第235話 くらえ! シルヴァニアスの異能! トリニティ・デストラクション!

「これは」


 つい声が漏れる。


 見るだけで圧倒される。この竜が放つ破滅的なオーラ。その迫力に心は竦み体が固まる。


 強い。見るだけで伝わる。その存在感に全身が痺れるくらいだ。


「これが俺が扱う悪魔の中で最強を誇るドラゴンだ。これを出した以上、俺に負けはない」


 律が自信を覗かせる。背後ではシルヴァニアスが君臨し鋭い視線を向けてくる。


「でも、まだ負けたわけじゃない!」


 しかしだからといって諦めるわけにはいかない。


 日向はミリオットを構えた。それに合わせ此方と香織もスパーダを構える。どれだけ相手が強大な敵でも三人も強力なスパーダだ。香織の防御もあるし此方の弱体化、日向の火力もある。上手く立ち回れば勝てないはずがない。


「いいや、お前たちの負けだ」


 だが、律は不敵な自信とともにそう突きつける。


「シルヴァニアスには恐るべき能力がある。こいつが召喚された時、一人の時を止め、一つの異能を封じ、そして! 一人を即死させる!」


「そんな!?」


「なんですって!?」


「三つの能力を同時に?」


 シルヴァニアスが雄叫びを挙げる。己が最大の力を発揮せんと猛っている。


「終わりだ! 俺は一つ目の能力で日向! お前の時を止める!」


 彼が日向を指さす。


 日向が持つミリオットは強力だ。放っておけばシルヴァニアスすらも打倒するほど増大する危険性がある。だがシルヴァニアスの能力で止めてしまえば問題ない。その後でゆっくり倒してしまえばいい。


「そんなことさせない! ディンドランには異能を無効にする能力がある。それで時間停止はさせないわ!」


 しかしそれをみすみす見逃すわけがない。


 香織はディンドランを掲げ日向を庇う。


「ならば第二の能力を発動する! そのディンドランの効果は無効だ!」


「そんな」


 だがみすみす見逃さないのは敵も同じ。第二の能力、異能の無効化でディンドランを無効化してきた。これでは時間停止は有効となり日向の時間は止められてしまう。


「そして第三の能力! 即死の能力で、此方! お前には死んでもらう!」


「く!」


 そして最後の標的が定まった。


 シルヴァニアスが誇る三つ目の能力。対象を選びその生命を停止させる即死技。

 

 この一連のやり取りでディンドランは封じられ日向の時間は止まり此方は死亡する。


 実質的なスリーキル。残るのは無防備な香織と日向、そして遺体となった此方だけだ。


 律は腕を横に切り、必殺の能力を悪魔に命ずる。


「くらえ! シルヴァニアスの異能! トリニティ・デストラクション!」


 言葉の後、シルヴァニアスの全身から青の波動、赤の波動、黒の波動が放たれる。それぞれが時間停止、異能無効、即死を持つ最強の同時攻撃だ。


 それに、為す術がない。


「お姉ちゃん!」


「此方ちゃん!」


 敵の能力を前に二人が叫ぶ。


 此方はシルヴァニアスを見上げていた。カリギュラを握っているが発動しても遅い。


(ここで、死ぬの?)


 どうすることも出来ない攻撃にただ見つめることしか出来ない。迫り来る死を眺め、なんとかしたいと思うが浮かばない。


 終わる。その前に此方は目を瞑った。


(聖治!)


 もうすぐ自分は死んでしまう。そんな最中。


 最後に浮かべるのは彼のことだった。


 彼との思い出が、走馬燈となって蘇っていく。


「ディンドラン!」


 瞬間、迫り来る三つの波動を桃色の巨大なベールが防いでいた。


「え?」


 目を開ける。



 自分たちと律、その背後に浮かぶシルヴァニアス。


 その間に一人の少年が立っていた。背中を向けて、片手を伸ばしスパーダを宙に浮かべている。スパーダはピンクに光りレンズ状のベールが四人を覆っていた。


「聖治君!」


「聖治さん!


「聖治……」


 その後ろ姿に唖然となりながらもつぶやく。


 剣島聖治。彼女らの仲間がそこにいた。


 彼が振り向く。


「すまない、遅くなった」

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