第21話 FILE01 女学園バラバラ死体事件-13

 あまりに美しいミカの半裸だが、いつまでも見ていると、また怒られてしまう。

 プランダラーをさっさと倒してしまおう。


 倉井はパワー&再生型だ。

 一見厄介そうに見えるが、倒す方法はいくらでもある。

 主任にも頼まれているし、ミカの参考になるような戦いをしたいものだ。


 最も簡単なのは、ガードされようがお構いなしの出力で、細胞を一つ残らず消滅させることだ。

 手持ちの魔術で簡単にできるが、こちらの世界の人間には、難しいだろう。

 次に有効なのは、毒だ。

 再生型は新陳代謝も早いので、毒がよくまわる。

 強い毒をもっていれば、即死させることも可能だ。

 だが、象を一瞬で仕留めるような毒物を、常時持ち歩くのは、使う側も危険なことが多い。

 ミカは毒が専門ではないだろうし、参考程度にしかならないだろう。


 ふうむ……これでいくか。


 俺は土からケイ素を取り出し、即席の針を用意した。

 続いて毒を生成し、針の先に塗布する。

 本当は相手の体内で直接毒を生成する方法もあるのだが、傍から見て何がお起きているかわからないからやめておく。


 俺は手首だけの動作で、針を倉井に向けて投げた。

 それに反応した倉井は、手のひらで針を止める。


「その針には毒を仕込んだ。

 どうにかしないと、死ぬぞ?」


「くっ! 卑怯な!」


 倉井は迷わず自分の腕を、引きちぎった。

 どの口が卑怯とか言うのやら。


「だめだわ。毒も奴にはきかない!」


 沈んだ声を上げたのはミカだ。

 まあ見てろって。

 俺は2発目の針を、再生中の腕に撃ち込んだ。


「無駄だ!」


 倉井は再生した部分を、再び引きちぎった。


「そうかな?」


「な……ぐ……からだが……しびれ……」


 倉井はその場にゆっくりと崩れ落ちた。


「てっきり針をたくさん撃つ作戦だと思ったのになんで?」


 今のミカからの「なんで?」は、なぜたくさん撃たなかったのかと、毒が効いたのかという2つの疑問だろう。

 倉井を魔力の糸で拘束しながら、疑問に答える。


「それでもいいんだけどな。

 消耗戦になる場合も考慮して、武器はできるだけ節約する癖をつけておきたい。

 2回目の毒が効いたのは、再生中だったからだ」


「……?

 あ、なるほど。

 再生するってことは、細胞分裂を高速で繰り返してるってことよね。

 だから、異物もまた早く取り込んでしまうと」


「そういうことだ。

 ミカは賢いな」


 褒めてやると、ミカは「えへへ」と笑みを浮かべた後、照れたこと自体が恥ずかしかったのか、ぷいっと横を向いてしまった。

 タイプによっては、毒素の排出が早すぎて使えないヤツもいるのだが、それはまたの機会でいいだろう。


「く……こんな……こんな糸なんて……!

 ち、ちぎれない!?」


 痺れから回復した倉井が、身をよじるも、身動きが取れないでいる。

 ちなみに、両手両足を縛った上に、体育座りの格好でぐるぐる巻にしている。


「その糸は、一本で城をまるごと持ち上げられる強度があるんだ。

 まともな手段じゃ、絶対切れない」


「は? 何言ってんの?」


 信じてないなあ。

 本当にやったことがあるんだが。

 あのときは、城に部下を入れたまま、まるごと持ち上げた。

 勇者達の驚く顔が見ものだったな。

 別に倉井に信じてもらう必要はない。


「せっかくの生きたサンプルだ。

 有効に使ってくれ」


「サンプルって……」


 ミカは俺の物言いに少し引いているようだったが、本部に連絡をとってくれた。

 すぐに、迎えが来るだろう。


 組織は、プランダラーの死体や捕縛したサンプルを研究している。

 それは、ミカが使っているスーツにも応用されているようだが……。

 これを言うと、ミカはショックを受けるだろうから、黙っておこう。

 俺も見ていて気付いただけで、説明を受けたわけじゃないしな。


「早く殺して。

 あの娘にも捨てられ、美しさも失った……。

 私をバカにしたあなた達を殺すこともできない。

 死んだ方がましだわ」


 本当に死んだほうがマシだと思うのは、これからだろう。

 それは、彼女が犯した罪への罰として、受けてもらう。

 だが、被害者の名誉のために、1つ訂正しておかなければならない。


「キミは柳さんに捨てられたと思っているだろうが、そうじゃない。

 彼女がキミの昔の写真を大事に持っていたことに、疑問はわかないのか?」


「私の醜かった頃を思い出したから、私を捨てたんでしょう?」


「それじゃあ、あの1枚だけを大切に持っている理由にならないだろ?」


「じゃあなんだっていうの」


「本当にわからないのか?

 彼女は、キミよりもずっと前から、キミのことを好きだったんだ。

 いや、正確には美しさに過剰にこだわる前のキミがね」


「そんなことあるはずない!

 メイクした後! 整形した後!

 誰だって美しくなった後の方が好きよ!」


「そういう人も多いだろう。

 でも彼女は違った。

 ありのままのキミが好きだったんだ。

 よくある話じゃないか。

 でもキミは、自分のコンプレックスと他人の評価ばかりを気にして、変わってしまった。

 彼女がキミを捨てたんじゃない。キミが彼女を捨てたんだ」


「嘘よ!」


「彼女は高校で再会したときから、キミのことに気付いていた」


「そんな素振りかったわ!」


「いいや、気付いていたよ。

 入試でトップ合格を果たした彼女は、入学前に学校に1つ願いごとをしている」


「なによそれ……」


 これは、ミカにこっそり調べておいてもらったことだ。


「中学で出会っていたキミたち二人が、たまたま寮で同室になるなんてあると思う?」


「運命の出会いだって思ったわ。

 ……まさか」


「そう。柳さんの願いは、寮で同室にしてもらうこと。

 彼女、入試会場でキミを見かけた時に、すぐ気付いたんだ」


「そんな……入試の頃にはもう、私は今の姿になってたのに……」


「彼女はずっと待っていた。

 本当のキミが戻って来るのをね」


「…………」


 倉井は唇を噛み締め、押し黙った。


「これで事件解決、かな?」


「そうね」


 ミカは唇を尖らせつつ、しぶしぶ頷いた。


「不満そうだな」


「ほとんどあなたの手柄じゃない」


「推理と洞察、あとトドメはね」


「ほらやっぱり!」


「でも、情報収集はミカの方が早かった。

 何より、俺だけで処理できる物量には限界があるからね。

 ミカがいなかったら解決できなかったし、いてくれてよかったよ」


「ほんとに……?」


 ミカはちょっと拗ねたような、それでいて嬉しさを隠せない表情で見上げてきた。

 しっぽが生えていたら、きっとぶんぶん振られていることだろう。


 一人で解決できなかったというのは嘘だが、助かったというのは本当だ。


「あらためて、俺の相棒になってくれないか」


 その一言で、ミカの顔がぱぁっと明るくなった。


「いいわよ。でも逆ね」


「逆?」


「私の方が先輩ってこと」


 そう言うと、ミカは「こほん」とわざとらしく咳払いをすると、両手を腰に当てて、胸をそらせた。

 大きな胸が、俺の学ランの下でぷるんと揺れる。

 あと、めっちゃパンツ見えてるからな。


「左端愁斗! あなたを私の相棒に任命します!

 末永くよろしくするように!」


「下手なプロポーズみたいになってるぞ」


「プロ……バッカじゃないの!?

 まだそういう関係じゃないでしょ!?」


「まだ?」


「くぅ~~~~っ!」


 ミカは顔を真っ赤にして唇を噛み締めた。

 これ以上いじめるのはかわいそうだな。


「ごめんごめん。

 よろしくな、センパイ」


 そういって差し出した俺の手を、ミカはほっぺを膨らませながら、がっしりと握りかえしてきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る