第131話 18

「そんなの当然じゃん」


 日向ちゃんからの返事に顔を上げる。彼女はそう言ってくれた。


 日向ちゃんに続いて此方も口を開く。その顔は落ち着いている。


「らしくない真似しなくても、分かってるわよ、それくらい」

「ま、だわな」


 此方もそう言ってくれて安心する。


「うん。僕も同じ。聖治君を嫌いになるなんてこと絶対にないんだなぁ」


 星都の隣で力也もそう言う。そう言い切る表情に迷いや躊躇いはない。


「うん……」


 元気はないが、香織も小さく頷いた。


 みなからの返事を聞いて星都も頷いた。


「ありがと。俺たちになにができるのか、それはまだ分からない。でもはっきりしてることが一つある」


 これからどうするのか、仲間である聖治を苦境から救うためになにをするか。


 答えは分からないけれど、出来る限りのことをしようと星都はみなへ呼びかける。


「それは、諦めないことだ。俺はあいつを見捨てない、諦めない。今は無理でもいつか治る時がくる。その時まであいつを支えてやろう」

「うん」

「そうね」

「僕もそう思うんだな」


 そう言って星都は席を立った。


「言いたいことはそれだけだ。それじゃ出るか、話も終わったしな」


 聖治の立たされている状況。それを共有できた。それだけで要らぬトラブルは減るはずだ。


 全員席を立ちカウンターへ向かっていく。そこで星都は日向に声を掛けた。


「日向」

「ん?」


 立ち止まり二人はみなと離れる。


「さっきは強く言って悪かったな」

「べ、別に気にしてないし」

「そうか」


 それだけちょっと気になっていたのでとりあえず言っておく。


「ねえ」

「ん?」


 今度は日向ちゃんの方から星都へ話しかけてくる。


「私も、聖治さんのことは好きだから。その、一応」

「……そうか」


 心配しているのは自分だけじゃない。それは日向ちゃんもそうだし、他のみんなもそうだ。それを聞けて星都は少しだけ口元を持ち上げた。


 そこで会計をしようとしている先行組を見つけ星都が走り出す。


「いいよいいよ、ここは俺が払うわ」


 そして全員分の支払いを済ませ店を出た。


 カランカランと扉の鐘が鳴る。店の前に立ち仲間が出てくるのを待つ。みんなその表情は真剣だ。


 最後に香織が出てくる。その顔は未だに俯いていた。


「香織?」


 心配し此方が尋ねる。


「大丈夫?」


 泣き止んだとはいえ香織はまだ落ち込んでいる。きっと誰よりもだ。すぐに立ち直れるはずがない。


 けれどこのままじゃいけないと思ったのか口を開いた。


「そうだよね。泣いてる場合じゃないよね」


 このままじゃいけない、泣いてちゃいけない。罪悪感を使命に変えて自分を納得させていく。


「聖治君は、私のせいで苦しんでるようなものなんだから。私がしっかりしないと。私が支えてあげないといけないよね。私が聖治君を追いつめたんだから、私が」

「香織」


 それがあまりにも辛くて、悲しくて、此方は駆け寄ると彼女の肩を掴んだ。


「自分を追いつめないで。自分を責めちゃ駄目よ」

「でも、だって」


 弱気な彼女の顔を真っ直ぐと見つめる。


「聞いて。いい? 聖治がああなったのは香織のせいじゃない。あいつを襲った悪魔のせいよ。そうでしょう? あんたのせいじゃないし、あんたはなにも悪くない。悪いのは全部悪魔のせいよ。自分を責めるのは違うわ」


 此方からの力強い声と優しい言葉。それは否定できない説得力があって、嫌が応にも伝わってくる。


 誤魔化した心すらも、その言葉は破いていった。

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