第135話 22
悪魔は人間よりも強い。それは下級悪魔と呼ばれる部類であったとしてもその強度や生命力は人間を遙かに超えている。どんなに鍛えた人間でも頭に銃弾をくらえば死ぬが悪魔は一発くらいなら平気で活動してくる。それくらい肉体に違いがあるんだ。
それが三体。ただでさえ地力で負けているのに数でも不利。俺は悪魔たちの攻撃を掻い潜りながら隙を探していく。しかし空中を含めあらゆるところから襲いかかる悪魔たちにうまく反撃出来ない。
「ふふ」
そんな様子を彼女は笑っていた。余裕の表情で戦いを見つめている。
「なんだ、たいしたことないじゃん。私たち以外に普通じゃないやつがいるからどんなのかと思ったけど。これなら邪魔にもならないか」
敵の攻撃を払う。俺は視線を彼女に向ける。
「ずいぶん得意げなんだな」
「ん?」
「さきほど練習と言っていたがお前はこの力をなにに使うつもりなんだ?」
悪魔を使役し戦う力。いいことであるはずがない。嫌なことが起こる予感、それが胸を埋め尽くしていく。
「ふん。それは秘密。言うわけないでしょ」
「それともう一つ」
「?」
彼女の表情がなにかと歪む。
「私たち、だと? お前みたいなやつが他にもいるのか?」
「ち」
「いるんだな」
俺が抱く嫌な予感。それは目の前の彼女もそうだがさきほど言っていた言葉。私たち。それなら彼女だけでなく他にもいるということだ。複数の悪魔召喚師。それがなにかをしようとしているなんて見過ごせるはずがない。
彼女がしまったという顔をする。だがすぐに俺をにらみ付けてくる。
「だったらなに? ここで死ぬあんたには関係ないでしょ!」
彼女の叫びに合わせ悪魔が突撃する。速い。しかも三つ。
悪魔たちは強い。一体だけでも人間の何倍はある。
だが、負けるわけにはいかない!
「ミリオット!」
ホーリーカリスの光が一層輝く。
ミリオットの真価は増幅。それで体の強度を上げている。それでも足りないならばさらに上げるまで。
ミリオットの光が俺を強くする。迫る黒の異形、迎える白き刀身。二つが交わる!
「ギャアア!」
悪魔が叫んでいる。俺に突き出した腕は肘から先がなくなっており地面に転がっていた。腕は灰となって宙に消えていく。悪魔の一体がやられたことで他の二体が躊躇っている。俺はスパーダを振るい彼女を見つめた。
「へえ、やるじゃない」
三体いる内の一体は戦闘不能。にも関わらずその表情に焦りは見えない。むしろ勝ち誇ってさえいる。
「でもねえ、それでいい気になるのは早いわよ! 私はライフを払い、傷を回復する!」
「なに?」
彼女の体に赤い線が浮かび上がる。直後斬られた悪魔の傷が塞がり始め完全に治っていた。
「無駄よ、どんなに頑張ろうと悪魔召喚師ならすぐに治せる。一人で戦うあんたじゃ最初から分が悪いのよ」
なるほど。認めるのも癪だが彼女の言う通りだ。
悪魔召喚師とはただ悪魔を召喚するだけじゃない。悪魔の補助もこなす存在なんだ。悪魔が戦い召喚師がサポートする。たとえ一人の悪魔召喚師だろうとチームとして戦うことが出来る。俺たちスパーダとは戦い方が根本的に違う。
「終わりにするわよ、この勝負私がもらうわ」
彼女が腕を前に出す。それに合わせ三体の悪魔が正面から襲いかかる。一瞬でも気を抜けばすぐさに八つ裂きだ。だが俺だって負けていない。ミリオットの増幅はさらに俺を強くしている。たとえ相手が三体だろうが遅れは取らない。
スパーダを構え、迫る悪魔を迎え撃つため振りかぶる。
瞬間だった。
『ドウシテ』
「!?」
蘇る。
『ナンデ、オレバカリガコンナメニアワナクチャナラナイ』
過去の記憶が。
『ドウシテ、ヒトリデタタカワナクチャナラナイ』
その時の感情と共に。
『スベテガイヤダッタ。スベテガクルシカッタ。スベテガニクカッタ』
長い積年の負債。それが一瞬の間にフラッシュバックする。過去の情景が浮かぶ。
かつての俺が、一人で泣いていた。
『モウイヤダ!』
心が縛られる。涙が、溢れていた。
『カノジョダケハ、タスケルトキメタンダァアアア!』
体が、動きを止める。
「もらった!」
しまった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます