第342話 決着を付けるわよ、駆君
シュリーゼの告白に周囲の仲間も黙り込んでいる。半信半疑の内容だが駆の反応はそうだとしか思えない。
「マスター、今のは本当ズラか?」
そこでポクが恐る恐る聞いてくる。
「ッ」
質問に、しかし否定出来ない。悔しくて、辛くて、駆は顔を逸らすことしか出来ない。
「いや! 今のはそういう意味じゃなくてズラ。オイラは別に」
ポクが必死にフォローしてくれるがその優しさは今辛いだけだ。
泣きそうだった。軽蔑される。せっかく出来た仲間なのに。こんな自分を知られたくなかった。
だが、彼女は違う。
「あなたは殺戮王と呼ばれるのに相応しい。ですがあなたはまだその力と素質を自覚しただけに過ぎません。その力を使いこなし、己の才能を解放しなければ宝の持ち腐れです」
彼女はむしろ望んでいる。駆が己の欲望を受け入れ殺戮に臨むことを。
「あなたにはまだ躊躇いがあります。人として生まれたことの性がそうさせるのでしょう。善と悪の狭間であなたは苦しんでいる。しかしそれも時間の問題です。人は魔人融合や悪魔契約を行うことで魂の容量、そこに悪魔の分が入り込み人間性を圧迫します。あなたが殺戮王の技を使い悪魔を使役すればするほどあなたは殺戮王に近づいていくのです」
駆は顔を横に振る。そんなことはさせない。ならない。
「前魔王、アスタロトを倒した時はお見事でしたね。その興奮と余韻はあなたを大きく変えたのでは?」
が、その言葉に黙る。言い返したいのに反論出来ない。あの時、自分は間違いなく殺戮王に飲み込まれていた。挑発してきた蜘蛛男を論ずるのではなくいたぶることに興奮を覚えていた。
「デビルズ・ワン。この儀式であなたの力と才能のさらなる開花を望みます。殺戮王の活躍に期待しています。それでは」
そう言うとシュリーゼは目礼をしてから姿を消していった。
明かされた真実の重みに駆は黙り込む。気分も重苦しくなにをすれば、みなになんて言えばいいのかも分からない。
なにもしないまま数秒が経過する。
そんな駆を見かねたようにヲーがそっと近寄った。
「マスター、とりあえず城に戻ろう。みなの様子も気になる」
彼の言うとおりだ。駆は小さく頷く。
ヲーはガイグンに目配せし互いに頷く。ガイグンを残してみなは指輪に戻りガイグンは背を低くする。駆は背に乗り走り出した。
不死王軍の侵攻は退けた。それは吉報だ。だが先行きはまだ暗いまま。
殺戮王の誕生。それは悪魔の福音か、人類の滅亡か。
少年は、暗闇の中にいた。
*
マグマがたぎり至るところで噴火している。地熱で溶けた鉱物が高温となって吹き上がる。自然の猛威が繰り広げられる山脈の中、一つの城は厳然足る佇まいで建っている。火山とマグマに周囲を囲まれた白色の城。そこに一体の悪魔が慌てて駆け込んできた。門を通りエントランスに入るなり大声で叫ぶ。
「千歌様! 千歌様はいらっしゃるか!?」
それは駆から撤退した増援の隊長だ。先遣隊が一瞬で全滅した場面を目撃した彼は戦慄した表情で城内を走っていく。
エントランスから玉座の間へと入っていく。広く絢爛とした空間の奥には王が座る椅子が一つ置いてある。
そこに、彼女は座っていた。
千歌は赤いドレスに身を包んでいた。スリットのあるタイプで膝上でスカートの丈は半分に分かれ足を組んでいる。膝置きに肩肘を付き入ってきた悪魔をつまらなそうに見つめている。
「千歌様、ご報告が」
「言ってみて」
階段状になっている最上段から千歌は悪魔を見下ろす。
「旧アスタロト城へ侵攻した部隊ですが、全滅しました。倒したのは人間の少年です。彼の技、おそらくは即死系の最上級呪文」
悪魔は片膝を付き頭を垂れながらさきほどの出来事を話していく。目撃した内容に今も表情は戦々恐々としており、恐怖の中重い口を開く。
「彼の者は、殺戮王です」
「そう」
しかし、恐るべき内容にも関わらずそれでも千歌に変化は見られない。起こした仕草は視線をわずか斜め下に動かしたことくらい。
「駆君、戦う気なのね」
思いを馳せる。かつて友として一緒に過ごした少年へ。
「一花さんのため、か」
彼がなんのために戦うのか、彼が悪魔召喚師になると覚悟した時に立ち会っていたから知っている。彼は一花のために戦っている。自分が殺した彼女のために。彼を救おうとした彼女のために。
「世界のためでなく、仲間のために戦うか。彼らしいわね」
その思いを知っている。しかし、だからといって譲る気はない。
千歌は悪魔に視線を戻し目つきを鋭くする。
「彼は正式に私たちの敵となった。全軍に通達。殺戮王は敵だ。好戦を許可する」
「は!」
悪魔は声を返し玉座から出て行く。
千歌は一人残され、その瞳に戦いの炎を宿らせていく。
「決着を付けるわよ、駆君」
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