第24話 よちよちドラゴン②

 見事なお庭を見て回っていると、お庭の片隅でうずくまっているメイドさんを見つけた。栗色の髪をしたメイドさんだ。どうしたんだろう?


 僕は蹲っているメイドさんに近づいていく。もしかしたら、体調不良や気分が優れないのかもしれない。そしたら大変だ。


 僕たちの足音に気が付いたのだろう。蹲っていたメイドさんが振り返った。その顔色は良さそうに見える。その淡い茶色の瞳が僕を見つけると、メイドさんがすくっと立ち上がって一礼した。


「これはルー様。お見苦しいところをお見せしました」

「ウーウー」


 僕は首を振って“気にしないで”と伝える。見たところ、メイドさんは立ち上がってもフラついたりしてないし、平気そうだ。でも、なんでこんなところで蹲っていたんだろう?


「ルー様、あまり彼女のお仕事を邪魔してはいけませんよ」


 仕事?


 よく見ると、メイドさんの足元には、緑のこんもりとした山ができていた。あれってもしかして、雑草だろうか?


 どうやらメイドさんは、蹲っていたのではなく、しゃがんで雑草を抜いていたらしい。体調不良とかじゃなくて一安心だ。


「クー」


 “がんばってね”と鳴いて、僕はメイドさんから離れることにした。僕が居ても、メイドさんに気を遣わせちゃって、メイドさんのお仕事の邪魔にしかならない。


 それにしても、メイドさんってお庭の手入れまでするんだね。メイドさんってもっと優雅なお仕事のイメージがあったけど、いろいろ大変そうだ。


 その後もお庭を散策してて気が付いたんだけど、このお庭、どうやらシンメトリーに造られているみたいだ。噴水のようなモニュメントを中心に、木や像の配置や花の種類にいたるまで、全て左右対称になっている。


 たしかヨーロッパとかではシンメトリーの庭園が美しいとされていたし、この国でもそうなのかもしれない。


 お庭の散策に飽きた僕は、翼を羽ばたかせて、ぴょんぴょんジャンプして空を飛ぶ練習をしていると、クレアが話しかけてきた。


「ルー様、そろそろ姫様のお勉強が終わりますので、お部屋に戻られるのはいかがでしょうか?」

「クー!」


 僕は1も2もなく頷くと、アンジェリカのお部屋に向かってよちよち歩き始める。



 ◇



 アンジェリカの部屋に戻ると、アンジェリカはすでに部屋に居た。


「クー!」

「姫様、ただいま戻りました」

「ルー」


 アンジェリカは僕を見ると花が咲くような笑みを見せる。かわいい。


 アンジェリカは、席を立つと僕を抱っこしてテーブル席へと座る。僕はアンジェリか赤ちゃんのように横抱きにされた。


「今お菓子が来ますから、一緒に食べましょうね」

「クー」


 そう言って僕の頭を優しい手つきで撫でるアンジェリカ。でも僕は、どうしてもアンジェリカのお胸に視線が行ってしまう。だって目の前にあるんだもん。しかも、手を伸ばせば届くような近距離だ。アンジェリカのお胸はまだ慎ましいけど、ちゃんとドレスを押し上げて膨らみを主張している。


「ルー?」


 気が付いたら、僕のはアンジェリカのお胸に伸びていた。そのままもみもみとお胸を揉む。下着やドレス越しだけど、ちゃんと柔らかい。けど、弾力もあって、ずっと触っていたくなる柔らかさだ。


 でも、いきなりお胸を揉んだら、アンジェリカは怒るだろうか?


 僕は恐る恐るアンジェリカの顔を確認する。


「ルーったら、お乳が欲しいのかしら?」


 アンジェリカはお胸を触られているというのに微笑んでいた。なんだか母性を感じさせる柔らかい笑みだ。でも、その笑みはすぐに困ったような表情へと変わる。


「でも、ごめんなさい。わたくしはまだお乳が出ないんです」


 なんと、変態ドラゴンにお胸を揉まれているというのに謝る始末だ。アンジェリカ、なんて良い娘。


 怒られることはないと分かった僕は、大胆な行動にでる。アンジェリカのお胸を揉みながら、お胸のサクランボの位置を探し始めた。名付けて“サクランボ狩りゲーム”である。どこかな、どこかなー?


「ルー様、姫様、お待たせいたしました」


 サクランボ狩りゲームをしていると、お菓子をワゴンに載せたメイドさんがやって来る。


「さぁルー様、ちゃんとお席に座りましょうね」


 そして、クレアに抱っこされて、アンジェリカと離れてしまった。まだサクランボ見つけてなかったのに残念である。またの機会に持ち越しだ。


 クレアにイスに座らされると、目の前のテーブルにお皿が置かれた。


「こちらをどうぞ」


 これは……シフォンケーキだろうか?


 僕の目の前のお皿には、黄色い断面が美しい三角形のケーキのような物が置かれていた。シフォンケーキ、または分厚いホットケーキを三角形に切った感じだ。たしかにケーキではあるけど、お姫様が食べるケーキにしては、随分と素朴な印象を受ける。


「わたくしには、クリームとチョコをお願いします」


 アンジェリカがそう言うと、メイド長であるマリアがケーキに生クリームとチョコレートのソースをトッピングする。なるほど。シフォンケーキのようにトッピングして食べるタイプのケーキのようだ。


「ルー様はどうなさいますか?」

「クー……」


 クレアが僕に訊いてくるけど、言葉が喋れない僕には答えられない。すごくもどかしい。


「こちらの生クリームはいかがでしょうか?」


 僕の葛藤を察したのか、クレアが訊き方を変えてくれる。これならYES、NOで答えられるので僕も頷いたり、首を振ったりして意思表示できる。


 トッピングは生クリーム以外にもいろいろとあった。ジャムやチョコ、フルーツをお酒で漬けた物もあった。ラムレーズンの好きな僕は、生クリームとお酒で漬けた果物を選択した。このお酒で着けた果物、ルムトプフと言うらしい。


「ルー様、あーん」

「クァ―」


 朝食と同じく、クレアが“あーん”してくれる。美少女に“あーん”してもらえるなんて、本当に幸せだ。


「パクッ」


 美味しい。生クリームは、ちゃんとミルクの味がする動物性の物だし、ルムトプフは、けっこう強いお酒に漬けていたのか、強い酒精とちょっとの苦みを感じる。しかし、それだけじゃない。ルムトプフはフルーツを漬けたからか、フルーティな甘みを感じる。これ、好きな味だ。甘くてほろ苦いルムトプフを僕は一口で気に入った。


 そして、忘れてはならないのが、主役であるケーキである。ケーキ自体にも味は付いており、砂糖の甘さとバターの風味を感じる。そして、重い。シフォンケーキのような軽い物を想像していたけど、ずっしりと重いケーキだった。どちらかというと、シフォンケーキやホットケーキというよりも、パウンドケーキに近いだろう。ずっしりと重く、しかし、噛めばほろほろと崩れていくケーキ。


 ケーキの甘味とバターの風味。生クリームの濃厚なミルクの味。ルムトプフの甘くほろ苦いフルーティな酒精の味。それぞれがお互いの味を惹き立てて、口の中をいろんな味が巡り、舌を楽しませてくれる。美味しい。


「はい。ルー様、あーん」

「クァ―」

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