かった、国王は王妃を伴い僕を待っていた
「国王よ約束通り、この国の癌を見付けましたもう一つの癌もここで削除してください」
と言いながらエストレーナが縛り上げた二人を転がし王に決断を迫ったその頃王妃は顔色を失っていた
「何故貴方が・・生きているの・・何故」
と言う言葉を聞き国王は決心したらしく
「王妃よ、神に弓引く其方に弁解の余地はないワシの王の座をさろう」
と言いながら騎士を呼びつけ王妃共々二人を牢に捕らえた。
ーー 面白くない結果に一つだけ残したものとは
その後商人との契約は反故にされ慰謝料と原状回復が約束されて今回の問題は終了し、国王は次の日公開闘技に出ないと宣言した。
その間に僕は王国内を巡りいくつかの源泉を見つけていた、そう温泉だ。
獣人は衛生面で文化が低いそこで僕は温泉を掘削して共同風呂を作ることを提案したのだ、ビースト王国内に10余、土魔法を使い1日3分ずつ掘り進め承認からもらった慰謝料で建築材と職人を雇い一月もせず温泉施設を作り上げたのだ。
これから先ビースト王国内に広がる温泉文化が衛生面の意識改革にプラスになることを願いつつ僕は旅を続ける為ビースト王国を後にした。
後に温泉と言うとビースト王国と言われるほど有名になったがそれはかなり後のこと。
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