第23話 よちよちドラゴン

 僕は離宮の青い絨毯の敷かれた廊下をよちよちと2本足で歩く。その歩みは遅々としたものだ。足が短いからね。それに、長い尻尾もズルズルと引きずっている。ドラゴンの体は、2足歩行できるけど、2足歩行に特化したつくりになってない。どちらかといえば、4足歩行の方が得意だ。パパママドラゴンも4足歩行してた気がする。


 でも、まだ人間だった頃の習慣が抜けないのか、僕は2足歩行でよちよちと移動することが多い。4足歩行の方が早く移動できるけど、別に急いでないし、今日はこのまま2足歩行で移動しようと思う。


 2足歩行でよちよちと歩きながら、パサッと翼を広げて動かす練習もする。翼を動かすのは、ちょっとずつ慣れてはきたけど、まだぎこちない感じだ。早く空を飛んでみたいけど、まだまだ先は長そうだな……。


 そんなよちよち歩きの僕の後ろを2人のメイドさんがゆっくりと付いて来る。1人はクレア。金髪に大きな碧の瞳が特徴のハッキリした美人顔のメイドさんだ。もう1人はミーティア。赤毛にお空みたいな澄んだ水色の瞳をしたメイドさんだ。皆にはティアと呼ばれている。年はアンジェリカと同じかちょっと下くらいかな。14,5歳くらいだと思う。美人というよりも、どことなく猫を思わせるかわいい顔立ちのメイドさんだ。本当にメイドさんは美人ばっかりだぜ。アイドルグループ顔負けの美人集団だ。やっぱり、メイドさんの選考基準に顔の審査もあるんだと思う。そうじゃなきゃ、こんな美人ばっかり集まるわけない。


 廊下を2足歩行でよちよちと歩き、1つの扉へと向かっていく僕。実は今、この離宮の中を探索中なのだ。部屋の主であるアンジェリカが居ないのに、アンジェリカの部屋に居続けるのはちょっとどうかと思ったので、こうして部屋の外に出てきたという訳だ。


 僕が扉の前に立つと、すかさずクレアが扉を開けてくれる。僕じゃ扉が開けられないからね。小さすぎてドアノブに手が届かないのだ。


「クー」


 僕が“ありがとう”と鳴くと、クレアがニコッとしてくれる。


「こちらは姫様の衣裳部屋となっております」


 なんと、アンジェリカは衣裳部屋を2つも持っているらしい。さすが、お姫様だ。庶民とは格が違う。部屋の中には、所狭しとチェストや箱が置かれていた。衣裳部屋というよりも物置に近いイメージだ。アンジェリカの部屋から入れるウォークイン・クローゼットだった衣裳部屋とはなんだか雰囲気が違う。


「こちらは主に普段使わない服や、冬の服を仕舞ってあります」

「これから暑くなりますからね」

「そうですね。ですから、姫様の部屋にあるのは主に夏の服になります」


 夏服だけで1部屋、冬服だけで1部屋埋まってしまうほどアンジェリカは衣裳持ちらしい。


 そして、今さらりと重要なことを言われた。どうやらこの世界にも季節があり、これから夏がくるらしい。じゃあ今は春の終わり頃といった感じだろうか?


「衣替えが大変でしたね」

「たしかに大変でしたけど、これもメイドの務めですよティア」


 たしかに、これだけ大量の衣装を入れ替えるとなったら大変な作業だろう。メイドさんって大変そうだ。


「クー」


 僕は2人を労うように鳴くと、またよちよちと廊下を歩く。衣裳部屋に入っても仕方ないからね。


 こんな感じでどんどん離宮の中を探索していく。中には大量の雑多な物が置かれた本当の物置だったり、逆に何も置かれていない広い部屋だったり、昨日入った温泉だったり、食堂や厨房、メイドさんたちの部屋もあった。


 中でも驚いたのが、メイドさんたちの部屋だ。クレアとティアの部屋を見せてもらったのだけど、2段ベッドが2つ、クローゼットが2つだけある狭い部屋だった。この部屋を4人で使っているらしい。もう本当に寝るだけの部屋って感じだ。メイドさんってけっこうブラックな職場なのかもしれない。


 そんな感じで離宮を探索していた僕だけど、1カ所だけ入れない場所があった。それが応接間だ。


「只今、姫様がお勉強中ですので……」

「ルー様が入ってしまわれると、私たちが怒られてしまいます……」


 アンジェリカの様子は見たいけど、さすがに2人が怒られるのは可哀想だ。僕は応接間に入るのを諦めることにした。


「ルー様、お庭を見られるのはいかがでしょう?」

「とっても綺麗ですよ」

「クー」


 2人の案内で一度離宮から出てお庭へと行くと、そこには見事なお庭が広がっていた。刈り揃えられた緑の絨毯のような芝生。綺麗に四角く剪定された低木。季節の花々が美しく咲き誇り、花の良い香りが漂ってくる。お庭には、立派な大きな木や、石の彫刻まで置かれており、中央には噴水のようなモニュメントがあり、水が湛えられている。思ったよりも大規模なお庭だ。これはもうお庭と云うよりも庭園と云った方が良いかもしれない。拝観料とか取られそうな感じである。


 芝生の上をとてとて歩いて、お庭を見渡していく。芝生が足の裏や尻尾をチクチクする感触はちょっと気持ちが良い。このままゴロンと横になりたい気分だ。


「相変わらず見事なお庭ですね。先日、庭師が来たばかりですからまだ綺麗ですね」

「見事すぎて維持が大変ですけどね」

「それは言わないお約束よ、ティア」

「はーい」


 たしかにこれだけ大きな庭だと維持が大変そうだな。

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