第44話 暴れるソフィ ※ユーリside
王都へ向かう馬車には、ウォルターとソフィ、リゼットの侍女のネリー、そして俺の四人で乗り込んだ。本当は一人で馬に乗って行きたかったのだが、背中のケガを心配したウォルターに止められてしまったのだ。
しかし俺は今、いくら背中の痛みがひどくても、馬で行けば良かったと後悔している。
「なんで私を王都へ連れ戻すのよ! わざわざこんな辺鄙なところまで一人で来たんだから! 絶対に戻りたくないわよぉぉっ!!」
「ソフィ嬢。いい加減に静かになさらないと、騒音で馬車が壊れてしまいそうです」
大抵のことには苛立たずに対応するクールな執事のウォルターですら、ソフィ・ヴァレリーへの対応には嫌気が差している。
ロンベルクに到着した直後はリゼットが身なりを整えてやり、丁重に扱っていたらしいのだが、リゼットが王都へ出発した途端にソフィは地下シェルターに移された。
……ずっと閉じ込められていたから、体力が有り余っているのだろうか。
ソフィにはヴァレリー伯爵夫人へ毒を盛った疑いがかけられており、ウォルターからソフィにその件も説明済みだ。普通は自分がこれから裁かれるのだと知れば大人しくなりそうなものだが、彼女はこんな狭い馬車の中でも金切り声を上げながら暴れている。
たった数日間の旅なのに、ノイローゼになりそうだ。
「……ソフィ嬢。ハッキリ言おう。少し静かにしてくれ、うるさいんだ!!」
「ちょっとアナタ! レディに向かってうるさいとは何なの?! 私はリカルド・シャゼル様の妻になるために来たのよ。アンタみたいな貧乏くさい男、大っ嫌い! 話しかけないで!」
「びっ……貧乏くさ……い?」
「ユーリぼっちゃま、落ち着いてください。大丈夫です、決して貧乏くさくはございませんよ」
狭い馬車の中で、ソフィが髪を振り乱して俺に飛び掛かってくる。しかし、いくらケガをして動きが鈍くても、騎士の男に勝てるわけがないのだ。馬車の安全を優先するために、ロープでくくって動けないようにして座らせた。
頭をブンブンと大きく振って、黒い髪の毛で俺を攻撃してくる。痛くもかゆくもないが、子供じみた抵抗にあきれてドッと疲れが押し寄せた。
「ソフィ嬢、君たちがヴァレリー伯爵夫人に毒を盛ったことは調べがついている。少し大人しく黙って反省したらどうなんだ?」
「私は毒なんて知らない! 私が犯した罪なんて、お父様に黒髪であることを黙っていた程度の小さいことよ。それ以外には何にも悪いことしてない!」
「髪を染めていたのか?」
「そうよ、ドルンからアルヴィラという花を粉末に加工したお茶が毎週送られてくるの。私はただお母様に言われて、それを飲んで髪の色を変えていただけ。でもそのアルヴィラだって、この前魔獣が現れて取れなくなったから届かなくなったんだもの! 今の時点で私の罪はゼロ。毒なんて知らない。黒髪のままではお父様に会えないから、王都へは連れて行かないで!」
俺が口にして翌朝銀髪になった、あのアルヴィラか。ソフィはアルヴィラでわざわざ自分の髪を銀髪に染めていたということか。
主治医を名乗っていたドルンの染物屋の男。ドルンの染物屋なら、確かに原料としてアルヴィラを取り扱っているに違いない。あの男の家から、アルヴィラとドルンスミレをヴァレリー伯爵家に取り寄せていたのだろうか。
ドルンでは魔獣の影響で森に入ることが禁止されてアルヴィラが手に入らなくなり、ソフィの髪を染めることができなくなったということだろう。
「私は悪くない! リカルド・シャゼル様の正式な妻なんだから、ロンベルクに戻してよ! リカルド様を出しなさいよ、この貧乏男!!」
リゼットがロンベルクに来る前は、毎日こんなにうるさい妹の相手をしていたのかと思うとゾッとした。このうるさい口で、どれだけリゼットに罵声を浴びせたんだろう。その辺にある石でも拾って、ソフィの口に突っ込んでおきたい気分だ。
数日後、王都についた時には、俺の耳は限界を迎えていた。
国王陛下からソフィ・ヴァレリーを連行するように指示を受けている。ウォルターを通じてリカルドと連絡を取り、今日の謁見の場にリカルドも出席することは確認済みだ。
王城内に入って緊張したのか急に静かになったソフィを連れ、俺たちは謁見の間に向かって長い廊下を進んだ。
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