第8話 スパーダ

 自信を滲ませて言う彼女だが星都はまだ信じていない。

 俺はこの目で見ているがそうでない二人は仕方がない。


「沙城さん、ここでそれを見せてくれないか? たぶんそれが一番早い」

「でも」

「ここなら他の棟からも見えないよ。目立たないようにすれば大丈夫だから」

「聖治君が、そう言うなら」


 彼女は心配しているようだがなんとか了承してくれた。

 沙城さんは片手を胸に当てた。目をつぶり、厳かな声で告げる。

 雰囲気が変わった。なんだろう、緊張感が一気に走りつい身構えてしまう。

 沙城さんは目を瞑り、祈るようにしてその名を告げた。


「きて、守護剣・ディンドラン」


 つぶやいた後、それは彼女の正面に現れた。

 一瞬光が発したかと思えば、そこには一本の剣が浮いていた。

 西洋の剣だった。刀身がピンク色をしておりかなり珍しい剣だと思う。


「マジか!」

「す、すごいんだな~」


 彼女はそれを手に取る。その輝きに目を奪われる。

 魔法剣、スパーダ。これが普通のものとは違うというのが感覚的に分かる。

 なにより、この剣には物騒な感じが一切しなかった。剣なんてナイフよりも怖いはずなのに、彼女が持っていてもそうした印象がまるでない。

 むしろ癒されるようだ。桃色の光はどこか優しく、見ているだけで落ち着いてくる。


「これが私のスパーダ。ディンドラン。スパーダは念じることで出したり消せたりできるだけど、それだけじゃなくて固有の能力を持っているの。私のスパーダは回復とか防御が得意かな」


 彼女の説明を聞きながらディンドランをまじまじと見つめる。星都と力也も目が釘付けになっていた。


「これ、俺たちも出せるのか?」

「うん。セブンスソードが始まった今なら出せるはずだよ」

「マジかよ!」


 星都がおおはしゃぎで驚いている。なんだか楽しんでないか、こいつ。


「念じる以外にやり方は?」

「特にこれといってないはずだよ。ただ剣を出そうと念じれば出せるから」

「おいおいマジかよ~」


 そうは言いつつも期待してるのが分かる。星都は目をつぶり片手を胸に当てた。

 まさか、本当に? 沙城さんを疑うようで悪いが念じただけで剣が出てくるのか?

 星都の様子を固唾を飲んで見守る。出来るのか、出来ないのか。見ているこっちが緊張する。

 星都は真剣な顔で念じているようだが、そこで眉間にしわが寄った。


「? どうした?」

「これは……」


 なにか引っかかることが?

 星都は胸に当てていた拳を解き前へと伸ばした。

 そして、慎重に触れるように、その名を告げた。


「来い、光帝剣・エンデゥラス」


 瞬間、星都の正面に光が現れ、消えるとそこには一本の剣が浮いていた。


「おお!」


 本当に出てきた!

 星都の剣も沙城さんと同じく西洋の剣だった。全体的に水色がかったデザインをしている。


「やったな星都! すごいじゃないか!」

「星都君すごいんだなぁー!」


 成功した星都を俺と力也が祝うが当の本人は剣を持ち眺めるだけで黙っている。


「……お、おお」


 どうやらいろいろ通り越しているみたいだな。

 そりゃそうだ、こんなこと自分でも出来たんだ。驚きとか特別感とかわき上がる感情がたくさんある。俺も悔しいが羨ましさを感じてる。


「よ、よっしゃー!」 


 遅れて星都が飛び跳ねた。その場でガッツポーズを取ると出したばかりのスパーダで素振りする。その感触を確かめるように。その様は飛行機のおもちゃで遊ぶ子供のそれだ。


「あ、あの! そんなに振り回しちゃ。危ないし誰かに見つかったら」

「ああ、わりいわりい」


 沙城さんから言われ星都は落ち着くがまだ興奮醒めやらぬといった感じで顔がまだ輝いている。


「じゃあ、僕もやってみるんだな」


 すると今度は力也が試すために目をつぶる。スパーダを出すために集中している。 


「おう力也、先輩である俺が伝授してやってもいいんだぜ?」

「説明は力也も聞いてたんだから必要ないだろ」


 さっきまで半信半疑だったやつがもう先輩面かよ。

 力也の表情に小さなヒビが入る。なにか掴んだようだ。

 それをたぐり寄せるように、力也は告げた。


「くるんだな、鉄塊王、グラン!」


 力也の叫びのあと、それは光の中から現れた。

 力也の正面には緑色の大剣が浮いていた。でかい。力也の身長くらいあるから百八十センチ以上はある。力也は恐る恐る大剣に手を伸ばした。


「力也、気をつけろよ」


 剣のことは詳しくないがただでさえ重いんだ。こんなの持つどころか押しつぶされてもおかしくない。


「う、うん」


 力也は緊張した面もちで柄を両手で掴み、自分へと引き寄せた。


「あれ?」

「ん? どうした?」


 固くなっていた力也の表情がなくなり、むしろ不思議そうに大剣を見つめている。

 それから、片手で大剣を持ってみせた。


「おおお! マジかよ力也、お前そんな力持ちだったのか。今までただでかいだけだと思ってたぜ!」

「星都君ひどいんだなぁー」

「星都はちょっと黙ってろ。それよりも力也、それ重くないのか?」


 百キロや二百キロは余裕でありそうなものだが。力也は片手で軽々持ち上げている。


「それが、まったく重くないんだなぁ」

「まったく?」

「んだよ、見かけ倒しかよ」


 力也はうちわをゆっくり扇ぐように大剣を振っている。力也の言うとおり重くはないようだ。それにがっかりしたように星都が刀身の横に手を伸ばす。


「駄目!」


 それに沙城さんが叫ぶが星都の手は揺れる鉄塊王、グランに触った。


「いってぇえええ!」


 星都の手が弾かれる。まるでバットで殴られたようだったぞ!

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