第16話 FILE01 女学園バラバラ死体事件-8
「これで、今までわからなかった動機が見えてきたな」
「どういうこと?」
俺のセリフに、疑問の声を上げたのはミカだ。
「まず前提として、彼は被害者にツールの機関部分の開発を依頼していた」
「さあね」
肩をすくめる天ヶ崎だが、目を見ればわかる。
YESだ。
「とぼけるのは自由だが、肯定として進めるぞ。
被害者が殺される直前、データのやりとりが止まってたろ?
彼女がデータ――この場合は、ソースコードだね。
その受け渡しをしぶったか、報酬のつり上げを依頼してきたか……とにかくなにかトラブルがあったんだろう」
「それで、データを受け取るために殺した?
もし彼が『奴ら』だとしたら、それくらいの動機があればやるわね」
そういうことだ。
ただ、彼は動画配信で十分儲けているため、今更金のために危ない橋を渡るかという疑問は残るのだが……。
「おいおい、待ってくれよ。
たしかに結構な金になるのは認めるけどさ。
それで殺人なんて割に合わないよ」
「あなたが普通の人間ならそう考えるでしょうね」
「人を異常者みたいに言わないでくれよ」
殺人の犯人じゃなかったとしても、そんなツールを作らせてる時点で、正常ではないと思うが。
こいつが人間なら犯人じゃない。
ウソはついていない。
だが、プランダラーは「お前が犯人か」という質問には、ウソが上手いという。
もしかすると、罪悪感がゼロだからかもしれない。
普通なら、ウソをつく罪悪感や焦りと、人を殺したというプレッシャーで独特の反応がでるものだ。
殺人犯かと問われると誰でも緊張する。
彼らはウソをついているという反応を、その緊張による反応に紛れるくらい小さくできるのだろう。
それに、主任や学校で倒した山田の話から察するに、プランダラー同士が裏で繋がっているようだ。
どの程度の絆があるのかはわからないが、相互扶助を目的とした集まりなのか、誰かサポートする有能なやつがいるのか……とにかく、何かしらの繋がりを持って訓練を行っているのだろう。
参加率は個人によりそうだが。
「自分でプログラムを組もうとは思わなかったの?
そうすれば、こんなややこしいことにはならなかったでしょう?」
ミカの疑問も最もだが、答えはわかってる。
「僕は他にもプロジェクトを複数抱えていてね。
さすがに自分で全てやっていては、手が足りないのさ」
そういうことだ。
どんなに優秀な人間でも、一人でやれる物量には限界がある。
ならば、他人に任せられる部分は、任せてしまうしかない。
これ以上、犯人かどうかを問い詰めても無駄だな。
「じゃあ質問を変えよう。『チップ』と聞いて、何かピンとくるか?
……ふむ、あるんだな」
「やれやれ、君に隠し事はできないな……。
おそらく、『プログラム銀行』のチップだ」
なんだそりゃ?
「噂は聞いたことあったけど、実在したのね」
ミカが驚きの声を上げた。
「へえ……噂を聞いたことがあるだけでもたいしたもんだ。
あそこは超一流のプログラマーしか、存在すら知らない」
「ミカはプログラマーなのか?」
「そうとは呼べないわね。ちょっとITに詳しいだけよ」
彼女の言葉は自信でもあり、謙遜でもある。
自分の力量を正確に測れているようだ。
それだけの知識があるということか。
「で、その『プログラム銀行』ってのは?」
「プログラムソースのスイス銀行のようなものだ。
ちょっとした関連画像や資料くらいなら一緒に保存できる。
どこからもハッキングされない。
それでいて必ず秘密は守られる。
かつ、ネットワークにも接続できる。
世界最高のセキュリティを持った、データ保存機関さ。
アクセスに専用のチップとリーダーが必要なんだ」
俺の質問に答えたのは天ヶ崎だ。
「リーダーはどれだ?」
「これだね」
天ヶ崎が取り出したのは、500円玉のようなコインだった。
よく見ると、ケーブルの接続口があるが、市販の規格ではないものだ。
一見してカードリーダーとはわからない。
「たしか、被害者の部屋に残されてたな」
俺は記憶の中にある被害者の部屋を思い出す。
机の引き出しに入っていた。
「犯人は見つけられなかった……いや……」
「そもそも、リーダーの存在を知らなかったということ?」
「そういうことだ。
チップの存在は知っていても、リーダーの存在は知らない。
つまり、『プログラム銀行』と契約はできない程度だが、IT業界に詳しい……。
ある程度の腕はあるが、そこまでではないプログラマーということか。
ミカ、学内でプログラムに詳しい者をリストアップしてくれ」
「わかったわ」
「注意してほしいのは、成績上位者だけをピックアップするわけじゃないということだ。
犯人はわざと実力を隠している可能性がある。
テストの点数は低くても、実技でわざとバグをだしたりしつつも、ソースコードの書き方が独特かつきれいなヤツも探してほしい」
「今から? タイムリミットに間に合わないわよ」
タイムリミットという単語に天ヶ崎は首を傾げた。
これが全て演技だというならたいしたものだ。
逆にここに来てから、後半の会話にウソがなさ過ぎる。
それが怪しくもあるか……。
「実技テストのソースコードを全部入手してくれ。
これから学園に移動する間に、俺がチェックする」
「あなた、ソースコードを読めるの?」
「いや、さっぱりだ。
だからレクチャーしてくれ」
「はあ? それこそ今から覚えたって間に合わないわよ」
「要点だけ教えてくれればいい。
問題はソースコードの違和感に気づけるかどうかなんだ」
「あなたの能力ならって思っちゃう……。
わかった。やってみましょう」
「相棒に恵まれててうれしいね」
「急に褒めても何もでないわよ」
「本心だよ」
魔王時代に一時、右腕として信頼していた参謀を失ったことがある。
あの時が、魔王軍一番のピンチだった。
チームや組織にとって、ナンバー2の実力は、本当に大切だ。
「そういえば、被害者がプログラマーだなんていつ気付いたの?
データのやりとりをしてるからって、プログラマーだとは限らないでしょう?」
「PCのフォルダーの整理方法がプログラマーっぽいってのもあったが、何よりデータの削除方法が的確だった。
スマホもな。
あそこまで痕跡を消すことができるのは、相当腕のいいプログラマーだけだ。
あとは予測からくるかまかけだったんだけど、天ヶ崎の反応で確信できたよ」
「こいつはまいったね。
だが、二度とこんな失態はおかさないよ」
天ヶ崎はどこか嬉しそうだ。
「そもそも、そんな機会が来ないことを願うさ。
じゃあ行こうか」
犯人である確率が限りなくゼロになったとはいえ、天ヶ崎に妙な動きをされても困る。
俺がここを離れてから組織の人間が来るまでの間は、眠っていてもらおう。
俺は天ヶ崎に睡眠の魔術をかけて眠らせると、学園へと向かった。
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