niltuki

エリー.ファー

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 世界的な景気の悪化とかいう全く薄っぺらい言葉によって。

 僕らの青春は露と消えた。

 何もかも、最初からなかったかのように。

 渦のように流れ出ていく感動と煌めきは、一つの作品のように見えた。

 現代芸術というものが、社会においてどのような価値があるかはさっぱり理解できないが、いずれ分かる日が来るのかもしれない。

 その一部になった、僕ら。

 高校を卒業して大学に入学するまでの、なんということのない時間。

 無意味な足し引きは、完全に失われたはずのものに呼吸という奇跡を植え付けた。

 僕たちは、世界を恨むようになってしまった。



「ラジオネーム、けったいな犬さんです。どうやら、メッセージは特にないようですね。あの何か書いて送ってくださいね。お願いいたします」

「では続いてのお便りでーす。ラジオネーム、ポリ袋を被って走り隊さんです。メッセージはないということですね。」

「では、三つ目のお便りです。ラジオネーム、健全からほど遠いさんです。メッセージは、ないようですね。まぁ、この方はいつもメッセージないですもんね」

「もう一つ、読みましょうか。ラジオネーム、こんとんじょのいこさんです。メッセージは、書いてあったみたいですけど、消しゴムで消していて読めませんね。いやぁ、読みたかったなぁ」

「じゃあ、もう一つ。おまけにもう一つ、読んじゃいましょうか。ラジオネーム、バーキンキングスさんです。お、応援メッセージが書かれていますが、ちょっとお時間ということで、読めないですねぇ。ごめんなさい。ぜひぜひ、これからも送ってください」



 架空の出来事を日記として書く。

 それが現実に与える影響など皆無である。

 嫌になる。

 私は生きているのに、死んでいても変わらないのだ。

 まぁ、実際はそんなこともなく、前向きに生きているのだが。

 こんなことを日記に書いて何になるのか。

 分からない。

 自分に言い聞かせているということなのか。

 呪いに近い気がする。



「あの、このあたりに本を落としてしまったんです。知りませんか」

「あぁ、あそこにありますよ」

「あっ、違いますね」

「そうですか。では、こちらですか」

「これじゃあないですね」

「そうですか。そうなると、ちょっと分からないですね」

「思い出の本なんです」

「どんなタイトル何ですか」

「それも、忘れてしまって」

「一緒に落としてしまったんですね」

「えぇ、よくあるんです。最近は家にも帰れてなくて」

「奇遇ですね。私もですよ」

「大変ですよね」



 こんな会話、地球のどこを探してもないだろう。

 リアルなんて腐っている。

 私は現実へと架かる橋を錆びつかせてしまったのだ。

 この世界に浸って生きていくしかない。

 でも、意外と悪くない気もする。



「この日記。誰が書いたんですか」

「さあ。誰かがかいて図書室に置いていったみたいなの」

「内容は、まぁ、ぶっとんでますね」

「そうでしょう。なんていうか、妄想という枠組みからも外れているような気がしてくるの」

「そう思います」



 いつか、こんな会話はどこかで生まれる。

 誰も、私のことなんて知らないし。

 私がどんな人間であるかなんてどこを見ても推測できない。



 私はいないのだ。

 ここにいるだけなのだ。

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